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No.204

佐藤

直也さん

長野市茶臼山動物園 /獣医師

動物の命と暮らしを守る若手のホープ

文・写真 Rumiko Miyairi

あらゆる生き物と向き合うこと

長野市茶臼山動物園には、哺乳類や鳥類、爬虫類など、およそ60種類の生き物が暮らしています。
獣医師の佐藤直也さんは、目を輝かせてこう話します。

「動物園の動物たちは教科書に載っていないものばかりなので、トラなら猫に近いとか、レッサーパンダなら犬かな、いや猫かな、というように考えを派生させながら診察をします。難しい面もありますが、そのぶん興味深くてやりがいを感じています」

大学卒業後、茶臼山動物園に就職した佐藤さんは今年で3年目を迎えました。昨年度までは、飼育員さんと同じ飼育業務をしながら、その合間をぬってウサギやモルモットなどの小動物を中心に診察していました。

木曽馬のサクラを診察する佐藤さん。最近、風邪を引いたというサクラは佐藤さんが呼ぶと分かるかのように近寄ってきた

今年度からは、茶臼山動物園全体の動物の診療はもとより、城山動物園への往診業務も行っています。一方でハクバサンショウウオやクロサンショウウオなど、絶滅が危惧されている稀少な生き物をはじめ、両生類、爬虫類などの飼育も行っています。

「ハクバサンショウウオは、県と白馬村に許可を得て飼育しています。飼育開始当初は、思うように繁殖しませんでしたが、2013年に国内で初めて繁殖に成功し、昨年は83匹が産まれ、育っています。このように絶滅危惧種を動物園で増やしておくことで、いざというときに備えるんです」

絶滅してしまいそうな野生生物の種を守りながら未来につなげていくことも、動物園の大きな役割のひとつと考える佐藤さんは、どんな生き物にも真摯に向き合いながら探究心も忘れません。

佐藤さんは、神奈川県にある大学で獣医学を学びました。そして魚病学を研究します。

「大学生のとき、魚類の免疫から哺乳類の免疫に応用する研究をしていました。ある日、動物園に絶滅危惧種である魚の”シナイモツゴ”が持ち込まれたんですが、『魚といえば佐藤くん』と周りから言われましてね(笑)。この魚も私が飼育することになりました」

はにかみながら振り返る佐藤さん。そして動物園で働くことを望んだわけをこう話します。

「一生勉強してもしきれないほど数多く動物がいます。この茶臼山動物園は、たくさんの魅力が詰まっています」

現在飼育をしている「ハクバサンショウウオ」を手に取る佐藤さん

覚悟を決めた少年時代

佐藤さんの家族は動物が好きで、犬、ウサギ、伝書鳩などを飼っていました。ときどき佐藤さんや兄弟が迷い猫を保護することもあり、佐藤さんの周りには絶えず動物たちが過ごしていたといいます。けれども小学生のころ、佐藤さんは敢えて自分が飼い主になりたいという思いを持ち”自分の動物”がどうしても欲しくなります。佐藤さんが小学5年生の冬、児童会選挙に推薦されたときのことです。

「自分のウサギが欲しかったので、両親に小学校の児童会長になったら買って欲しいとせがみました。今思うと無茶な交換条件を出したと思いますが、それほど欲しかったんです」

その意気込みで児童会選挙に臨んだ結果、当選します。児童会長になった佐藤さんは、かねてからの念願だったウサギを買ってもらえました。

しかし喜んだのも束の間、ウサギは、飼い始めて1週間後に死んでしまったのです。

「連れて行った動物病院の獣医さんに『君が無知だったから死なせた』と面と向かって言われてしまったんです。物凄くショックでした。すぐに病院に連れて来ていたら助かったかもしれないとも言われました。そのとき、何も知らなかった自分が悔しくて耐えられませんでした」

このうえない喪失感に襲われた佐藤さんは、知識があれば救える人もいる、やるべきことをやれば助かる命がある、とこのとき気付きます。そして、この辛い経験によって大きな志を持ちました。

動物好きが高じてという理由だけではなく、悲しい出来事を胸に秘めて子どものころから獣医師を目指します。

「ひとつでも亡くなった命は尊いんです。この気持ちから、たくさんの命を救うんだ、という自分自身の覚悟を決めました」

往診には双眼鏡と聴診器が必携アイテム。子どものころに失った自分のウサギへの思いを胸に、動物たちの健康管理を丁寧に行う

動物のために働きかけたい

佐藤さんの話では、野生動物にとって人間は怖い存在という前提なので、体調が悪いときなどは、より一層ストレスがかかる状態になるといいます。

獣医師はそれを踏まえて視診や触診を行いますが、野生動物の場合はどんなに慣れていても暴れる可能性があります。そのため普段の様子も考慮して、担当飼育員から問診し、治療も連携を取って行います。

佐藤さんが勤め始めたころ、キリンのオスが死んでしまいました。そんな辛い悲しみのなかで希望の光が射したエピソードを語ります。

「キリンのオスが死んでしまってから、しばらくして、その忘れ形見が生まれたんです。でも、その子は、なかなか初乳を吸いませんでした。このままでは命が危ないので、私はなんとしても初乳を飲ませようと思いました。そして飼育員さんに話をして、絞った初乳に牛乳を混ぜ、諦めずに哺乳瓶で飲ませました。そうしたら少しずつ飲むようになったんです。その子は無事に育って千葉の動物園にいきました」

命を救うため、たじろがずに情熱を注いだ佐藤さん。

「国内でも、うちの園はキリンやレッサーパンダの繁殖に成功しています。上手く繁殖できるということは、その動物にとって良い環境ということです。長野の冬は寒くて厳しい、そんな過酷な環境でもほかの動物たちも長寿ですよ。四季がはっきり感じられる長野だからこそ、その折々の自然を背景にして動物を見ると、意外な表情や元気な姿を見せてくれるんです」

佐藤さんは、そう話し嬉しそうな表情を浮かべます。

「獣医師として、動物たちの診察の幅を広げていきたいです。まずはトラ、ライオン、キリン、ゾウの採血ができるようになることが目標です。動物園獣医として1人前になるには10年はかかると言われていますけれど、つねに動物のためになることを私から働きかけていきたいです」

そんな信念を強く持つ獣医師、佐藤さんがそばにいてくれる限り、茶臼山動物園の動物たちは、いつまでも元気に、そして幸せに暮らしていけるだろうと心から感じられました。

「動物たちに覚えてもらうんです」とアルパカに近づく佐藤さん。佐藤さんはいつも動物たちを気遣い、触れあいを大切にしている

(2015/03/03掲載)

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会える場所 長野市茶臼山動物園
長野市篠ノ井有旅570-1
電話 026-293-5197
ホームページ http://www.chausuyama.com/

■ミニ特別展「バックヤードの動物たち」(~2015年3月29日)
 佐藤さんがバックヤードで飼育している両生類や爬虫類などを展示しています。

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