No.187
倉石
孝子さん
不妊ピア・カウンセラー
当事者同士だからこそ語り合えること
文・写真 Chieko Iwashima
不妊の悩みを気軽に話せる場所
長野市内で月に1~2回、不妊に悩む人のためのカウンセリングを行っている、不妊ピア・カウンセラーの倉石孝子さん。面接によるカウンセリングのほか、不妊当事者の女性が数人集まる「おしゃべり会」もあり、本格的なカウンセリングに行くのは敷居が高いけれど、ちょっと話を聞いてもらいたいという人も気軽に参加できます。
「ピア」という言葉には「仲間」や「同じ立場」という意味があり、不妊ピア・カウンセラーとは不妊を経験したことがあるカウンセラーのことです。この資格は、不妊に悩む人への支援活動をしているNPO法人Fineが定めているもので、不妊における医学や心理学などを深く学んでいます。一番の特徴は、当事者同士にしかわからないような悩みを気軽に話せるということです。
「おしゃべり会」は、同じ悩みを持つ者同士すぐに打ち解けることができます。みんなでテーブルを囲んでお茶を飲みながらワイワイと話をする様子は、よく見かける女子会となんら変わりません。
「ランチをしながら行うおしゃべり会もあります。不妊って言葉だけ聞くと暗いイメージがあると思いますが、共通の話題ですぐ盛り上がるんですよ(笑)」
「不妊治療の悩みは人によって複雑で、誰にでも話せることではありません。仕事との両立や経済的なことだけでなく、旦那さんや両親との人間関係…。いろんな思いを1人で抱え込んでいる人がいるので、ここへ来て話してもらたいです」
倉石さんは、まだ結婚や出産を考えていないような若い人を対象とした活動もしています。
2014年6月には、10代を対象とした「いのちのスクール」(信濃毎日新聞主催『温かな手で』)で、妊娠・出産は当たり前ではないことを不妊体験者の立場から伝えました。
「若い人は、まさか自分が不妊になるとは思っていないでしょうから、ピンと来ないと思うんですが、妊娠可能な時期を知ってライフプランを考えておくことはとても大事なこと。まず自分の体のことをちゃんと知ってもらいたいと伝えました。そして、不妊になってから夫婦のコミュニケーションがうまくいかないとケンカになったり家の中の雰囲気が悪くなったりしてしまうので、今から身近な人とお互いを尊重できるようなコミュニケーション力をつけていってほしいと思っています」
愛知県春日井市で行われた「勝川ART研究会」で体験談発表する倉石さん
不妊治療の経験を生かして
倉石さんは、不妊ピア・カウンセラーになる以前、約7年間の不妊治療を行っていました。
治療中は、妊娠への期待とだめだったときの落胆が感情のジェットコースターに喩えられるそうです。
「妊娠判定までの間、妊娠しなかったときのことを考えて期待しないようにしていました。でも、やっぱり期待してしまう。期待した分だめだったときの落ち込みは回を重ねるごとに深くなって、どこにぶつけていいのか分からない感情をため込んだまま、ちゃんと悲しむ時間もないまま治療が進みます。期待と落胆の繰り返しがジェットコースターのようです。年齢的な焦りから一旦治療を始めると、スケジュールに沿ってどんどん進んでいくんです。今度は乗ったジェットコースターから降りられない。担当の先生には私が辛そうに見えていたんですね。『少し休んだら』と言われて治療の解放感からほっとしました」
倉石さんは身近な友人が不妊治療をしていたため、不妊治療の辛さを話せる相手がいたことで助けられていました。
「友だちに話せて、ちょっとガス抜きができました。あれがなかったらもっと辛かったですね」
そして、止めるタイミングが難しいのも不妊治療です。倉石さんは年齢的に考えて治療を続けるかどうか悩んでいたときに不妊ピア・カウンセラーの存在を知りました。
「不妊になった意味を自分で納得するためにも、これだったら私はできるし、今まで費やしてきた時間と労力も無駄にならない。がんばってきた自分を認めてあげられると思いました。資格取得は、いいきっかけだったと思います」
1年間、毎月1回東京へ講義に通って資格を取得。不妊治療をしている友人に話せたことで助けられた経験から、当事者同士不妊のことを安心して話せる場所を作りたいと考え、2013年1月から長野市で唯一の不妊ピア・カウンセラーとしての活動をスタートしました。
10代の女性たちに「まずは基礎体温をつけて自分の体のリズムを知るところから始めてほしい」と倉石さん
これから妊娠を希望する人へ
今すぐにではなくとも、いずれは子どもがほしいと思っている人は少なくないと思います。私もその一人です。ただ、あまりのんびりしていると妊娠の機会を逃してしまうかもしれないし、そもそも妊娠できるのかどうかもわかりません。昨今は、卵子提供や代理出産など、妊娠・出産についてさまざまな情報が飛び交っているので、漠然と不安も募ります。そんな「なんとなく心配」という人にも不妊ピア・カウンセラーは頼れる存在です。
「NPO法人Fineは、現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会なので、ピア・カウンセリングは、不妊かもしれないと不安のある方でもご利用できます。たくさんある情報の一部だけを見て不安にならずに、正しい情報と正しい知識を持ってもらいたいし、提供していきたいです。夫婦でどうしたいかを考えるきっかけにもなれたらいいです」
不妊治療を行っている鍼灸師さんへ向けて北信鍼灸師会女性部の研究会で不妊の体験を発表した
自分の置かれた場所で
倉石さんが最近読んだという本『置かれた場所で咲きなさい』(幻冬舎/渡辺和子・著)には、自分の与えられた環境で自分らしく咲くということが書かれていました。倉石さんはその考え方がストンと心に落ちたといいます。
「私も子どもがいる人を見たらうらやましいと思うこともあるけれど、自分には子どもがいないから不幸なのかというとそうじゃないし、子どもがいる人だって悩みがないわけじゃない。私はこの場所に置かれたんだと思っています」
苦しかった不妊治療の経験から、自分の進む方向を見出した倉石さんだからこそ、悩む人の気持ちが分かり、その人らしい花を咲かせるために水を与えてくれるような存在になることができるのだと思います。
「きっと、子どもがほしいという気持ちは、ずっと消えないものだと思います。子どもがいない人生を歩もうとする自分と、もしかしたらまだ・・・という気持ちの自分と、私も揺らぎながら歩んでいる感じなんです」
無理に白黒はっきりさせなくてもいい。自分自身と向き合うことから新たな一歩が始まるんだということを倉石さんの穏やかな笑顔に教えてもらいました。
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会える場所 | 不妊ピア・カウンセリング 長野市生涯学習センター(トイーゴ) 電話 ホームページ http://j-fine.jp/ 2015年2月12日(木)、3月29日(日)10時~10時45分、11時15分~12時 |
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