No.195
飯田
一基さん
いいだ かずもと
株式会社西飯田酒造店 杜氏
個性豊かな花酵母で醸す
挑戦心あふれる若き杜氏
文・写真 Takashi Anzai
日本酒好きの好奇心をそそる酒
新酒の仕込みが佳境を迎える2月、江戸末期から続く西飯田酒造店を訪れました。酒蔵では29歳の若き杜氏、飯田一基さんが、醪(もろみ)が放つ香りに嗅覚を集中させ、出来上がりに思いを馳せていました。
西飯田酒造店は、全国でも約20しかないという、花酵母による酒造りに取り組む酒蔵。飯田さんは杜氏として4年目を迎えます。
「花酵母は、花によって個性がはっきり出やすいところが面白いですね。原料米の種類など、一番合う組み合わせを探しながら、いろんな世代に飲んでいただけるものを造りたいです」
今年、花酵母で醸す「積善」は11種類。日本酒好きの好奇心をそそります。
現在、生産に携わるのは飯田さんほぼ1人ですが、味の評価が上がっているだけでなく、量も大幅に増加しています。飯田さんが修業先から家業の西飯田酒造店に戻ってきたとき、総生産量は150石で純米吟醸などの特定名称酒は20石だけでした。現在、総生産量は260石、うち70石が特定名称酒。
1人で質も量も追い求めるのは容易ではありませんが、飯田さんは「造らなきゃ、売れないんで」とはにかむだけです。
「通年のお酒は食事に合うものにしています。うちの酒は酸が高く、食材を引き立てる酸味があります」と話す
人を感動させられる仕事
飯田さんは西飯田酒造店の9代目。高校卒業後、東京農大に進学し、花酵母の分離に成功し世に出した中田久保教授のもとで、リンゴや牡丹などの花酵母について研究しました。
その後、茨城県の来福酒造に入社。ここは、花酵母で醸す酒の種類が東日本で随一。また、精米歩合8%の純米吟醸を発売するなど、チャレンジ精神にあふれる酒造りで知られます。そこで一蔵人として積んだ経験が、飯田さんに大きな影響を与えたといいます。
「多くの人が見学に来る蔵だったので、おいしいと言われることで、人を感動させられる仕事なんだと再認識しました」
そして、帰ってきて抱いた危機感も、蔵と飯田さんを成長させます。
「来福酒造に行っていなかったら、うちは潰れていたかもしれません(笑)。うちの人はよその酒を飲んで勉強していなかったし、純米吟醸(の市場)が動いている中、うちは1本しか造っていなかったんです。造りの方法も含めて、どこから手を付けたらいいかわかりませんでした」
ほどなく前杜氏が退職し、自身が杜氏に就任。花酵母の種類を増やし、純吟などの特定名称酒を増やしました。また、搾りたてのおいしさを保つよう、工程も見直しました。
「人がいないから味が落ちるという言い訳はしたくないんです。毎年、去年よりおいしくするというのは当たり前のことだと考えて、取り組んでいます」
積善は市内では3店でしか手に入らない。手間を惜しまずに酒造りをしている
オンリーワンの酒造りを
飯田さんらは現在、「59醸(ごくじょう)」と銘打ったプロジェクトの準備を進めています。メンバーは5人。いずれも県内の蔵元の後継ぎで、昭和59年度生まれです。
5つの蔵は現在、生まれ年の「59」に合わせて、精米歩合59%で美山錦を原料としたお酒を仕込んでいます。これを5月9日にリリースする予定です。ターゲットは若い世代です。
「普段、日本酒を飲まない人や若い世代に、若い人間が造っているお酒を知ってもらうきっかけをつくりたいんです」
飯田さんが仕込んでいるのは、2種類の花酵母をブレンドした「積善」。ブレンドするのは初めての試みです。
4月1日で30歳を迎える飯田さん。まだまだ試行錯誤が続くと話します。
「万人受けするというよりは、オンリーワンの酒造りの方が、やっている方はおもしろいですね。経営的にはよくないと思うんですけど(笑)」
花酵母はそれぞれ強い個性を持つだけあって、酸味やうまみのバランスをコントロールするのが難しいといいます。しかし、一方でそこが最もおもしろいと、また笑みを浮かべる飯田さん。若き杜氏の挑戦は始まったばかりです。
香りに嗅覚を集中させ、出来上がりに思いを馳せる
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会える場所 | 株式会社西飯田酒造店 長野市篠ノ井小松原1726 電話 026-292-2047 ホームページ http://w2.avis.ne.jp/~nishiida/index.html |
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