No.285
宮本
廣文さん
アトリエ廣文/画家
魅せられて20数年
゛かっぱさん”が描く河童の世界
文・写真 くぼたかおり
旧北国街道沿いに立つ旧花岡酒店の建物にある小さなアトリエ。前を通りすぎるたびに、ニコニコと手をふってくれるのが、みんなから「かっぱさん」と呼ばれている画家の宮本廣文さんです。
河童との出会いとなった1冊の画集
元花岡酒店には、とんぼ玉作品などの展示販売・体験ができる「gallery shop花蔵」と、宮本さんのアトリエ「廣文」があります。4畳ほどのスペースには、絵を描く机と壁を埋め尽くすほどの河童の絵や水彩画作品が飾られています。
宮本さんが河童に魅せられたのは、今から20数年前のこと。画家で絵本作家の斎藤博之の作品「河童曼荼羅」を手にしたのがきっかけでした。妖怪という恐い存在の河童を擬人化して喜怒哀楽を表現した世界観に惚れて、自分なりの河童を描いてみたいと描き始めるように。
「それまで一度も河童を描いたことが無かったので、まずは河童曼荼羅の世界に描かれている河童を模写することから始めました。もともと私は若いころに何年もクロッキーで人物を描き続けていたので、人物の骨格や描写には自信がありました。何枚も描き続ける中で、少しずつ私ならではの躍動感がある河童が描けるようになったんです」
それからというもの、現在までに個展を50回ほど開いたり、全国の河童愛好家と交流をするなど精力的に活動をしています。それにしても、河童を描くまでは一体何をしていたのでしょうか……。
「gallery shop花蔵」と「廣文」の看板は、宮本さんが手描きで作った
70歳まで続けた"手描き看板"の仕事
実は宮本さんは18歳から50年間、広告美術業に従事し、看板屋として手描き看板を制作してきました。3歳ごろには馬の絵を描いていたと、後に母親から聞くほど、小さいころから絵を描くのが好きで、美術の成績はいつもトップクラス! 自然と広告美術業の道を進むことになりました。
今のようにパソコンは無い時代、すべての看板は文字も、絵も手描きで作られていました。そのためゴシック、明朝などありとあらゆるフォントを習得していき、さらにはオリジナルの文字まで描けるようになりました。
「看板業をしていた当時、筆を持たない日はありませんでしたね」
しかし時代の変化とともにパソコンを使ってデザインをするようになったり、印刷技術の向上などから、手描きの看板職人の需要はどんどん減っていきました。
「それでも4年前の70歳まで続けていたんだから、私はがんばった方だと思います」
その後アトリエ探しを始めて、2013年1月1日から元花岡酒店を使い出した宮本さんは、周辺環境の良さにも満足していると言います。アトリエの奥には「花蔵」という信州大学生が改修を手がけたイベント・ギャラリースペースがあり、北側には主婦3人が営むSHINKOJI CAFE、絵描き、ティースタイリスト、花屋さんらが集うWANDERLUSTなど、空間だけではない、魅力ある人々が近くにいます。
「扉を開けて絵を描いていると、通り過ぎる人たちが『こんにちは』と声をかけてくれる。今まで作品しか知らなかった人たちに私を知ってもらえるきっかけにもなっています」
迷いなく、さらさらと筆を進める。「年とともに、どんどん良くなっている」と宮本さん
欲を捨て、心地よいバランスで描く日々
現在は秋葉神社をはじめ、武井神社、田面稲荷神社、妻科神社、諏訪神社のほか、中御所の地口川柳画を年間500枚描いています。
「地口川柳の絵を描く時は、先に川柳だけがあるので、その言葉から自分で風景やシチュエーションを想像を広げて物語を作るんです。イメージが出来たら1枚30分ほどかけて、川柳と絵を描いていきます」
他にも信濃毎日新聞社建設標「やまびこ」コーナーの漫画を担当したり、不定期で老人福祉センターの水彩画教室や、これからの季節は年賀状の挿絵なども請けています。いつもほんわかした雰囲気をまとっている宮本さんですが、実は想像以上にたくさんの絵を世に生み出しています。
白い紙と対峙した時、まるで映像のようにかっぱが動いている姿を想像できるという。だからこそ躍動感のある絵が作られる
「それでも仕事をしていた時のほうがはるかに忙しかったです。お金は必要だけれど、年とともにいろんな欲が減っているので、今は気持ちの良いバランスの中で絵を描けています」
そんな宮本さんの夢は、かっぱが登場する童話を描くことです。
「昔の話ばかりしちゃうと良くないけれど、インターネットなどが発達しすぎて情報に振り回されているように見える時があるんです。私が若いころはそういうものに左右されることがなく、模倣することも無かった。若い人からしたら古い存在に思えるかっぱを通して、何かを伝えたいという気持ちがあります」
今年の個展は終了してしまいましたが、来年に向けてコツコツと描き続ける宮本さんからは、尽きることのない創作意欲を感じることができました。
作品名「人間どもと一戦じゃ」。これから戦おうと息巻いているかっぱ達。しかし手にしているのは木の枝だったりと、ユーモラスや優しさが垣間見える
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会える場所 | 廣文 長野市東町147 電話 026-235-7606 |
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