No.370
宮田
康佑さん
ギタリスト
日常に音楽を、街に彩りを
心を込めて奏でるギターの音色
文・写真 合津幸
長野市を拠点に活躍するギタリストの宮田康佑さん。最近は、市内に限らず長野県内外での活動機会が増えており、演奏の幅もかなり広がっているそうです。「故郷の長野市を一度も離れることなく生きて来た宮田さんだからこそ奏でられる音がある」。そんなことを思いながら、お気に入りのお店で話をうかがいました。
特別なひとときを全力で演出
冒頭からざっくばらんに書きますが、宮田さんの第一印象はこの二つ。「顔立ちがハッキリしていて濃い」「装いにオリジナリティがあってオシャレ」です。実際にお話をしてみると、パキッとした見た目の印象を良い意味で裏切る、穏やかな語り口と慎重に言葉を選ぶ真面目な一面が見え隠れします。
実は取材でお会いする前、ご縁をいただき一緒に食事させてもらったことがありました。その時は初対面なのでさすがに印象など口にしませんでしたが、今回は思い切って率直なイメージをお伝えしてみました。
「顔が濃いというのは、よく言われますね。沖縄出身でしょう? とか。でも、残念ながら(苦笑)、僕は生まれも育ちも長野市です。しかも、長野市以外で暮らしたこともないんですから」
と、笑顔で返答。この時まさに「ルーツは沖縄? 」と考えていたため、何だか申し訳なく思った瞬間に、宮田さんが会話のベクトルをこんな風に上向きにしてくださいました。
「オシャレと言っていただけるのはすごく嬉しいです! ライブにわざわざ足を運んでいただくお客様におもてなしの気持ちを表したくて、僕は衣裳にもかなりこだわります。演奏で魅了することが一番大切ですが、皆さんの前に立たせていただく限り、あらゆる面で特別な時間を演出する努力を怠ってはならないと思っています」
もちろん、宮田さんはギタリストですから、最も重視しているものと言えばやはりギターです。アコースティックとエレキの両方を演奏しますが、実際に手にすることが多いのはアコースティックとのこと。
「最近良く使っているのが、中央にサウンドホールのない薄型のアコースティックギターです。スタイリッシュな見た目や軽量で扱いやすい点も気に入っていますが、愛用する一番の理由はクリアで美しい音を奏でられることですね。メインカラーに大好きなブルーを選び、お気に入りのブランドのストラップを組み合わせています。大事な僕の相棒です」
“日常に音楽を”がテーマの2ヵ月に1度の定期ライブ(親友・佐藤ヒロキさんと共に長野市の「cafe風和」にて開催)での宮田さん。とても和やかで温かな音楽と空間に包まれると同時に、ギターの音色の豊かさに驚かされる
音楽活動の必需品を集めてもらった。左からお守り代わりの腕時計とネックレス、右端には楽譜を書く際必ず使用するシャープペンシル、手前は楽器の一部にもなる爪のケアに欠かせない爪切り
仲間との出会い、転機となったライブ
現在31歳の宮田さんがこの道で生きてゆこうと心を決めたのは、実はここ5年くらいとのこと。それまではどんな道を歩んで来たのでしょう。
「僕がギターを手にしたのは14歳の時です。ケガをしてバスケ部の練習を休まざるを得なくなったことがきっかけでした。父が若い頃に使っていたギターを引っ張り出して、暇つぶしも兼ねて弾いてみたんです。幼稚園の頃から小学5年でバスケを始めるまではピアノを習っていたためか、音楽や楽器に触れることに抵抗がなかったのかもしれません。誰に教わるでもなく、やってみたらわりと弾けた、という感じでした」
ピアノで身に付けた音楽の共通語を、ふと手にしたギターでも駆使することになった宮田さん。本を参考に独学で弾き方を覚え、純粋にギターに触れる楽しさを感じたそうです。しかも当時は「ゆず」に代表されるようなネオフォークが注目を集め始めた時代。心のどこかに、「テレビで観た彼らの姿に憧れに近い感情を抱いていたのかも」と、振り返ります。
その後、高校を中退してフリーターとして働きながら、細々とライブ活動を継続します。しばらくそんな生活を続けた後、今度は正社員として市内の企業に就職。3D CADオペレーターとして働き、その間は音楽とは離れた日々を送ったそうです。
「音楽もギターも趣味として続けられればいい、という気持ちでした。特に20代前半〜半ばはギターに触れることすらありませんでしたが、不満もなく、夢を諦めたという感覚でもなく、会社員として仕事をしながら自分なりの人生を楽しんでいました」
愛おしそうにギターを奏でる宮田さん。「今の僕にとって、音楽もギターも生活の一部。練習も、スケジュール上どうしても時間が取れない日以外は1日最低でも数時間行います。もはや音楽のない日常は考えられません」
シンガーの汐入規予さん(中央)とドラマーの山田和矢さん(右)と。プロとして活躍する彼らに刺激をもらいながら、宮田さんは成長を遂げてきた。今は仲間として共にステージを創り上げている(写真提供:宮田康佑さん)
そんな宮田さんに、ちょっとした変化がもたらされます。
「25か26歳の時、懇意にしていた楽器店の店長さんに『バンドでベースを弾いてくれないか』と頼まれたんです。まぁベースならギターの経験があれば弾けるし…と引き受けたら、これが思っていた以上に楽しくて。それからまたギターを弾き始めました」
