No.385
福田
真享さん
見習い大工
大工修業中。20代の今
文・写真 小林隆史
長野市善光寺界隈を拠点に、 現場ごとにさまざまな 親方の下で、大工修業を積んでいる福田真享(まさたか)さんは現在27歳。出身は愛知県豊田市。高校卒業後、信州大学工学部建築学科に進学し、長野市に移住。
在学中は、建築設計を学んでいましたが、建築士としての道を歩むか、現場施工に携わる仕事を目指すかと将来を迷っていたそう。しかし、あるプロジェクトに参加したことがきっかけで、大学の先輩や地域で活動する人たちと出会い、大工の道を歩むことに。
そして、今では師匠と呼べる親方 たち に恵まれて、現場で技術を学ぶ日々を送っています。そんな福田さんが長野で出会った人やもの。そして、20代の今に思うこととは。
これから現場に向かう、そんな頃。親方の清水智弘さんと福田真享さん。背を向け合いながらも息の 合った作業に、下準備がすばやく整っていく
みんなで場をつくることに興味が湧いたんです
今の仕事に至るまでの経緯はどのようなものだったのですか?
大学4年の時に、先輩に誘われて参加したプロジェクトが一つの転機ですね。そのプロジェクトは、先輩たちを中心に、学生みんなで元銀行を改修して、新しい場づくりをするというものでした。夜な夜な現場作業をしたり、自分たちで考えながら施工してみたりして、みんなで必死になりながら一つの場をつくっていったんです。そして、それがきっかけで、先輩たちが改修したスペースに集まるようになったり、古民家を改修した善光寺界隈のお店や場所にも興味を持つようになったりして。
その頃、大学では建築を勉強していたんですが、将来は「設計の仕事をするのは、僕にはどうなのかな?」と迷っていたんです。それが、先輩たちと話したり、プロジェクトで現場施工を経験していくうちに、設計よりも、現場で施工して、みんなで場をつくるということに興味が湧いていったんです。今思えば、先輩の存在は大きかったですね。
そのあと大学院に進学するも、2年の前半で中退することを決めた福田さん。今の道に進み始めたきっかけは何だったんですか?
大学院に進学してからもプロジェクトに参加していて、それがきっかけで、 さまざまな分野の人たち と知り合うようになっていったんです。そこから広がって、現場施工に興味があったので、色々な施工現場を手伝わせてもらったり、インターンシップで現場を見させてもらったりするようになっていってきました。 そうこうしているうちに、今のように、現場ごとの親方たちの元で、仕事をさせてもらうようになったんです。
そのうちの一人が、清水智弘さんです。僕は大学院に進学してから、シェアハウスに住んでいたんですけど、清水さんは向かいの建物の一角を作業場として借りていて。それで知り合って。 いつしか、一緒にお酒を呑んだり、よく話したりする間柄になっていったんです。
すごくいい出会いですね!
そうですね(笑)。もうその頃には、学校へ行くよりも、街の活動や大工仕事の現場にいくことが多くなっていたので、いよいよ大学院を辞めようと。それで、 清水さん に相談したら「仕事あるのか?ないなら、うちの仕事手伝ってみないか?」って声をかけてもらったんです。
清水さん と並び、休憩中。和やかな会話に、いい空気の 作業場
実績もない。会社にも入らない。その中で、親方と偶然に出会えたことは、街に出た結果かもしれないですね。今のような働き方をするには、思い切った判断だったと思いますが、大変なこともありましたか?
色々なことを自分でやらなくちゃいけない不安や、自分の身の丈を知って落ち込むこともあります。だけど、この仕事は手で覚えて身につけていく部分もありますし、自分がやりたいことだったので、スタートを切ってよかったなと思います。学校を辞めて、今こうして働くことができているのは、 清水さんをはじめ、親方たちが声をかけてくれた おかげなので、本当に感謝していますね。
「現場からしか学べない知恵」
今のような働き方を選んで、よかったことは何ですか?
今って、施工方法にしても、塗装方法にしても、情報がネットにたくさん載っているじゃないですか?あれは、末端の情報がいっぱいあるだけで、「本当はこのやり方では無理」ということが実はたくさんあるんです。下地処理や道具の使い方、その土地の風土など、現場で経験してきた大工さんたちにしかわからない現場の知恵がやっぱりあるんですね。それを学んで、ひとつひとつ積み上げていっている感じが、今すごく楽しいんです。
それから、大工の働き方が僕には合っている気がしますね。朝から動いて、10時頃には休憩して、またお昼まで作業するみたいに、メリハリがあって。たくさんしゃべって、笑って、ちゃんと休む。でも作業は本気。このリズムがいいですね。
真剣な表情で、作業に没頭する福田さん
この街に出会って
先輩や親方に出会って、地域の中で仕事を頼まれるようになって。そんな風に、福田さんがこの街で出会ってきたものはとても大切なものだと思うのですが、将来やってみたいことって何かありますか?
将来的には、相談役みたいなポジションにもなれたらいいなと思っています。空間をつくる時に、お施主さんの話を聞きながら、選択肢を広げて、一緒に考えるみたいなことがしたいですね。
それは、これまで福田さんを支えてくれた人たちのようになる、みたいな感じかもしれませんね。
あとは、自分のつくりたいものもアウトプットしてみたいんです。仕事とは別で、実験的なものづくりをしてみたいと思っているんです。木に限らず、鉄や石など素材のことをもっと詳しくなりたいので、色々なことを試してみたいんです。
今は、暮らしていくにも、生活のリズムを掴んでいくにも、まずは仕事をしっかりやっていくことが必要なので。できることから、少しずつですね。
妻の福田舞子さんが営む宿「小とりの宿」にて。舞子さんの手作りご飯に、終始談笑
親方に見守られながら、この街で学び、人と出会い、自分にできることを積み上げている福田さん。そんな彼を不思議と応援したくなるのは、やってみたいことに真っ直ぐ向かう純粋無垢な彼の姿があるからかもしれませんね。
ちなみに、この日の取材は福田さんの妻・福田舞子さんが営む「 小とりの宿 」にて。取材を終えた頃、手作り料理を振舞ってくれた舞子さんが、「やりたいことに没頭している彼を応援したい」と一言。心強いパートナーの言葉に、笑顔を見せる福田さんがここにはいました。
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