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No.358

山口

和子さん

朗読ボランティアグループ「やまびこ会」 会長

文字を音に変え、言葉で伝えて
視覚障害者の社会参加の一助に

文・写真 合津幸

目の不自由な方々に耳からの情報を送る―。朗読ボランティアグループ「やまびこ会」は、新聞・雑誌・書籍等の文字を音に変えるという、視覚障害者の日常生活の自立支援や社会参加支援のための朗読テープやCD作りを行っています。会の発足時から一員として活動に参加し、20年超会長を務めている山口和子さんを訪ねました。

音訳ボランティア「やまびこ会」とは?

「やまびこ会」の発足は昭和58(1983)年。目の不自由な方たちが音により情報を得ることで、少しでも社会参加の手助けができれば。そんな思いから活動がスタートしました。

視覚に障がいのある方々への主なボランティア活動には、朗読(音訳=文字を音の情報にする)・点訳(点字にする)・外出ガイド(外出の付き添いや案内)・拡大写本(弱視の方のために、大きな文字にする)の4つが考えられます。今回ご登場いただいた山口さんら「やまびこ会」は、そのうちの朗読(音訳)を行っています。

「『朗読』ですと、朗読劇に代表されるような芸術鑑賞のイメージが強いかもしれません。たとえば、役者さんたちが感情豊かに物語を読み上げるのは朗読ですよね。でも私たちが作る音の情報には、表情は付けても喜怒哀楽は付けません。それは感情の押し付けになってしまうからです。ですから、私たちの活動は『音訳』とお伝えした方がわかりやすいですね」

そう話してくださったのは、20数年前から7代目会長を務めている山口和子さんです。現在「やまびこ会」には男性3名、女性43名の計46名が在籍していて、1年365日活動を続けています。

では、山口さんたちが行っている音訳ボランティアとは、具体的にどのようなことをするのでしょう。

「一番の活動は『やまびこテレホンサービス』で、その日の信濃毎日新聞の記事(2〜3つ)を6分間の音声ニュースにまとめて提供しています。記事は、身近な情報や地域の話題が知りたいという利用者さんの要望にお応えし、テレビやラジオでは取り上げられることのないものを選んでいます。毎日13時から翌日の10時まで、365日1日も休まずお届けしています」

ほかにも、週間長野・ボランティアセンターの情報紙・市議会だより・新聞の連載小説・視覚障害者協会通信などの音訳をテープやCDを定期的に作って発送するほか、個々に依頼された図書のテープおよびCD化や依頼された物の対面朗読を随時行っているそうです。

長野市ボランティアセンター内の録音室にて。「声には生き様が出るもの。心地よく聴いていただけるよう、常に心の姿勢を意識して人間性の向上に努めています」と、山口さん

記事はその日の当番が選択。キリヌキに赤文字で注意点を書き込んだオリジナルの原稿を読み上げて録音する。これを365日、元旦から大晦日まで行っている

音訳ボランティアで恩返しを

会が発足して今年で34年。山口さんはスタート時から活動に参加し、長年会長として「やまびこ会」をまとめてきました。日々の活動に全力を注ぎながら、活動を支える会員を増やしたり、音訳ボランティアを含む支援活動自体に関心を高めてもらうおうと奮闘したりと、多忙な日々を過ごされてきたようです。

そんな山口さんが、音訳ボランティア活動を始めたそもそものきっかけは何だったのでしょうか。

「私の実家(須坂市)の母が60歳を過ぎた頃に倒れて右半身不随になり、言語障害が残ってしまったんです。寝たきりになった本人はもちろん、私たち家族も随分気落ちしました。しかしある日、当時の保健補導員さん(現在の訪問介護員のような方)が母を訪ね、図書館の音訳図書を聞かせてくださいまして。すると、あれほど元気のなかった母がとてもいい笑顔になったんです。その姿が私たち家族もとても嬉しくて。何らかの方法で感謝の意を表したい、それが『やまびこ会』に参加した一番の理由でした」

