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No.01 SPECIAL TOPICS

矢澤

智子さん

春陽(はるひ)Cake & 喫茶

素材の良さを生かした優しいのに骨太なケーキが味わえる

文・写真 安斎高志

地元の恵みを生かしたい

春陽のケーキを、店主の矢澤さんは”素朴”と称しますが、実際に食べてみると、優しい味がする一方で、小麦粉からフルーツまで、素材のよさを凝縮させた”骨太さ”が感じられます。

「かつては、宝石みたいにキラキラしたケーキに憧れたこともあります。でも、今では焼きこんだ、お母さんがつくるような、素朴な路線のケーキを作っています。これだけフルーツや野菜に恵まれている土地なので、その素材を生かしたケーキ作りをしたいという気持ちがあって、粉や卵、フルーツは県産のものを厳選しています」

取材に伺った10月上旬は、地元の農家から仕入れた、いちじくや青りんご、柿などをメニューに取り入れていました。

「スーパーに並んでいるものより、直売所に並んでいるものや、知り合いの農家さんにいただくものの方が、うまみがしっかりしています。それと、つくっている人の顔が見えることが大きいですね。一生懸命手をかけてつくってくれているんだから、私がおいしくないものにはできないぞと思います。素材に負けないような、きちっとした生地作りをしています」

筆者が「骨太」と感じたのは、見た目をよくする小手先のテクニックではなく、純粋に味で勝負しようという潔さが感じられたからかもしれません。

いちじくのタルト。地元産の果実を使い、素材のよさを生かした生地づくりをしている

小学校に上がる前からの夢

矢澤さんは長野市生まれ。
小学校に入る前から、夢はお菓子屋さんを開くことだったそうです。

「小さいながらに粉をこねたりとかしていました。それを家族が食べてくれて、さすがに美味しいとは言われなかったですけど、喜ぶ顔が見るのが好きでしたね。そのころから、こんなお店にしたいというイメージを絵に描いたりしていました。今のお店とは全然違いますけど(笑)」

高校卒業後は、迷わず製菓の専門学校へ入学。行きたい学校も、習いたい先生も決まっていたそうです。

その後、東京と長野のケーキ店やホテル、カフェなどでお菓子作りに携わってきましたが、常に自分のお店を持つという夢は持ち続けていました。

春陽で使われているお皿や、飾られている雑貨は、就職してから10数年の間で矢澤さんが少しずつ買い貯めたもの。常に独立を念頭に置いて過ごしていた結果です。

「卒業してから17年ですから、結構かかりましたね。もっと早いうち、20代後半くらいに出していたらよかったとは思います。その頃は、資金を貯めようとして、でもなかなか貯まらない。そして何から手を付けたらいいかわからない。そういうもどかしい状況が続いていました。今思えば、やりたいことが決まっているなら、資金は借りて、頑張って返していった方が早いんですよね」

自身を「元々、プラス思考だった」と振り返る矢澤さんですが、お店を開くことを決めてから、プラス思考に拍車がかかったといいます。

「物事をより一層、ポジティブに考えるようになりました。実際、自分が動きだしたら、周りが手を差し伸べてくれたりして、本当に恵まれていたんです。それはお店を続けている今もなんですけど、ご縁とか繋がりを強く感じるようになりましたね」

一番人気のニューヨークチーズケーキ。生地への愛情が感じられる一品

善光寺門前への愛着

矢澤さんが3年前、物件を探し始めた当初は、長野駅前での出店を考えていました。しかし、これぞという物件に出会えないまま1年が過ぎようとしていたころ、善光寺門前にある、表通りから一本西に入った現在の物件に出会いました。

「善光寺界隈はお菓子屋さんの激戦区なので、そこに飛び込むのは嫌だったんです。でも、この建物を見てすぐ『ここでやりたい!』と思いました。ここのドアから入ってくるお客さんとそれを出迎える自分の姿が想像できたんです」

春陽の建物は、もともと民家でしたが、5年近く空き家になっていました。そのため、内装は相応に改装が必要でした。改装にあたって大事にしたのは色調。元々、植物が大好きな矢澤さんは、木の茶色と、葉の緑、そして壁の白の3色以外を使わないよう注文しました。そして、光をたくさん採りこめるようにと、吹き抜けにしたうえで彩光窓も確保しました。通りに面した大きな窓はそのまま残しました。

表通りから1本外れていることから、家族や知人の中にも反対する人が少なくなかったといいますが、矢澤さんは善光寺にほど近い、この立地にも愛着を持っています。

「善光寺さんには、小さいころから連れてきてもらっていましたし、自分が中高生のころも、部活の大会があると必勝祈願でお参りに来ていました。善光寺さんは私にとって、とても落ち着く場所だったんです。物件を探すときも、今日はいい物件に出会えますようにとお参りしてから駅前の方に繰り出していました。結局は、善光寺さんに導かれたのかなと感じています」

ご近所さんから励まされることも多いという矢澤さん。本当にいい人ばかりです、と笑顔を見せます。

10代のころからあこがれていたという「四月の花器」(ツェツェ・アソシエ、フランス)がテーブルを彩る

ケーキが好きなので研究は苦にならない

春陽のケーキは、フルーツの旬などに合わせてメニューが変わります。

「定番のものはありますが、できるだけ季節のものを使うようにして、メニューはなるべく変えるようにしています。フルーツのことなど、まだまだ知らないことも多いので、まだまだ研究しなければいけません。でも、ケーキをつくるのも食べるのも大好きなので、苦にならないですね」

洋菓子の中でもムースやジュレなど、苦手なものもあるという矢澤さん。それらは、メニューには加えていません。

「嫌いなものは自信を持って出せないので、私が好きなもの、自信があるものしか出さないですね。着色料を使った色には惹かれませんし、生地のうまみを味わう方が好きです」

ケーキ専門店ではなく、カフェを併設した理由は、お客さんの喜ぶ顔が見える仕事をしたかったから。取材中、何人もの常連客が、矢澤さんとの会話を楽しみながら、ケーキをテイクアウトしていきました。日頃、カフェで顔を合わせているからこそ生まれる付き合いです。

テーブルにはフランス製を中心とした、かわいらしい雑貨が並びます。ケーキのことや、器のことを話すときは本当に楽しそうな笑顔を見せる矢澤さん。しかし、今後のことを尋ねると、「これからですよ、まだまだ軌道に乗せないと」と表情を引き締めました。子どものころからの夢は、第2章に入ったのでしょう。ケーキと同様、浮ついたところのない様子からは、やはり「骨太」という言葉が浮かんだのでした。

味わいある古い梁はそのまま残されている

(2014/11/18掲載)

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会える場所 春陽 Cake & 喫茶
長野市上西之門町608
電話 026-235-1310

フェイスブック https://www.facebook.com/Haru.no.Hizashi

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