ただし、この頃もまだ音楽はあくまでも好きなこと=趣味のひとつ。人生を懸ける対象ではなかったそうです。しかし偶然か運命か、さらに大きな転機が訪れます。それは、現在も共に演奏活動をするプロのシンガーやドラマーたちとの出会いであり、彼らと臨んだ大規模なライブでした。
「仲間と出会って、プロとして生きることを自然と意識させられるようになっていたのかもしれません。とは言え、僕自身はアルバイトをしながら彼らのバックでギターを弾く程度でOKと思っていました。しかし、2013年に彼らと開催したライブは、話しをいただいた時点から中途半端な気持ちでは到底太刀打ちできないと感じるほどの規模でした。覚悟なんていう立派なものはなかったけれど、あの時はなぜかチャレンジしたいと思ったんです。バイトも辞めて、ライブに集中することにしました」
宮田さん主宰のバンド「Blue in Green」のライブの様子。「音楽は人それぞれ感じ方が違って当然ですし、他のミュージシャンと比較して、違いや意外性を発見してもらうのも大歓迎。どなたにも自由に楽しんでほしい」(写真提供:宮田康佑さん)
努力を重ね、周囲の支えを得た先に
2013年、大規模ライブを機に音楽で生きてゆこうと決めたものの、初めから事が順調に進むほど甘いものではありません。演奏の依頼もなく、来る日も来る日も自宅で練習を続けていた時期は「今は我慢の時、今は腕を磨くべき時なのだ」と、ひたすら自分に言い聞かせたそうです。
そのうち、月に1回のライブ出演が複数回に増え、その度に新しいジャンルや過去に演奏したことのない曲に挑戦し、確実に経験値を上げてゆきました。
「たとえ一度も演奏したことがない曲でも、個人的に詳しくないジャンルでも、できないとは言わない。ハッタリでも『できます』と言い切って、まずはチャンスを掴む。そうして死に物狂いで練習して、当日までに何とか仕上げることを繰り返しました。くわえて、楽譜を書き写したりギター用の楽譜を起こしたりして、曲の詳細まで徹底的に理解して頭に叩き込むという地味な作業にも取り組みました」
華やかなイメージが先行しがちなプロミュージシャンですが、こうした地道な努力があってこそ輝けるのかもしれません。それには、謙虚な気持ちであったり向上心を失わぬ強い意志であったりと、いわば“自らを客観的に捉えられる目”が必要です。宮田さんがそれに気付いたのは、2015年2月に開催した師匠・吉田次郎氏とのライブでした。
「師匠とライブをする前は、誰かのバックで演奏することがほとんどでした。この時初めてギターだけで聴かせることになり、自分でお客様を呼んで満足していただける音を届けることの難しさや責任の重さを知りました。すると、技術的な面でもステージづくりにおいても、プロを名乗るうえで自分に足りないものがハッキリ見えたんです」
吉田次郎氏と行ったライブのひとこま。「ニューヨーク在住の師匠からある日『長野でライブをやるから、よろしく』って留守電が入っていたんですよ! 驚きと緊張で、しばらくは茫然自失状態でした」(写真提供:宮田康佑さん)
すでに7冊目に突入したノート。左ページに通常の楽譜を書き写し、右ページにギター用のコードを自ら起こしている。この地道な作業を経ることで曲の理解が深まり、アドリブのアレンジにも幅が出る
以降、楽譜書きや技術を磨くためのベーシックな練習を以前にも増して重視し、継続しているそうです。そして、バックギタリストとしての活動に加え、最近では主宰するバンド「Blue in Green」での活動も増えています。では、そんな充実した日々を送る今、地元・長野市へはどんな想いを抱えていらっしゃるのでしょうか。
「ライブや生演奏に興味を持ってくださる飲食店の方が多いように感じます。それに、僕はお酒が好きなのでよく飲みに出掛けたりもするんですが、偶然居合わせて親しくなった方が縁をつないでくださったこともあります。すごく人に恵まれているなぁ、と思いますね。その恩返しとして、お客様には心に必ず何かを感じてもらえる音楽を届けること。そして、僕のライブをきっかけにお店のことを知り、美味しいお料理やお酒を大いに楽しんでもらうこと。それらを大切にした結果として、新たな人の流れや動きが生まれたらすごく嬉しいです」
自分らしく真摯に活動を続けた先に、「音楽が常に傍らに在る日常や街になれば」と、宮田さん。愛する音楽と故郷との未来をそっと心に思い描きながら、ギターと向き合う日々を過ごしています。
譜面づくりもかなりの曲数をこなすため、音符の黒い部分を塗りつぶすだけで結構な時間を費やすそう。「ミュージシャンって、実はすごく地味な努力の積み重ねで成り立っていると思う」と、宮田さん
マイフェイバリット・ナガノ
宮田康佑さんのマイフェイバリット
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会える場所 | BAR GLORY Nagano 長野市北石堂1403-2 電話 ホームページ http://www.valley.ne.jp/~glory 「BAR GLORY Nagano」は宮田さんが毎月BGM演奏(不定期)を行っているバーです。 ****************** [取材協力:cafe BIRD] |
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