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No.072

柄木田

一広さん

長野市消防局中央消防署 救急救命士 C級柔道審判員

安全と安心を確保
確かなジャッジで人を守りぬく

文・写真 Rumiko Miyairi

体と体がぶつかり合う柔道の安全を指導

柔よく剛を制すといわれる柔道の世界で、あるときは指導者またあるときは審判員として携わる長野市川中島在住の柄木田一広さん。

現在、川中島中学校柔道部の外部指導員として生徒に柔道を指導し、恩師が師範を務める中村道場では、監督をサポートするコーチとしても指導に携わっています。その傍ら、柔道のC級審判のライセンスも取得。主に小中学生の大会でその資格を活かしています。

「柔道は格闘技。大変厳しいもの」とその表情からは、自身も学生時代から関わってきた柔道への気持ちと今も持つ緊張感が伝わってきました。

「学生時代の自分は、なかなか良い結果に結びつかなくて。一試合ずつ気持ちを切り替えて次に臨むことを第一に思っていました。これは、今も特に子どもたちに教えていることです」

柄木田さんが柔道を始めたきっかけは中学生の体育教科の専科の先生に勧められたことだったといいます。
取り立てて運動神経が良かったわけでも、ずば抜けて力があったわけでもないという柄木田さんでしたが、高校に進学してから柔道をはじめ、そこで柄木田さんにとって「生涯の師」と仰ぐ中村一幸先生と巡り会います。中村先生の教えは今の柄木田さんの指導者としての信念になっていると話します。

「柔道は、格闘技ですから危険が多いスポーツだと思う人が少なくないと思います。しっかりと組んで技の3要素『崩し』『つくり』『掛け』で相手を正しく投げ、投げられた方も受け身がしっかりとできていれば怪我を防ぐことができます。私自身、高校時代厳しい稽古をしていましたが、大きな怪我をしたことは一度もありませんでした。また、少年大会の場合は出場する選手の安全も考えて『少年申し合わせ事項』という、その大会に相応しいルールが決められるので安全に臨めるようになっています」

長野市中学柔道大会で主審をする柄木田さん

「私はよく子どもたちに『腰を引くな』と発破をかけます。腰が引けてしまうとしっかり引き手と釣り手が取れません。胸を張って、引き手釣り手を持つこと。これができてから、きちんと技をかけることが一番安全なんです」

正々堂々と胸を張り技をかけることが互いの身を守ることにつながるという、中村先生の教えをわかりやすく指導している柄木田さん。

「たとえば、中学生の試合で禁止されているのが『膝を付いた背負い投げ』というもの。これは投げた側の膝を守ることと、急角度で落ちる投げられた側の身も守ることの双方にとって安全を確保する意味があるんです」

選手の安全を考える柄木田さんは真剣な眼差しで最後まで試合を見守る

常に現場は日進月歩

「社会に奉仕できる仕事に就きたくて消防の救急隊員になりました」
     
学生時代、柔道一筋に励んできた柄木田さんが目指したのは人の安全を守る仕事。職業によって果たせる役割はそれぞれありますが、柄木田さんが選んだのは消防でした。そして、長野市消防局に入局、救急車に乗る救急隊員として勤務します。

「救急の現場は日進月歩で、変わっていると感じています。以前は救急車の中で救急隊員が医療行為を行うことができませんでしたが、、救急救命士の資格ができて、気管挿管や薬物投与などの医療行為ができるようになりましたから」

柄木田さんが救急隊員として救急車に乗り続けて24年になります。

30歳のとき救急救命士の資格を取得して様々なケースにあうたび気持ちを入れ替えるといいます。

「医療行為ができるということは、それだけリスクも高くなります。毎回、安全確実に処置ができるように緊張しています。医療の従事者として、そのときそのときに最善を尽くさなければならないと思っていますので」

真剣な面持ちでそう話す柄木田さん。人に奉仕したいというその純粋な思いが長年の厳しい現場でも生かされてきたのだと感じました。

救急車の車内で外部との連絡をきびきびとこなす柄木田さん 〈写真・長野市消防局〉

スキルアップしながら最善を尽くす

「今日もこのカバンが活躍しなくてよかったって、一日が終わるとき思うんです」

そういって見せてくれた応急手当用具のカバン。

柄木田さん個人のもので、試合や稽古中に怪我人が発生したとき、応急的に使う最低限のものを自分で買い揃え持ち歩いています。

「柔道の試合では医師がいてくれますので、もしもの場合のサポートだけできるようにって思っています。でも、本来はそんな場面が無いように安全に試合が進むことを願っていますがね」

救急救命士として、また柔道の審判員として忠実に安全確保に努める柄木田さん。

「柔道の審判員もそうですが、救急隊員としてもまだまだ勉強をしないといけないと思っています。救急救命士も長くやってきたからって高をくくってはいけないということですね。救急医療は日々進歩していますから」

「生徒たちに教えることも同じ。生徒たちにもいろんな子がいますから。試合に負けて泣く子には勝って泣け!と教えています。向上心が大事ですから。自分が柔道を通じて恩師から教えてもらったことを糧にして、教える側として今の子どもたちに合った指導ができるよう日々勉強だと思っています」

柄木田さんは自分が育った地元で、柔道に励む子どもたちに最善を尽くします。

「柔道は私と大勢の人と縁を結んでくれています。そして色んな話が聞け、ものの見方があるんだと視野を広げてくれています」

「最低限のもの」だと見せてくれた応急手当用具のカバンの中には、テーピングや冷却スプレーの他に聴診器も備えている

(2014/08/13掲載)

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