No.238
徳嵩
久志さん
タベルナ・プント オーナーシェフ
毎日食べても飽きが来ない
本場仕込みの絶品イタリアン
文・写真 島田浩美
気取らずオシャレで、何よりおいしい
私が胃袋を鷲掴みにされ、月に数回通っている店があります。昭和通りにある「タベルナ・プント」。2012年8月にオープンしたイタリアンのお店です。「タベルナ」とは、イタリアで気軽に入れる居酒屋のような位置付けの店。確かに、小ぢんまりとした店内の雰囲気と、オープンキッチンで腕をふるう徳嵩久志シェフのおいしくて温かみがある料理、奥様の直子さんの気さくな接客は、気取ったイタリアンレストランではない、いい意味での敷居の低さがあります。
「毎日食べても飽きが来ず、お財布にも響かずに、つい食べたくなる料理が出せたらいいなと思っています」
そう話す徳嵩シェフの思惑に、まんまとハマってしまった私ですが、足繁く通っているファンは私だけではありません。常連客のなかには「たまにはシャレたところでおいしいものが食べたいけれど、気軽に入れる店がいい」という中高年の男性客もチラホラ。「飲食店なのに『タベルナ』」という親父ギャグが聞こえてきそうですが、そんなギャグにも笑いがあふれるような和やかな雰囲気が店全体に流れています。
いかにもおいしそうな料理を作りそうな風格を漂わせる徳嵩シェフ。写真左下に映るのはイタリアンに珍しい鉄板で、この鉄板を生かした料理もプントの名物
関西の名店で修業をし、イタリアへ
徳嵩シェフの料理の基礎となっているのは、業界にその名を轟かせる若きオーナーシェフ・山根大助氏が率いる関西トップクラスのイタリアンレストラン「ポンテベッキオ」。「料理界の東大」といわれる辻調理師専門学校を卒業した徳嵩さんが最初に修業をした店です。
「厳しい店だったんですが、一緒に厨房に立つ山根さんからはいろいろと刺激を受けました。それに、イタリアに渡って修業を積んだ山根さんを見て、自分もいつかはイタリアに行きたいと思うようになりましたね」
その後、地元の長野に帰郷した徳嵩さんは、イタリアンもイタリアン以外の料理も学び、実際にイタリアで料理を学んだ先輩や、当時お付き合いをしていた直子さんの後押しも受けて27歳で渡伊。南北に長く、地方によって異なる食文化を持つイタリアで修業先として選んだのが、気候風土が長野に近い北イタリアでした。
「イタリアでは1年を通して、料理や食材の移り変わりと地域の人たちが食べたくなる味覚の変化を知りたかったので、約2年半で3店舗を回りました。そんななかで、ソースが発展しているフランス料理に比べて、イタリアンの場合は畑から採ってきた食材を塩胡椒とオリーブオイルだけでシンプルに味付けし、レモンやチーズをかけて、素材そのものを生かしている料理が多いと気づきました。それに、チーズの旨み成分を料理に生かす点では、イタリア料理は日本人の舌に合わせやすいとも感じましたね」
こうして、がむしゃらに現地の料理を学んだ徳嵩さん。結婚を機に30歳で帰国しました。
北イタリアの都市・ヴァレーゼで働いていた頃。イタリアでは、星付きや高評価のレストランには必ず日本人の料理人がいたそう
"イタリアの普通"を長野で
帰国すると今度は、日本で働くイタリア人シェフがどんな風に料理を仕立てているかを見てみたいと思ったことから、日本のイタリア料理界の第一人者・カルミネ・コッツォリーノ氏が手がけた名店「リストランテカルミネ」に就職します。当時、ヨーロッパ各地では新しい調味料として味噌や醤油を使ったオリエンタルな料理が多く見られましたが、この店では、あえてイタリアのテイストを強く押し出したほうが日本人のお客様には喜ばれることを知りました。
そして、2002年、長野の本格イタリアンの代表格「トラットリアジョイア(諏訪角商店直営)」のオープンにあたって声がかかったことから、ジョイアの初代グランドシェフに就任します。
「ジョイアではイタリアで普通とされていることを提供したらおもしろいと考え、イタリアっぽさを全面に出すようにしました」
例えば、パンは、フランス料理ではパン皿に提供されますが、イタリアではテーブルクロスの上に直接置きます。汚れたらホールスタッフが綺麗にするのです。最初は気を遣ったり戸惑うお客様もいたそうですが、主役はあくまでお客様。徳嵩さんはホールスタッフに、お客様と話をして和やかな雰囲気をつくるように伝えました。
オープンキッチンのプントでは、カウンター越しの会話が楽しめます。時にはシェフがホールに出てくることも
「話好きのイタリア人は、きちんとした接客のなかにフランクさがあって、料理もお店もアピールします。その頃合いをスタッフ全員に浸透させるのは大変でした。でも、やっていくうちにそれぞれのスタッフのキャラクターをお客様がわかってくれて、店の雰囲気もよくなりましたね。きちっとしたサービスは当たり前で、あとはどうお客様を和ませるかが我々の仕事。料理もおいしいのは当然で、そこに付加価値をつけるためには何ができるかをいつも考えていましたね」
長らく空いていた昭和通りの空き家を改装した店舗。駅前から少し離れていても、お客様に目指してきてもらえるような場所を選んだという
おいしさの秘訣は「自信」
こうした経験を重ね、10年間働いた諏訪角商店を退職。「ラストチャンス」との思いで始めた「タベルナ・プント」でも、これまでの思いは生きています。
「夫婦ふたりで店を始めるなら、大事な友人を自宅に招いた時のようなおもてなしが一番よいのではないかと、かみさんと話をしました。それぞれの人に合わせて、目の行き届いたサービスやおもてなしができればいいと思ったんです」
さりげない気遣いを感じる接客は、全く肩肘を張らずに食事が楽しめるとともに心地よさも感じます。それに、徳嵩さんにとっても、料理を作ることが専門だった今までに比べ、今はオープンキッチンからお客様の様子を見たり話ができるので、毎日が楽しみなのだそう。
そんなプントの最大の魅力は、やはりその”おいしさ”。秘訣を徳嵩さんに伺うと、「自分がおいしいと自信を持って料理を提供すること」という答えが返ってきました。
「自信を持って提供すると、ぜひ食べてほしいという思いが表情にも現れるからおいしくなるんでしょうね」
息の合った夫婦のやりとりを見るのもプントを訪れる楽しみのひとつ。3人の子どもたちの成長を見守りながら「20年は続けたい」という思いで日々仕事をしている
プントにいると、お客様から「おすすめは何?」と聞かれている直子さんが「全部おすすめです」と答えているシーンに出合うことがあります。夫婦おふたりが自信を持って料理を提供していること。それは決して嫌味な感じではなく、ワクワクとした期待感が高まります。
「うちは決して高い食材を使っているわけではないので、手頃な金額でおいしい料理を食べてもらいたいという思いがあります。だから、お客様においしい、楽しいと笑顔になってもらって、支払いの時に『こんなに安くていいの?』と言っていただけると、本当にうれしいですね」
そう話す徳嵩シェフと奥様の笑顔を思い出すだけで、私はすぐにでもプントに行きたくなるのです。
どれも絶品なプントの料理のなかでも個人的に一番のおすすめはパスタ。麺のもちもち感と絶妙な塩加減がたまらない!
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会える場所 | タベルナ・プント 長野市上千歳町1137‐16 電話 026-219-3288 ホームページ http://punto-2012.jimdo.com/ |
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