No.117
モリヤ
コウジさん
額縁工房&ギャラリー アートスペースFLAT FILEオーナー
オーダーメイドの額縁が
絵の良さを際立たせる
文・写真 Takashi Anzai
いかに目立たずにいられるか
桜枝町にアトリエを構え、額縁を制作するモリヤコウジさん。
自身のことを額縁”職人”ではなく、「単なる額縁屋です」と称しますが、作品に合わせた丁寧な仕事ぶりは多くのアーティストから支持を集めています。
「ひとつひとつ手でつくるモリヤさんの額には、あたたかさと人間らしさがあります」(画家・越ちひろさん)。
モリヤさんは額装という仕事の魅力をこう語ります。
「やっぱり額によって絵の感じも全然変わるので、絵は額に入って初めて完成という意識でいます。でも、それでいて額はいかに目立たずにいられるか、作品をいかに目立たせるかを考えています」
作家さんとコミュニケーションを取りながら作り上げていくというスタイルだけでなく、そのセンスに対してもアーティストからは高い評価が寄せられています。それは、モリヤさんの人生がアートにどっぷりと浸かってきたからでしょうか。
「もともと慎重で、順調な道を選ぶタイプです」と、淡々とした口調で自己分析するモリヤさんですが、これまで相当に個性的な人生を歩んできました。
工房スペース。制作にあたっては、いかに目立たないかを考えているという
無我夢中に丸を描いていたアーティスト時代
モリヤさんは長野市生まれ。中学生の頃からインテリアデザインに興味を持ち、神戸の芸術系の大学に進みます。そこで阪神大震災に遭遇し、価値観が180度変わったといいます。
「本当にやりたいことがあるんじゃないかと考え出したんです。僕の中ではインテリアだったはずなんですけど、違和感が出てきて、1、2年はもやもやしていましたね」
そして突然、絵を描きだします。
「丸ばかり描き続けていました。最初は9個の丸だったんです。マスの中に、最初はクレヨンで。それはただ、なんか描きたいなというだけで、画家になりたいとかアーティストになりたいとは思っていませんでした。無我夢中というか、何のために描くとか、どういう表現なのかとかいう意識はなかったですね」
大学卒業後は、モリヤさんいわく「卒業旅行のノリで」、のちの奥さんとなる恋人の留学に合わせてニューヨークに渡ります。そこでもやはり丸を描き続けました。
「平日アトリエで描いて、土日にストリートで売っていました。それが売れるもんで、調子に乗って丸を描き続けていたんですけど、あんまり売れすぎて、純粋だったものが純粋ではなくなってきました」
そして9.11のテロが起きます。
「テロがあって、また意識が変わったんですね。僕はなんでこんな丸を描いているんだろうって。丸を描いている理由を探し出すと、今度は丸が描けなくなりました」
その頃、たまたまルームメイトから頼まれてフレームショップ(額縁屋)でアルバイトをするようになります。
作品に合わせて、古い廃材を利用することもある
本当に好きなことを仕事にする
フレームショップでのアルバイトの第一印象は、「普通の仕事」。その頃はまだアーティストとして新たな表現方法を模索していたモリヤさん。しかし、徐々に額縁の魅力に取り込まれていきます。
「余った額縁をもらったり、自分でつくったりして、そこに合わせて絵を描いたりしていたんです。その額縁を眺めているうちに、これだけでも面白いかなと思うようになって。もし僕がアーティストになれなかったら、額縁屋ってのもありかなと思い始めてから、どんどん意識がそっちに行くようになりました。僕は表現する方じゃなく、こっちの方が向いているのかなって」
レストランとの掛け持ちで、週1日だったフレームショップのアルバイトは、いつの間にか週5日になっていました。
「ニューヨークのよかったところは、アートの持つ自由さに触れることができたこと。そして、生き方にも影響を受けました。選択肢はいっぱいあるし、やりたいことをやればいいのかなと。僕はずっとアーティストだったけれども、額縁が好きだったら額縁で生きていけばいい。無理する必要はなくて、本当に好きなことを仕事にすればいいんじゃないかなと思えたんです」
ギャラリースペース。明治時代とみられる内壁が味わいのある雰囲気を醸す
いつの間にか始めることになっていた額縁屋
ニューヨークで結婚し、第一子が誕生しました。住んでいた地域の治安が決してよくなかったこともあり、モリヤさんは子育てのため帰国を考え始めます。
「最初は田舎の方に住みたいという気持ちがあったんです。戸隠とか信州新町とか郊外に住むところを探していたんですけど、縁がなくて。ちょうど『門前暮らしのすすめ』プロジェクトで空き家めぐりが始まっていたので、ふらっと来てみたら、こういうところも面白いかなと思いました」
住居に選んだのは明治時代に建てられた2軒長屋。1軒を住居とし、空いていたもう1軒を工房兼ギャラリーにします。
「最初住むとき、僕はすぐに額縁屋をやるつもりはなかったんです。一度は会社員になってみたかったんですよ。でも『いつかは額縁屋をやりたい』ってちょっと言ったら、妻も『やりなよ!』って言うし、周りも『モリヤさんは額縁屋をやるんだね』という雰囲気になっていて、いつの間にか本当にやるという流れになっていました」
引っ越してきたころは「門前に1、2年くらい住むのも悪くないかな」と思っていたモリヤさん。しかし、現在の工房兼ギャラリーを拠点にしてから既に5年が経ちます。
「額縁屋をやってみて、大変は大変だけど、人と出会う機会が多くなって、楽しいですね」
今後はFLATFILEよりもう少し大きなスペースで、新しい作品の見せ方をしたいと考えているモリヤさん。現在は、近隣のアーティストの額装した作品を、服や雑貨のセレクトショップなどで展示する「FLATFILE×Nagano Local Artist」を展開しています。2013年には友人とともに「FLAT BAR」というバーもオープンさせました。
「僕が額縁屋だけでなくて、ギャラリーをやったり、バーをやったりしているのは、人とのつながりの場が重要だと思ったからです。そこに人が集まってくれて、色んなことを発信できたらいいなって思っています」
何事も「端っこで細々とやるのが好き」というモリヤさんですが、確実にその存在感は増しています。
通りも含めた佇まいが気に入ったという建物。二軒長屋の左側が「FLAT FILE」
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会える場所 | 額縁工房&ギャラリー アートスペースFLAT FILE 長野市小鍋11-17 電話 ホームページ http://flatfile.jp/ ブログ http://flatfile.naganoblog.jp/ |
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