No.221
塩津
知広さん
ドラムサークルながのファシリテーター
○も×もない音楽の時間
文・写真 Chieko Iwashima
即興で楽しむドラムサークル
みんなで輪になって、太鼓や打楽器を自由に叩く「ドラムサークル」。参加者は、ドラムを習うためではなく、ただその場を楽しむためだけに参加します。複雑なルールは何一つなく、言葉を交わす必要もありません。
ファシリテーターの塩津知広さんは、参加者が自由に楽しく演奏できるように背中を押してあげるような存在です。ドラムサークルをやる上でのやりがいを感じる瞬間を聞いてみると、少し意外な答えが返ってきました。
「僕が何もしなくてもいいときですね。ファシリテーターとして何もしていなくても、すごく盛り上がっているときは、ちょっと感動します。だから、究極の目標は”ただ太鼓を持ってきた人”になること。そこまでみんなが自然に音楽を楽しんでもらえるようになったらバッチリですね」
小学校低学年の子どもたちを対象としたドラムサークルの取材では、初めは子どもたちが好き勝手に叩いていただけに見えましたが、塩津さんのちょっとした先導でほかの人の音にそろえたり、順番に叩いてみたり、いつの間にか心地よいリズムが聞こえてきました。
また別の日、障がい者支援センターで開催された際には、盛り上がり方の熱量の高さに少し圧倒される瞬間もありました。職員の方曰く、利用者のみなさんの普段見られないような集中する姿や楽しそうな姿が見られたそうです。
世界の太鼓がたくさん!手ぶらで行ってその場で楽しめる
「みんなと同じことをすると楽しくなります。その反対に一人だけが違うリズムを叩いて、その人の音をみんなで下支えしたりすると、その人はみんなに支えられた喜び、ほかの人は他人を応援できた喜びが得られるんです。自分には何も取り柄がないと思っていた人でも、音一つで人を喜ばせることができるんだという実感が得られます。自然とそれを実感してもらえるようにするのが僕の役目だと思っています」
楽器には普段まったく縁のない私も参加させてもらいましたが、緊張したのは最初だけ。思いきり叩いているだけで自然と笑顔になります。ファシリテーター役も少しやらせてもらいましたが、輪の中心に立って、全員の音をピタッと止めてまた盛り上げるという行為には、大勢の人と一度に分かり合えたような、何とも言えない高揚感がありました。
三本柳児童センターでの放課後子どもプラン活動の一つとしてドラムサークルを開催
さまざまな楽器を教える講師活動
塩津さんは北九州出身。高校までは吹奏楽部でパーカッションを担当し、大学進学にともなって長野市へ来てからドラムを始めました。その後、バンド活動を精力的に行いながら、長野市内にあった楽器屋さんに誘われたことがきっかけで講師の仕事を始めました。現在、ドラムをはじめ、ジャンベ、オカリナ、ギターなど、さまざまな楽器を教えています。さらに、この3月から新たにカホンのコースも始まりました。
塩津さんの指導は、初めて楽器に触る恥ずかしさを上手にほどいてくれると評判です。少しやってみただけで、もっとうまくなってみたいという気持ちにさせてくれます。
「教わる側の人は、間違えるということに恐れを感じてしまうもの。だからまずは、マルかバツじゃないんだよって伝えたいんです。ある程度のルールには乗っ取らなければ楽しめないという部分はありますが、マルにも幅があるし、バツだって幅がある。その広い幅の中に入ればいいんだと思ってもらいたいです」
それでも、講師をやり始めた当初は、人に教えることに傲りのような思いがどこかにあったという塩津さん。今は、生徒が出すフレーズが楽譜と違っても、個性として認めながら指導しています。そして、そう思うようになったのは、ドラムサークルを始めた影響が大きいといいます。
「自分の中では、講師とファシリテーターは住み分けていたつもりだったんですが、いつの間にか溶け合ってきた感じがします。今は、自分が生徒さんのお手伝いをさせてもらっているんだという気持ちです」
長野市青木島「ピアノショップPOND」ではオカリナ、ハーモニカのほか、カホンのレッスンも行っている
その場限りの打ち上げ花火
塩津さんがドラムサークルの存在を知ったのは2005年のこと。
「ジャンベを学べるコースを立ち上げようと思って、上越市にある楽器屋さんに打ち合わせで訪れたときでした。パーカッショニストの橋田ペッカー正人さんが、たまたまツアーで来ていてその楽器屋さんに立ち寄って、教えてくれたんです」
自分がこれまでに経験してきたことが新たな形で生かせると思った塩津さんは、さっそく長野市でドラムサークルの活動を始めました。
ドラムサークルは、ストレス発散ができて健康に良く、人の音を聞きながらコミュニケーション力や協調性が養われるといわれ、音楽療法のような側面もあると注目されています。しかし、塩津さんはそれらを一つひとつ説明することはありません。
「太鼓を叩くとアドレナリンが出て…とか効能を説明してもしょうがないと思って(笑)。ただ僕は、音楽を楽しむための入口としてドラムサークルは間違いないと思っています」
塩津さんがドラムサークルを通して伝えたい思いはとてもシンプルなものです。
長野市「デイセンターYUI」でのワークショップの時間。自分以外の人の音を聞いて合わせたり、目を見て合図をしたりするうちに一体感が生まれてくる
「音楽って、こんなに楽しいんだから、もっとみんな簡単にやろうよって伝えたいんです。音楽は誰にでもできるし特別なことじゃありません。練習しなきゃいけない、うまくないとやってはいけないとか思うハードルをとっぱらったところでできるのがドラムサークルです」
ドラムサークルは、レッスンと違って完成形があるわけではありません。当初は、「太鼓の叩き方を教えてもらいたかったのに、何も教えてもらえなかった」と言われたこともあったそうです。
「その場限りのものなので、いつも打ち上げ花火を上げに行く感覚ですね。参加者は、『楽しかったけれど、何か教えてもらったわけじゃないし、一体なんだったんだろう』と思う人も多いんです。その楽しさを、もう一度味わいたいと思った人がまた来てくれるという感じです。その種をまき続けることこそがドラムサークルの、そして音楽人としての僕の役目だと思っています」
“その場限りの打ち上げ花火”だからこそ、鮮烈な感動が得られるのかもしれません。
心地よい太鼓のリズムとともに魂が震えるような瞬間。ぜひ一度体感してみてください。
初めて会った人とも太鼓を叩いているうちに打ち解けていく
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会える場所 | ドラムサークルながの 電話 ホームページ http://hey8tsedrums.com/dcngn/ 【各種レッスン】※詳細は会場にお問い合わせください ドラムレッスン、パーカッションレッスン カホンレッスン、オカリナレッスン、アコースティックギターレッスン |
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