実は、山口さんが久しぶりにお母様の笑顔に出会った頃、長野市の社会福祉協議会には情報を届ける音訳ボランティア活動の要望が寄せられていました。そして山口さん自身も、2人のお子さんが小学校に上がり、以前ほど手が掛からなくなっていました。つまり、活動の場と状況が揃いつつあったのです。

「長野市でも音訳ボランティアが始動すると聞き、母を笑顔に変えてくれた音訳図書を作る側になりたいとすぐに手を挙げました。少しでも恩返しができれば、という想いです。何より、私は子どもの頃から声を使って伝えることが好きだったのだと思います。小学生の頃は年下の子たちを集めて本を読んであげていましたし、高校では演劇部で部活に熱中しました。働き始めてからも、電話交換手として声を使う仕事をしてきましたから」

ボランティアであっても、プロとしての責任と自覚を胸に取り組んでいるという山口さん。「明るい心、温かな心、相手を思いやる心で取り組んでいます」

音訳テープやCDはこの袋を使って利用者さんに送付。最近は企業から活動費をサポートしてもらえるようになった。この郵便物も郵政省の協力で無料で送付させてもらっている

活動時に大切にしていること

「会の活動は無償のボランティアですが、皆が専門家の気持ちでおります。いいものを届けよう、レベルアップを心掛けよう、と日々努力しています」と、山口さん。その言葉通り、会では音訳作業に加えて定例勉強会を実施したり、年に1度は講師を招いて講習会を開いたり、県の社会福祉協議会主催の年2回のセミナーにも参加しているそうです。

「音訳は、聞く方に伝わる読みであり、耳に心地よい朗読であることが大原則です。そのためには、ピッチ・ピーク・スピード・間の4つのポイントを押さえねばなりません。簡単なことではありませんが、経験ある方たちの音訳を聞いたり勉強会でコツを学んだりして練習を重ねれば、未経験からのチャレンジでも上達は可能です」

さらに、これらの基本を押さえたうえで、山口さんが大切にしていることがあります。それはオリジナリティです。クセではなく、工夫を凝らすこと。1+1=2ではなく、3にも4にもなるような、膨らみや広がりのある音訳です。そうして、利用者さんに「やっぱり『やまびこ会』さんの音訳はいいね」「聞いていて心地いい」などと喜んでもらえたら、何にもまさる幸せであり誇りだと言います。

また、会では利用者さんとの交流をとても重視しています。目が不自由とはどういうことか?音訳ボランティアに何を求めるか?など、実情や本音に触れ、利用者さんと信頼関係を築く中で理解を深めたいと考えているのです。

「この歳になってもこんなに一生懸命になれることがあるなんて…活動させてもらえることに感謝しています。だから、この喜びや充実感をぜひ多くの人に味わってほしいし、活動がこの先もずっと途絶えずに続いてほしいですね。ただし、担い手の高齢化等の課題も抱えています。ですから、インターネットを使って他の団体とうまく連携を図るなど、今できることから挑戦してゆきます」

こうした地道な取り組みが“平和な社会”という名のパズルを埋める一片となり、誰もが笑顔でイキイキと過ごせる世の中を創ることができたらー。山口さんは強く熱く、そう願っています。

活動は報告と相談は必須としながら、各人が責任とやりがいを感じられるよう役割を分担。山口さん曰く「良い意味でアバウトな面がないと続きません。要はバランスですね」

近年、音声ソフトの開発やパソコンとインターネットの普及により、音訳ボランティアの活動も進化しつつあるそう。写真は音声ソフトでの音訳編集の様子

(2017/01/30掲載)

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会える場所 やまびこ会
長野市緑町1714-5(長野市ふれあい福祉センター1F長野市ボランティアセンター内)
電話 026-224-1122

※電話をかけると、13時〜翌日10時は
「やまびこテレホンサービス」として、ニュースの音訳が流れます

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