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No.225

黒柳

香代さん

はなちょうちん店主

生前整理のために開いた店に
のどかな空気な流れる

文・写真 Takashi Anzai

終活の一環で始めたお店

終活(しゅうかつ)とは「人生の終わりのための活動」の略であり、人間が人生の最期を迎えるにあたって行うべきことを総括したことを意味する言葉。(出展:Wikipedia)

まだ60歳を過ぎたばかりだというのに、その終活の一環として商売を始めた女性がいます。古本と雑貨のお店「はなちょうちん」の店主、黒柳香代さんは2012年8月、善光寺門前の倉庫を改装して開業しました。

黒柳さん宅には、父親や自身の蔵書があふれ返っていて、その処分を少しずつ進めようと考えたのが開業のきっかけです。

「父はぽっくり逝ったんです。一方で、母は認知症が少しずつ進み、8年の介護を経て亡くなりました。どちらにせよ、自分で計画的に生前整理を進めないと、家にはごちゃごちゃとモノが残るということがわかったんです」

あっけらかんと話す黒柳さん。しかし、店に流れる空気は、「終活」や「生前整理」といった単語とは対照的。のどかで、楽しげです。それを象徴するのが、店の黒板に掲げられている黒柳さんの川柳。毎度、くすりと笑わされます。

「本よりも 店主がレトロ はなちょうちん」

20平米ほどの土間には本と雑貨が所狭しと並ぶ。店舗スペースの奥にも在庫はたくさんある

ほしい人に適当な値段でお譲りしなさい

黒柳さんのお父さんは、信州大学教育学部で近代文学を教えていました。そのおかげもあって、小さいころから本が身近にあったといいます。

「給料のほとんどを本に遣ってしまうという人で、勤め先から帰ってくるときにはたっぷりと本を抱えて帰ってくるんですけど、お母さんへの言い訳もあって、子どもへの土産の本も買ってくるんですね」

自身の蔵書が増えたのは、26歳で書店に勤務してから。その後、そのお店が閉店するまでの26年間にわたり児童書の担当を務めました。当初は絵本が好きだというわけではなかったという黒柳さん。それでも徐々に絵本の持つ魅力に引きこまれていきます。

「絵本は見ているだけでもいい。文章を読まなくても楽しめる。いろいろと想像しながら絵を見るのは楽しいですね。それで、絵本を一生懸命売っていたら、そのうちに絵本がどんどん好きになって、担当させてもらったことがラッキーだと思うようになった。それからは、やたら絵本を買うようになったんです」

父の蔵書に、黒柳さん本人が買い足した絵本が加わり、ついには本のために倉庫を借りなければならないほどに。父の蔵書が推定1800冊、自身の蔵書が推定700冊としていますが、「それも数えたことがないから当てずっぽう」と笑います。

一方、交代で店番をするお姉さんは、同様に本好きですが、所有欲はなく、図書館を利用することが多いそう。

「一緒に暮らす姉から『これでは畳替えもできない。どこか倉庫を借りて整理しなさい』と言われたのが最初のきっかけですね。ほしい人がいたら適当な値段でお譲りしてしまいなさい、と」

26年勤めた書店が閉店になったときは本当に切なかったと話す

居眠りしながら店番ができるような店

そんな黒柳さんの悩みは、本の持ち込みを上手に断ることだそうです。

「生前整理のためのお店ですから、買い取りや持ち込みを引き取っていたら、本が減りません。でも、わざわざ持って来てくださったものを、カドが立たないよう上手にお断りするのはなかなか難しいですよ」

「はなちょうちん」の店名は、居眠りしながら店番ができるような、のどかなお店にしたかったから。値段はあってないようなもので、商売っ気もありませんが、サービス精神は旺盛です。

ある日のこと、中国からの観光客が「タスケテ、サムイ」と駆け込んできました。黒柳さんは帽子をかぶせ、えりまきを巻いて、カイロを持たせて、200円だけもらったそうです。その人は、たいそう感謝して帰って行きました。

「困ったことがあったら、閑古鳥が鳴くようなお店で手厚く対応してもらうのがいいでしょう。レジの流れを止めてしまうような心配がありません。うちには楽しい雑貨の他に実用雑貨も少しありますから」

気軽に寄ってほしいという思いから、道行く興味ありそうな人には「冷やかし大丈夫ですよ」と声をかけます。世間話やお茶を飲みに来るだけの人もいます。そんなやり取りを楽しみながら、黒柳さんは今日も店番に立ちます。

元々は倉庫として借りたが、古本市などに出店しているうちにお客さんとのコミュニケーションが楽しくなってきたという

(2015/03/31掲載)

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会える場所 はなちょうちん
長野市東之門町382
電話 090-8801-9687

土日祝日、午後1時~4時半のみの営業

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