No.079
君島
登茂樹さん
Farmers kitchen GONDO
地元に地元を発信する
農産物のアンテナショップ
文・写真 Chieko Iwashima
作り手に代わって思いを伝える
長野市権堂アーケード内にある「ファーマーズキッチンGONDO」は、作り手の顔が見える野菜や果樹、それらの加工品を集めたアンテナショップ。今年2014年6月にオープンしました。初めて訪れたお客さんは、少し高い印象を受けるかもしれませんが、店頭に並ぶ野菜は見るからにおいしそうで一度味わってみたくなります。
「最初は、スーパーなどに比べると高すぎるって言われると思ってたんです。でもそれ以上に味の違いを分かってくれる人が多くてうれしいです」
と、着実にリピーターが増えていることを話してくれたオーナーの君島登茂樹さん。
食の安心・安全への関心がますます高まっている昨今、君島さんが生産方法にこだわっている農家から直接仕入れた採れたての野菜は価格以上の満足感が得られると評判です。
「生産者の人柄や栽培方法を理解したうえで買いたいって言ってくれる人も増えています。単純に輸入品が悪いとか国産だからいいとか、10円安いか高いかじゃなくて、その値段の背景をもっと考えてもらって、購入する際の選択肢を、ひとつでも増やしてもらいたいって思うんです。そうすればもっと日々の買い物も地元の野菜も好きになる」
編集部・岩島も、実際に野菜を購入したことがあります。飯山産キャベツ(一玉200円)は大きくて葉がギュギュッと詰まっていて、松代産のトマト(1個100円)はしっかり肉厚で食べごたえがありました。ランチタイムにテイクアウトしたカレー(650円)は、やさしい味わいのルーの中に色鮮やかなパプリカやズッキーニなど野菜がたっぷり入っていて、何気なく口にしたお米もハッとするおいしさ。そして、どの野菜も味が濃くて、主張している感じがしました。
「お客さんから、地元にこんなにおいしいものあったんだとか、野菜ってこんなに種類あるんだ、おもしろいね~とか言ってもらえるとすごくうれしいです。農家の方たちからは、無謀なんじゃないかとか、権堂で八百屋でなんかやっていけるのかって逆に心配されてるんですけどね(笑)」
店内では野菜を使ったランチやお惣菜が食べられ、テイクアウトもできる。ジュースやジャムなどの加工品や、雑穀を使ったお菓子も販売
ファーマーズキッチンという店名はそんなこだわりのある農家の人たちが実際にやっている自分の野菜の一番美味しい食べ方を皆さんにも味わってもうらという意味を込めたもの。君島さんが現場の農家の人々から聞いて歩いた調理法をお客さんに伝えたり、レシピカードにして無料で配布したり、作り手と買い手の橋渡しをしています。
「地元に地元のよさを発信している感覚ですね。地元にこんなにおいしいものがあること、地元の人が地元のものを知れる場所ってあまりないなって思っていて。もっとローカルなものを僕ももっと知りたいし、皆さんにももっと知ってもらいたいですね」
おしゃれにディスプレイされた野菜
当たり前じゃない野菜のおいしさ
大学進学で長野市を離れるまで、野菜に特別な関心はなかったという君島さん。
「実家で祖母が作っていた野菜を食べて育ったので、野菜のおいしさは当たり前のことでした。でも大学で東京に住んでいたときにスーパーで買った野菜は味がしなくて鮮度もなくて、でも高い。それがずっとひっかかっていたんですよね」
大学を卒業後、東京での生活に疲れが出たのか、体を壊してしまいます。3年前、自分の体と環境を見つめ直そうと長野に戻りました。
「就職活動につまずいてしまってフラフラしてた時期に体を壊してしまって、実家に戻らざるを得なくなりました。それで、自分の体の不調と関係あるかもしれないと思って食のことについて調べ始めたんです。そんなときにたまたま直売所で野菜を売っていた農家さんから野菜を買って、色々作り方にこだわっているという話を聞かせてもらったんです。後日、その農家さんに連絡して、作っている現場を見せてもらいに行ったりしました」
そのときは現在のような店を構えるつもりはなく、ただ興味があっただけだったといいます。農家の人からの紹介で農業の現場を訪れてみると、Iターンで農業を始めた若者や規模は小さいながらに消費者の体のことを考えて有機野菜をこだわって栽培している人など、ほかとは差別化した野菜を作っている人が実は大勢いました。そして、農業の抱える問題や課題も見えてきました。
「いい物を作るために手間をかけているのに、直売所で売るときには、ほかの人が作った野菜の価格と合わせないと売れないんです。手間は二倍でも価格は二倍にできないんですよね。せっかく手間暇かけていいものを作っているのに、それに見合った販路がなくてそういう人たちが農業ビジネスとして成り立っていかないのはおかしいなって思いました」
次第に、自分が売り手として役に立てたら、と考えるようになります。
「体や大地にとって良い物づくりをと、こだわってがんばっている人たちに地元に根付いてもらいたいし、僕もお手伝いしたいというか一緒に何かできないだろうかって。農家の方には作るほうに集中してもらって、売るほうはまかせてください、と言える存在になりたいと思ったんです」
1階から3階まで、カフェやイベントで利用できるおしゃれな空間
農業を移住や観光、他業界のビジネスにもつなげていきたい
ファーマーズキッチンGONDOでは、農作物の直売や飲食営業以外に、農家と消費者、農家同士、農家と他業界の人々をつなぐイベントを数多く開催しています。特にデザイナーと農家を交えた交流会を多く企画していますが、それには理由があります。
君島さんは、権堂に店を構える以前、東京の丸の内や有楽町のマルシェで地元の果物の販売をしていた時期がありました。そのとき、他県の店の農作物や加工品がたくさんの店が並ぶなかで、手にとりたくなるようなディスプレイや梱包、商品デザインの仕方も売り方の大事な要素だと気が付きました。
「農家の人は、売るときにデザインにまで気が回らない人が多いような気がしたんです。でも、味はもちろん、見た目は一番大事だと思いました」
また、そこでは”信州の果物”と聞いただけで値段のことは気にせず大量に購入する人も多く、信州の農作物にはさまざまな可能性が広がっているのを感じたといいます。
「全国に地元長野を発信するために、東京にも同じような拠点を作りたいと思っています。向こうで長野のものを食べてもらったり、買えたり、その拠点で情報を発信することで、就農とか移住とか、観光など、長野にいろいろな目的の人が来るきっかけにつなげられればいいなと。その第一歩として、まずは自分たちが地元長野を知る、そして好きになる。地元の人たちが自信を持って都会の友人に長野を紹介できるような地元の良いモノ、コト、ヒト、場所を、ここ権堂で情報をキャッチしながら発信したいと思っています」
「食べ物だけじゃなくて長野で活躍しているいろんな作家さんのクラフト品とかも置いていきたいですし、いろんな人が集まるイベントもやりたい。そこからも新しい視点が生まれると思うんです。この場所が、食品も人も物も集まるようになることが理想です」
同店の野菜で作った料理で交流してもらおうという企画で、市内で活躍中のアーティストmakoさんに料理をふるまってもらった「mako's kitchen」
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会える場所 | Farmers kitchen GONDO 長野市権堂町アーケード内2226‐1 電話 026‐217‐6420 |
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