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No.190

吉岡

麻美さん

デリクックちくま 商品開発課

パン業界に新しい風を吹かせる
信州のピンクレディー

文・写真 Yuuki Niitsu

食の老舗会社の新たな挑戦

『様々な食のシーンをサポート』をスローガンに、お弁当やケータリング、給食などを手掛けるデリクックちくま。2014年には新たな事業展開としてパン事業を開始。2015年1月からは目玉商品となる「パン弁当」を発売しました。そこに商品開発担当としてゼロから携わったのが管理栄養士でもある商品開発課の吉岡麻美さんです。

「きっかけは2014年1月に、地元の製粉会社から何かコラボ商品を作らないかと声をかけてもらったことです。それで企画を出していくなかで、当時うちの社員食堂でカレーが人気だったので、カレーパンを出そうということになったんです」

その案が採用され、すぐさま商品化に向けて動き出しました。しかし、事は順調に運びませんでした。

「カレーパンが商品化されたのは良かったのですが、カレーパンのみでは他の大手パン会社との競合で、なかなか販路がなかったというのが現状でした」

しかし、ある人の行動が自身を後押ししてくれることになります。

1時間で2000個のコッペパンを作る機械。パンは低温を嫌うため工場内は20度を保つ。それ以下になると「パンが風邪をひく」という

先見の目がある社長

吉岡さん含め商品開発課4人のメンバーで、なんとかカレーパンを市場に出そうと議論百出する毎日。そんな状況を打開しようと社長である北澤英行さんが自社に工場を立ち上げると言い出します。

「まだパンの販路も決まっておらず、この事業が軌道に乗っていないなかで、自社工場を先に立ち上げるんですから。正直驚きましたが、さすが社長!肝が据わっているなと思いましたね。でもこれで、後戻りはできない、絶対に成功させてやろうと思いました」

この大胆な社長の行動が背中を後押ししてくれたと振り返る吉岡さんですが、県内のパン事業の現状にも課題がある時期だったといいます。

「県内ではパン工場の老朽化や世代交代という課題が浮き彫りになってきていたんです。そんな状況を見かねて、なんとかしようと一念発起した社長がパン工場を作っちゃったんですよ」

そんな社長のアイディアで商品開発課の女性メンバーの制服はピンク。眼鏡をかけている吉岡さんは、歯科医のような上品さを漂わせています。

パン工場の立ち上げが決まると、社員全員で自社の空き工場を掃除し、設備を導入。そして2014年10月に工場が完成し、会社に新しい風を吹かせてほしいと、吉岡さんに白羽の矢が立ちます。

「うちは組合として始まった会社で古い体制が残っていて、お客さま主体の商品作りが出来ていなかったんです。なので、とにかく会社のイメージを変えようと思っていたので、ちょうどいいタイミングでした」

プレッシャーもあったといいますが、常に100パーセントの力を出すことをモットーにしている吉岡さんはこのチャンスに妥協をしませんでした。

社運をかけたパン弁当。パンは日替わりで、パッケージも女性うけするような可愛らしい作りである

お客さん志向のなかで産まれたパン弁当

工場が立ち上がり、会社の期待を一身に背負った4人の商品開発課のメンバーは、数か月の商品開発の結果、お惣菜と組み合わせようという案に辿り着きます。

「うちは女性向けの商品が少なかったんです。それで、女性をターゲットにするなら、パンをメインにしてお惣菜も組み合わせたものを作ったらうけるんじゃないかと考えたんです。しかも、パッケージにもこだわり、持ち運びしやすいように取っ手をつけて、色はパルセイロをイメージしたオレンジにしました」

パン弁当が生まれた瞬間でした。

また吉岡さんがパン弁当を手掛ける頃、時を同じくして、パン職人が入社してきます。

「34歳という若さで、変に職人ぽい癖がないんです。だから、作り直しなど含めて、毎回私たちの意見に柔軟に対応してくれるので助かりました」

このパン職人、土山貴吉さんとの出会いもあったからこそ、パン弁当が軌道に乗ったと振り返ります。

2014年に社員食堂で、パンをメニューとして取り入れてから、その味が評判になり、今年1月には、産業給食として企業向けにパン弁当を販売し始めました。

「添加物を一切使わず、食感を大事にしています。自社工場でパン生地から作っているため、新鮮なものを提供できるのが強みです」

パン職人、土山さんと。こうしてふたりを比べると工場でのピンクの制服が映える

そう自負する吉岡さんですが、そのなかでも特に、天然植物発酵調味液の「フード・マックス」が特長だといいます。

「最適なタイミングでイースト菌が発酵する手助けをするんです。その結果、きめの細かいパンが出来ます」

現在、女性客を始めその評判は徐々に広がりつつあるといいます。

自らを『万人受けする味がわかる』と評する食のプロの吉岡さんが一番好きな食べ物、それは『パンプディング』だそうです。

上司からも、『信州人にはなかなかいない挑戦心のある女性』と一目置かれる吉岡さん。そんな彼女と社長なら、ピンクレディーと阿久悠のような最強のタッグとして、今後信州パン業界にますます新しい風を吹かせてくれるかもしれません。

30台近くある車で県内のお客さんに食を届けている。パン弁当の人気で今後も車が増えることを願う

(2015/02/10掲載)

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