No.045
小山
貴裕さん
元ボクサー/整体師
闘いから癒しの世界へ
文・写真 Yuuki Niitsu
「左ボディーからの左フック。これさえあれば、恐いものはありませんでしたね」
こう語るのは、元プロボクサーの小山貴裕さんです。21歳でプロのライセンスを取得し、初めての試合は後楽園で”1ラウンドKO”という華々しいデビューを飾ります。
「このまま日本チャンピオンに!」
という熱き思いが21歳の若き拳闘士の心に生まれます。
しかし迎えた第2戦でまさかのアクシデントに見舞われます。相手選手の後頭部への打撃により、敗戦。その時の怪我に悩まされながらも、必死でその後も第3戦、第4戦と試合に臨みます。
しかし、後頭部へのダメージは後遺症となり不振が続きます。
「後頭部へのダメージが残るとボクサーにとっては、反射神経が鈍り相手のパンチに反応できなくなるんです」
引退を受け入れざるを得なかったといいます。
こうして若者は志半ばにして、ボクシングのリングからは降りました。
しかし、驚くのはその後の小山さんの切り替えの早さです。
引退してからすぐ、佐久のイタリアンで働きはじめましたが、もっと体を動かして人と接する仕事をしたいという理由から、軽井沢アウトレットショッピングモールのPUMAで働き始めたといいます。
「ある時、東京から来た40代くらいの夫婦の旦那さんが買った靴をすぐ履きたいって言うんですよ。店内は週末の賑わいで足の踏み場もないくらい混んでいたのでそれどころじゃなかったんですが、遠方から来ていただいたお客さんに少しでも気持ち良く帰ってもらいたかったので、椅子を持ってきて履き替えてもらったんですよ」
後楽園ホールのデビュー戦にて(写真提供:小山さん)
こう語る小山さんですが、なんと300メートルも離れた倉庫から全力ダッシュで持ってきたといいます。さすが、ボクサー時代のロードワークでフットワークの軽さはお手の物。
「ありがとう。気持ち良く買い物出来たよ。絶対また来るよ」
と帰り際にお客さんから言われた、この一言で接客する楽しさをさらに覚えたといいます。そして、お客さんとより近く深く関われる仕事をしたいという願望が生まれます。
「整体の仕事をしたい。なぜかピンときたんです」
整体の資格も持っていなければ、趣味でマッサージを家族や友人にやっていたわけでもないという小山さん。しかし、一番最初に頭に浮かんだのが整体師だったといいます。
ボクサー時代から直観を大事にしてきたという小山さんは、ここでも思い立ったら即行動。整体師の学校に行くための入学資金を貯めようと決意します。
「川上村のレタス出荷のアルバイトで4カ月間で100万円貯めました。死にものぐるいで働きましたよ」
朝4時には畑に出て、お昼前には出荷作業を終え、お昼を食べてからは、炎天下で夕方まで草むしりや雑用などをする生活。これを休みなしで4カ月間続けたそうです。
「ボクサー時代には毎日、昼間働いて夜からジムで練習して、そのあと夜中に10キロ走っていましたから」
と強靭な肉体の小山さんには朝飯前だったといいます。
そして、念願の入学資金も貯まり、整体学校で整体、足つぼを学び、現在はフリーとして自宅での施術や出張マッサージを行い長野県内を飛び回る忙しい日々を送っています。
「得意な施術は腰ですね。深くゆっくり押していって、筋肉を痛めないでコリを取る施術を心がけています」
拳だけで闘ってきた元ボクサーの小山さん。広い背筋と大きな肩幅のガッチリしたその体格から繰り出される施術と聞けば、悲鳴をあげるほどの”強押し”と勝手に想像していましたが、実はかなり”ソフト”な施術をするそうです。さらに小山さんの親指は太く、指圧面が広くなるため深く押しても痛くないとの理由から女性にも好評とのことです。
施術は基本的に自宅がメイン。遠方の方には出張も承っている。
小山さんと話をしていると、会話の最中に「すみません」という言葉が何度も出たり、質問に答える時も「そうなんですよ、ええ」「あっ、はい」と大きく首を縦に振る様子から”人の好さ””低姿勢”が随所に伝わってきました。
そんな人柄が災いしてか
「駅前で中学生によくからまれるんですよ(笑)」
なんてエピソードもちらほら。弱い犬ほどよく吠えるといいますが、彼はその真逆だと思いました。
タフな肉体を持ちつつも、物腰の柔らかい小山さん。そんな小山さんが心がけるソフトな施術を受けてみました。
腰痛持ちの編集部・新津の腰にゆっくりと小山さんの太い指が入ってきて、身体の力がスーッと抜けていきます。非常にソフトな指圧から得る安心感と確実にコリを捕まえている充実感。あまりの気持ち良さに、気付けば仕事を忘れ夢の中でした。起き上がるときには先程まであった腰の重さがどこへやら。まさに軽いの一言で、車を置いて歩いて帰りそうになる位の効果。是非、一度受けてみてはいかがでしょうか。
今後は
「古民家整体をやってみたいですね。朝は女性やお年寄りを中心にしたボクササイズ、昼から夜にかけてはカフェも併設した整体。お年寄りが入りやすく若者とも交流ができる場を作りたいですね」
と目標を語る小山さん。
ボクサーとして相手に拳で”痛み”を与えてきた小山さんは、時を経て、指で”癒し”を与えることとなりました。
最後に、小山さんにもう一度ボクサーになりたいかと尋ねてみたところ
「チャンスがあればまた上がりたい」
とその目は輝いていました。
痛みも癒しも知る小山さん。そんなファイターがリングに上がった時、観る人は興奮と共に癒しを与えられるかもしれません。
足つぼマッサージも行っている。施術後の左足が血行が良くなっている
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会える場所 | TAG整体院 電話 ホームページ http://slwfnagano.com/ 施術のご予約 Tag0303k2@yahoo.co.jp(小山)まで |
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