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No.184

宮崎

秀夫さん

塩崎文化財保存会

燃える3つの炎は村のシンボル
「道祖神のどんど焼き」を継承する

文・写真 Rumiko Miyairi

男女仲むつまじく

パチッ、パチッ、パン、パン…。

平成27年小正月、長野市篠ノ井塩崎では毎年恒例となった行事「道祖神のどんど焼き」が行われ、縁起の良い大きな炎と威勢よく燃える竹の音が鳴り響きました。

「でかいですよ、オスガタはね。3メートル以上はありますね。毎年、地区の男衆が新しい心意気を持って、よし、これで1年が始まる!という気合を入れて作ります。ですから緊張感が走りますね」

意気盛んに話す塩崎文化財保存会の宮崎秀夫さん。

宮崎さんは、長野県指定無形民俗文化財の一つになっている塩崎の越(こし)地区、平(ひら)地区、東谷(ひがしだん)地区の「道祖神どんど焼き」を守り続けています。

長野県指定無形民俗文化財の一つ、篠ノ井塩崎越地区の道祖神どんど焼き「オスガタ」

今年の準備を始めた1月11日の朝は、氷点下に達し雪が舞い、例年に増して極寒の日になりましたが、夕方5時の点火に向けて準備が粛々と行われる中、宮崎さんは守り継ぐ気持ちを熱く語りました。

「塩崎地区のどんど焼きは、歴史が深いんですが昭和30年代に一度途絶えてしまったんです。全国的にみて人形を用いた道祖神祭りは稀少なんです。ですから、これを復活させたいという声が上がって、昭和58年1月15日、その願いが実現しました」

手探りで昔の資料などをくまなく辿ったという宮崎さん。

当時の長野県立歴史館、宮下健司さんにも指導を得てどんど焼きの中心に立てるワラの人形などを忠実に再現し現在に至ります。

復活を成し遂げた塩崎3地区のどんど焼きは、「オスガタ」「オンマラサマ」「カンタサン」という、どれも男女をかたちどるものを作り、各家庭から集まった正月飾りやダルマなどをその周りに添えて燃やします。

オスガタは竹とワラで作った胴体から立てられる。地区総出となって、手際よく作業が始まる

宮崎さんの住んでいる越地区は「オスガタ」という、竹を骨組みにしてワラで胴体と頭を作って、つなげると3メートルは優に超える巨大な人形をこしらえます。

そこに、着物と烏帽子に見立てたものを、古いお札や半紙を貼り合わせて作ります。顔は太い眉毛やきりっとした髭を生やした男性を描きます。袖には墨で力強く「家内安全」「五穀豊穣」「子孫繁栄」「夫婦円満」の言葉。この地の先人たちが伝えてきた願いが込められます。

宮崎さんは、穏やかな表情でオスガタを作る訳を話します。

「オスガタは男神なんですよ。だから縁起をかついで男のシンボルを大きく作り、その前に、女神としての女性のシンボルを置くんです。これで男女を表し、仲むつまじくしていくことがこの土地の繁栄を意味するものだと昔から願ってきたんです」

完成した越地区の「オスガタ」。今年も真一文字に口を描き男神の力強さを表現した

地区ごとで守り継がれるもの

東谷地区では「カンタサン」という男女一対の人形を作って燃やします。

ここでは、宮崎さんが信頼している東谷地区の宮本徳行さんがこの地区のどんど焼きの陣頭指揮に当たっています。

宮本さんは「カンタサンは、色紙を使って婿(もこ)さんと嫁(よめ)さんを作って表すんです。昔からの作り方が教え継がれているので、毎年、前のものを見本にしながら作るんですが、まったく同じではなく、その年々の特徴がでますよ」と、前日に保存会の若いメンバーから子どもたちまでが集まって準備をすることを微笑みながら話ました。

別の地区に行っても、人に行き会うたび「元気かね」と気遣いの声掛けをする宮崎さん。

「それぞれ地区ごとで、昔から続くものを守ろうとしてみんな良くやってくれています。仲も良いですよ」

ニコニコしてそう話す宮崎さんは、温かいまなざしで3地区のどんど焼きを見守り、そこに暮らす人みんなの一年の無事を願っています。

東谷地区のカンタサンは、点火されると見に来た人たち全員に5円玉のお賽銭が配られました。それを燃えているカンタサンに投げ入れてお祈りし、無病息災や良縁に恵まれるように、仕事が順調にいくようにと、手を合わせて様々に願います。

カンタサンをかたちどった色紙に火が燃え移るとその願いが届くとされてきました。

燃え尽きるころになると残り火で餅などを焼くことができますが、このほかにお賽銭拾いに夢中になる子どもたちがいる、と聞いて微笑ましい気持ちになりました。

東谷地区では、地大根で作られたカンタサンの顔を持ち帰ってお祀りすると、その年にその家に赤ちゃんが授かる、という言い伝えもあるそうです。

ここでも、村の繁栄を願う先人の思いが感じられました。

宮崎さんが信頼をおく東谷地区の宮本徳行さん。東谷地区道祖神どんど焼きの指揮に当たっている

東谷地区「カンタサン」。正月飾りも集められて、点火のときを待つ

思いをすべて人形と漢字一文字に込める

平地区も同様、男女をかたちどる人形どんど焼き「オンマラサマ」が行われています。

この地区は、ワラで人形の本体を作り男性のシンボルも中心につけ、その存在感を表しています。

全身は男性としながらも、その顔は女性を描いて連帯した男女を表しているそうです。

平地区は塩崎の中でも山の急斜面に広がっていることから、この地区の人によると、新しい年をオンマラサマに見守ってもらうために、村を見下ろせるように置いて点火するそうです。

どの地区も順調に人形が作られ、今年の恵方、西南西から点火が成されました。

「景気が良い年は、出される縁起物のだるまの数が多くてね。門松も大きいですね」

数十年見続けてきた宮崎さんは、一時期に比べると、決して多くなく景気も良いとは言えないけれど、この、どんど焼きの準備に関わる人、見に来る人の笑顔は、絶えず変わらないといいます。

毎年、オスガタの烏帽子には、その年に願いを込めて漢字一文字が描かれます。

近年は「絆」や「金」、「輪」が描かれてきました。

今年の漢字は「和」。

宮崎さんのどんど焼きへの思いは、そこに生きた先人たちの思いであり、和を以て貴しとなす、という未来に伝えたい思いです。

燃え上がる炎のごとく、この先もずっと変わらぬまま受け継がれていくでしょう。

平地区の「オンマラサマ」。男神を強調しながらにして女性の顔を描き、男女一体を表現している

 「燃え上がるオスガタは地区のシンボル」という宮崎さん。宮崎さんを囲んで今年のどんど焼きの幕が上がった

(2015/02/02掲載)

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