No.218
越
ちひろさん
画家
より多くの人にアートの素晴らしさを
9日間の公開制作に挑む
文・写真 Takashi Anzai
生きる強さを伝えたい
華やかな色遣い。
キュートな容姿と言動。
一見すると、画家・越ちひろさんは、まぶしい光を放つ「陽」の人です。
しかし、越さんが綴る日々の文章を目にすると、その弾けるような絵が、がらりと印象を変えることがあります。不安や寂しさと必死で闘っているような、切なさがこみ上げます。そして、それでも凛として生きていく力を感じて、目が離せなくなります。
そんな感想を伝えると、越さんはしみじみ「うれしい」とこぼしました。
「ハッピーだけが見える絵はあまり好きじゃなくて、愛や孤独、強さや弱さ、悲しみや喜び、醜さや美しさ、いろんなものを抱えているのが人間だと思ってる。それでも強く生きようと立っているというところを見せたい」
それが最も感じられるのがキャンバス作品ですが、もう1つの大事なライフワークと位置付けている壁画の制作に対しても根っこにある気持ちは同じです。
「(壁画では)生きている強さだとかエネルギーを、より華やかに見せたい。それがシンプルに見えるのが、壁画の強みというか、良さだと思うんだよね。今の自分にとっては、キャンバス作品だけが大事かというと、そうでもなくて、ワークショップや製品の絵を描くこともおもしろいと思ってるし、これがアートだと限定するのが嫌。それもこれもアートになりうるというふうに挑戦していきたい」
「ラブラドライトとソーダライトのために」(キャンバスに油彩、2006年)
「私にしかできないと思ってる」
越さんは3月21日から29日まで、新装したステーションビルMIDORI長野の3階で、壁画の公開制作をしています。
これまで、越さんは数多くの壁画を手掛けてきました。飲食店、病院、住宅などの、内壁、外壁を問わず、果てはインド・コルカタの日本食レストランまで、さまざまな空間をキャンバスとしてきました。
しかし、今回のように長い期間にわたって多くの人の目に触れながらの公開制作は初めてです。サイズは2m70cm×7m70cm。駅と直結したMIDORIでは、さまざまな人が行き交います。当然ながらアートに関心がなくても興味本位で覗きに来る人も。
しかし、公開制作がスタートする前々日、越さんはこう話しました。
「より多くの人にアートの良さとか、自分と絵を知ってもらったりするには、描いているところを見てもらうのはいいこと。期待とかプレッシャーとか思いとかみんな背負って、やってやろうと思ってる。『任せといて』という絵を描きたい」
そして「本当はすごく不安だけど」と笑ったあとで、「私にしかできないと思ってる」と前を見据えました。
3月21日午前10時、制作開始。真っ白い壁面の中央に淡い黄色から塗り始めた
毎日の生活を、ちょっと豊かにしてくれるもの
壁画のタイトルは「色は私の色。私の色は長野の色」。
「ここに生まれて、ここに育って、ここでもらった色とか形とかを、重ねていきたいという思いがあって。それは具体的な、どこかの山とか、風景ではなくて、『なんか長野だね、なんか越ちひろだね』というものを、初めて長野に来た人も長野に住んでいる人も感じられるような絵にしたい」
かつて病院に壁画を描いたときのこと。足が悪くなって趣味の山登りができなくなった人が「昔、頂上で見た景色に似ていて、もう一度山に登った気持ちになれ、心が救われた」とブログに綴ったそうです。それがとてもうれしかったと話す越さん。
「壁画は商業的だと言われることもあるし、デザインだと言われることもあるし、これはアートじゃないと言われることも多い。でも、ずっとやり続けていこうという気持ちがある。毎日の生活を、ちょっと豊かにしてくれるものとして存在できたら、それはそれとしてすごいアートだなと思っているから」
駅ビルという日常の空間に、越さんはどのような風景を描き、行き交う人をどんな気持ちにさせてくれるのでしょうか。完成も楽しみですが、それが出来上がっていく過程も楽しみです。
(※この記事は3月21日、公開制作初日に公開されました)
「巻き込む力があるものは大事だなと思っていて、そういうものが私の壁画にはあると思っている」と話す
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会える場所 | ステーションビルMIDORI3階 長野県長野市南千歳1-22-6 電話 ホームページ http://www.chihirokoshi.org/ 3月29日まで |
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