「ここはいわば、わが家の内臓です。本来あまり、お見せするようなところではないのだけれど」。
そう言いながら、料理研究家の横山タカ子さんが案内してくださったのは、ご自宅に併設された半屋外の納屋。置かれた木桶には大根やすんきかぶ、野沢菜が漬かり、別の桶では渋柿が発酵中(やがて搾って柿酢となります)。棚には手製トマトピュレのビンが並び、軒には干葉がかかります。
「ここがなければ食卓が成り立たない。むしろ、ここさえあれば非常時も乗り切れます」。
あるのは常温保存できるものばかり。電気やガスが断たれても困ることはありません。保存食とは、非常食でもあることを実感します。
横山さんは食卓に欠かせぬ漬物を、手間を惜しまず季節ごとに仕込みます。まずは春。八重桜が満開になるのを見計らって”さしす漬け”に。続いて梅仕事。手を休めることなく、新しょうが、杏、らっきょう、山椒などを漬けていきます。今を逃せば1年間食べられない。だから休む年はありません。
夏ともなれば、塩漬け、糠漬け、ピクルスにもして、夏野菜をどんどんいただきます。秋。たわわな果実はもちろんそのままでも味わって、残りは焼酎漬けに。無糖の果実酒はとびきりのナイトキャップになります。
そして冬。横山さんにとってもっとも気持ちを集中させるという、漬物にとって大切な時期です。「今年も無事に漬かりますように」。毎年、祈るような気持ちだと横山さんは言います。
漬物作りには手間と時間がかかります。「使う材料は良いものを。そうでなければわざわざ作る意味がありません」と横山さんは言い切ります。懇意にしている農家から野菜やくだもの、米や米糠を届けてもらい、新潟県村上市の藻塩を取り寄せ、惜しみなく使います。
たっぷり仕込んだ冬の漬物は、年を越してあたたかくなる頃には、ほぼ食べきってしまいます。
「漬物は、食物繊維たっぷりの発酵食です。漬物をたくさんいただいているのが、長野の人が長寿である秘訣のひとつでしょうね」。