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No.186

橋本

憲午さん

らーめんるるも店主

温かいラーメンをどこまでも

文・写真 Yuuki Niitsu

温かいものをすぐに提供する

ラーメンと言えば今や日本人の人気食の1つです。「熱くてもラーメンはのびないうちに食べる」というのが鉄則とされているこの世界。にもかかわらず、猫舌の私は、子どもの頃に、らーめんに度々、水をかけて食べていて、周りの大人をよく悲しませていました。

今日ご紹介する「らーめんるるも」の店主、橋本憲午さんは「温かいラーメンをすぐに提供したい」という思いから、お店に食べに来られない人に対して「出張らーめん」を定期的に行っています。

現在、長野市駅前と丹波島に2店舗を構えるらーめんるるも。その丹波島店で店主を務める橋本さんは、県内の15ヶ所ある高齢者施設や児童養護施設などに出向き、ラーメンを作っています。

「目の前で作ると、お年寄りが喜んで食べている顔が見えるでしょ。それが、全ての力になるね。ラーメンはやっぱり温かいうちに食べるのが一番だから」

優しい目が印象的な橋本さんは、話をしている最中にもラーメンを食べているお年寄りや子どもたちの姿を思い出しているようでした。

出張らーめんが好評な理由は、味や橋本さんの人柄はもとより、ラーメンを作っているところを厨房の中ではなく、目の前で見られるということにもあるようです。大きな寸胴から、麺を取り出し、湯気をあげながら麺を注いでいく、その姿を360度どこからでも見られるスタイルがうけているようです。

「お店だと厨房の中で作るから誰が作っているかわからないでしょう。でも、目の前で作ると誰が作っているかひと目でわかるから安心してもらえるんですよ。それに大きな寸胴の中から、70、80食もの麺を湯切りしてどんぶりに次々に入れていくわけだから、作っているパフォーマンスに釘付けになってくれるんです。それが面白いと評判になってね。でも、私自身も作る姿を見てほしいんですよ」

パフォーマンスに目が釘付けになり、食して目が潤む。文句の付けどころのない橋本さんの出張らーめんですが、ここまでの道は平坦なものではありませんでした。

橋本さんが働く丹波島店。出張らーめんでお店を空ける際は、息子さんが切り盛りする

食べたくても来られない人たちがいる

2015年2月で出張らーめんを始めて丸4年になるという橋本さんですが、そのきっかけになったのはあるお客さんの反応でした。

「出張らーめんを始める1年前に、重度の障害者の方が3名、付添いの方と来店したんです。その時に、すごい大きな声を出して、喜んで食べているんですよ。その姿を見た時に、『食べたくても食べに来られない人もいっぱいいるんだ。何とかしたいな』と胸にこみ上げてくるものがありました」

この時の彼らの喜ぶ声と顔が忘れられないという橋本さんは、来られない人のためにも、目の前で自分の作ったラーメンを提供したいという思いのもと、出張らーめんを始める決意をします。

「一大決心に出たんですが、お店と並行しながら出張らーめんをやるということはお店の経営にも支障がでるし、果たして一人で出来るか不安になったんです」

そんな橋本さんは店の常連客だった社会福祉協議会の職員に相談を持ちかけます。その職員が賛同してくれて、担当者を紹介してくれることになり、保健所に許可を取りに行くまでに話がうまく進んでいったといいます。
しかし、思わぬところに弊害が立ちはだかっていました。

厨房を使わずホールでラーメンを作る橋本さん。360度どこからでも見ることができる

半年待った営業許可

実は、プロの料理人は自分のお店以外の厨房では料理をしてはいけないという決まりがあるそうです。それでも、橋本さんは一縷の望みをかけて保健所に許可をもらいに行きます。

「私は、出張らーめんをずっと続けたいので、特別な申請をすれば許可が下りるかもしれないと思い、足を運びました。でも、審査が予想以上に厳しくて、何度行っても駄目でした」

高齢者施設や障害者施設などに食事を提供するということに加え、あまり例を見ないスタイルという要因が重なり、なかなか許可は下りなかったといいます。

「とにかくこちらは、目の前で温かいラーメンを提供し、作っているパフォーマンスで喜ばせたいという気持ちを誠実に伝え続けました」

申請を始めて半年後に、社会福祉協議会の職員と最後の望みをかけて行った申請で、厨房を使わずに料理するという条件のもと、ようやく許可が下ります。

「嬉しかったですね。それにもともと、作っている姿を見てほしいという思いがあったのっで、厨房を使わないというのがプラスになったんです。これで、ようやくスタートラインに立てたという思いで、帯を締め直しました」

食事を終えた高齢者から「美味しかった」との一言に、思わず笑みがこぼれる橋本さん。この瞬間のためにやっている

念願の出張らーめん

申請が下りてから、橋本さんは出張専用の軽自動車も購入し、さらに厨房が使えないということでガスボンベなども揃え、全ての準備が整います。
道具や材料、そして熱い思いをワンボックスの車に載せ、初めて行った先は、2011年2月の高齢者施設でした。

「一番最初に食べてくれたお年寄りの姿が忘れられないんですよ。食べた後に、手を合わせて『ありがとう』って、泣いて喜んでくれたんです。ラーメンは涙を誘うこともあるんだなぁって、新しい価値観を見つけましたね。この顔を見るために、ずっと続けているんです」

目頭を熱くしながら橋本さんは話します。

2011年から出張らーめんを始めて、数々の施設に温かいラーメンを提供してきた橋本さん。当初は夫婦で出向いていましたが、近年奥様が体調を崩したこともあり、現在は一人で県内を回っています。

「体力が続く限り続けます」

そう力強く話す橋本さんですが、一人になっても決して妥協はしません。

「出張用はもともと細くて薄い麺にしているんですが、食べる人によってはさらに短くもしますし、具を刻んで食べやすく調整しています。それに、げんこつは飯山産の無菌豚の骨しか使っていないですし、それも冷凍前の生のものだから、新鮮そのもの。全て手作りだから、お年寄りや体が弱い人にも安心して食べてもらえます」

取材した日は、信州髄一の豪雪地帯である栄村まで温かいラーメンを作りに行った橋本さん。
演歌が流れるホール全体にラーメンの香りが漂い、ここで63人の胃袋と心を満たしました。

麺一本一本噛みしめながら、時間をかけて食べるお年寄りの姿を見ていると、私の空腹などどこかに吹き飛び、橋本さんが作るラーメンなら少年時代、水をかけることはなかっただろうと思いました。

取材した日は栄村の施設に訪問。どんなに雪が降ろうと、橋本さんは待ってくれる人のために車を走らせる

(2015/02/04掲載)

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会える場所 らーめんるるも丹波島店
長野市丹波島2-19-10
電話 026-283-5960
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