長野市南堀で6棟49戸の賃貸住宅「パールハイツ」を所有する渡邉一男さんは、賃貸経営の業界内で知る人ぞ知る”カリスマ大家”です。

築19年から築26年の決して新しくないアパート3棟が計22戸を抱えながら、近年の稼働率は98％を維持しています。家賃が相場より安いという訳でもないのに、空室が出ても最短で1週間後にはもう次の入居者が決まっているほどの人気。これほどまでに高い稼働率は珍しく、まして空室率が全国ワースト3（http://todo-ran.com/t/kiji/14178）の長野県においてです。

毎年全国6会場で開催される業界最大規模の賃貸住宅フェアには講師として参加。そのフェアは、賃貸住宅オーナーや物件の管理会社が集まり、経営に役立つ講座が数多く開かれます。渡邉さんは、昨年は名古屋会場、今年は総来場者数24400人以上が集まった東京会場で講演しました。

「入居者はお客様で、大家はサービスを提供する側」というのが渡邉さんの信条。隅々まで目が行き届いた管理が入居者の心をつかんでいます。

渡邉さんの日課は、時間をかけて敷地内を見回り、掃除や草取りなどの手入れをすること。入居者と顔を合わせる機会も多いそうです。

「廊下の照明が蛍光灯だと虫が集まるから、LED照明に交換したり、ゴミ置き場の照明を明るくしたり…。何気ない会話から、入居者が困っていることを聞きだして、すぐに対応します」

その丁寧さはホームページからも覗くことができます。
各部屋の詳細ページには、窓枠のサイズや洗濯機置き場のサイズ、ガスコンロ台のサイズまで表示されています。共用設備として、敷地内ごみ置き場、来客用駐車場、コミュニティスペースまであり、自転車の空気入れやドライバーなど工具の貸し出しもしています。また、仲介業者との連携を素早くするために、空室状況、退去予定日、内覧可能日まで掲載しています。

内見には、仲介業者に任せ切りにせず極力自分で部屋の説明をするために立ち会います。

「自作の周辺マップで近くの病院やお店の情報を紹介して、電車の時刻表も添えて説明します。夕方でも案内できるように全室照明もついているし、細かいことですが、仲介業者が持って回るスリッパではなく、あらかじめこちらでスリッパを並べて、靴べらも用意しておくんですよ」

新しい入居者は、引っ越し当日には食事に招待します。

「引っ越し当日はバタバタしていて、夕食の支度も疲れると思うし、土地のこともよくわからないと思うので、近所の美味しいお寿司屋さんや居酒屋で食事会をします。そのときに、うちに決めてくれた理由や、ほかにどの物件を見て回ったとかリサーチもさせてもらいます」

渡邉さんの自宅はパールハイツに隣接しており、何か困ったことなどがあった場合は、いつでも連絡してもらえるように名刺を渡しています。水回りの修繕や共用照明の取り換えなど簡単な修繕は渡邉さんが行い、業者に依頼した場合もその前後に入居者に様子を確認します。

渡邉さんがボランティア活動などで家を空けるときには妻の千恵子さんが対応。花壇や植栽の手入れなど、夫婦二人三脚で整然とした空間を保っています。
千恵子さんは週に1回、高齢の入居者と車で一緒に買い物に出かけます。これは、重い荷物を下げて歩いている入居者の姿を見かけた千恵子さんが、自分の買い物のついでに一緒に行きませんかと声をかけたことから始まったサービスです。

敷地内に設けられたコミュニティスペースではバーベキューを行ったり、お花見をしたりと入居者同士の交流もはかられ、以前開催したゴルフコンペには9世帯が参加しました。

このようにきめ細かな管理に入居者の満足度も高く、マナーの悪い入居者はいません。
家賃の滞納もありません。既存の入居者からの紹介で入居する人もいます。

渡邉さんは2006年に、お父さんの体調不良をきっかけにサラリーマンから専業の不動産賃貸業に転向しました。当初は空室が何カ月も埋まらずに苦労し、さまざまな書籍などで学び、前述の賃貸住宅フェアにも熱心に参加しました。また、単身赴任生活をしていたときの経験も生かされています。

「いずれ父親の仕事を引き継ぐことになるだろうと思って、シュミレーションを兼ねて頻繁に引っ越しをするようにしていました。そのときに自分が不便に思っていたことを解消しています」

直接相談に訪れる大家さんも多く、以前から家主による勉強会を行いたいと考えていた渡邉さんは、今年5月、長野市東鶴賀にある「光ハイツ」のオーナー・石黒ちとせさん（https://nagano-citypromotion.com/nagalab/article/1406031319.html）と長野の賃貸経営をするオーナーで集まり「長野賃貸オーナー井戸端ミーティング」を発足しました。不動産賃貸経営に必要な情報を会員同士が共有し、「悩めるオーナー」から「楽しむオーナー」へ、自立型賃貸経営を目指す未来型オーナーの相互研鑽の場をつくることを目的としています。

苦労して手にしたノウハウをほかの人に教えてしまうことに抵抗はないのでしょうか。

「意欲がある人に対して私が何かしてやって、その人が報われるのならいいんじゃないかなと思います。こちらがその人から教わることもあるし、こっちでやったことがあっちでうまくいくとは限らないし、正解はないから何でもやってみるしかない。大家さんたちの意識が高くなれば入居者にも喜ばれるし、みんながよくなれば一番いいと思っています」

「入居者の皆さんがありがとうって声をかけてくれたり、実家から送られてきたからって野菜を分けてくれたりとか、そういう日常のふれあいがうれしいです。入居者の満足度をいかにあげるか。普段からそのことはずっと考えていますね。自分でできることは何でもやるし、何も苦にならないです。出会いがあるから面白いですよ」

賃貸住宅は、近隣住民のみならず大家さんとのトラブルで悩むケースもあります。渡邉さんのように、大家さんが経営に誇りを持って楽しんでくれたら、そこに入居する人の生活は精神的にも安定し、豊かになるのではないかと感じました。