No.173
南澤
宏一さん
株式会社ミナミサワ代表取締役
困りごとをデザインで解決する
中小企業の特性を生かした現場主義
文・写真 Takashi Anzai
グッドデザイン賞に2度輝く
2013年グッドデザイン賞を受賞した株式会社ミナミサワ。2000年に続く2度目の受賞です。2014年にはキッズデザイン賞を受賞。従業員10数人の中小メーカーが、デザインという面でこれだけ注目を集める理由は、南澤宏一社長の言葉から窺うことができます。
「ただかっこいいというだけではなくて、現場の困りごとを、いかに製品とデザインで解決できるかを考えています。いくらかっこよくても、現場の負担を少なくしたり、省エネになったり、そういった裏側の意図がないといけません。この機械を付けることで、どういうメリットが生まれるか、という発想を常に持っています」
同社の主力製品は、便器用自動洗浄器と自動水栓。いずれも、大手企業が古くから参入している分野です。しかし、ミナミサワは独自の発想で、市場を開拓してきました。
ミナミサワの便器用自動洗浄器と自動水栓は、既存の設備をほぼそのまま残しながら、短時間で設置でき、コストダウンにもつながります。開発当時、大手企業の商品は便器や流し台をまるごと交換して設置するものが主流でした。
「50年も前からあるような古い蛇口は存在するし、押しボタン式の便器も存在する。でも、まるごと取り替える費用がない人もたくさんいるわけです。かっこうはともかく、すぐ付けられればいいじゃないか、というひらめきでしたね」
1990年に便器用自動洗浄器「フラッシュマン」を発売。2000年に発売した自動水栓「水すい」で1度目のグッドデザイン賞を受賞しました。
2013年グッドデザイン賞に輝いた汚物流し便器洗浄用センサー。取り付けが簡単で、既存の設備もそのまま使える
付加価値を高めるために業種転換
株式会社ミナミサワは創業当初、不凍栓を製造、販売していました。南澤さんは、同社の2代目。父の営む工場が自宅と隣接していたため、モノづくりには子どものころから興味があったといいます。大学は機械工学科を選びました。
「親父の手伝いで旋盤を使っていたから、大学に行っても既に知っていることが多かったですね。夏休みには帰ってきて、工場で旋盤を操作していました。真面目だったなあ(笑)。工場と家が隣り合っているし、知らず知らずのうちに親の姿を見ていたからかな。それが今に繋がっている気もします」
卒業とともに帰郷し、家業に入ります。しかし、南澤さんが27歳のときに、父親が急逝。折しも、新工場を建設したばかり。銀行からの借入と新工場を一緒に引き継ぎました。
「それでも、親から引き継いだ、まじめにお客さんに接するDNAのおかげでミナミサワのファンがいてくださったので、10年くらいで切り抜けました。気持ちの問題だけれども、そういった試練は逆にツイていたとも思うんですよ」
その頃に進めたのが、業種転換です。不凍栓という鋳物製造から、センサー付き自動洗浄器という電気製品の製造へ。
「大きい会社と勝負するのに、鋳物は付加価値が高められないし、目方勝負では負けてしまう。だから、付加価値の高められそうなメカトロニクスの世界で常に何か探していたんです」
これまで数十の特許を出願しているという南澤さん。自身を「直感型」と称しますが、自動水栓も”ひらめき”で開発を始めたそうです。
本社工場で組み立て加工、検品を行い、工事業者やユーザーに出荷している
現場の声を聞き、そのまま開発へ
初代フラッシュマンは数個しか売れませんでした。コンセントから電源を取るスタイルだったのに、トイレにはコンセントがなかったと、南澤さんは当時を振り返り、苦笑いします。しかし、そこから改良を重ねました。最終的に売れる商品になったカギは、発売当初から直販のスタイルを取っていたこと。
「問屋さんを通すと、悪い情報がなかなか入ってこないんですね。それと、うちみたいな小さい会社が直販していると、現場の声がそのまま社長に来るわけです。そして社長自らがすぐ開発を進めるわけですから、大手とはスピードが違います」
フラッシュマンの変遷。左から右へ改良されていった
が、ミナミサワは次々と新しい独自のアイディアを製品化していきます。その中で生まれたのが、2013年にグッドデザイン賞を受賞した汚物流し便器洗浄用センサー。病院で看護師さんの負担を減らすだけでなく、感染予防などにも効果があることが評価されました。2014年にキッズデザイン賞を受賞したのは、幼稚園・保育園向けの動物のイラストが施された自動水栓。子どもたちに楽しく手洗いの習慣を身につけてもらおうという意図から企画されました。同年12月には「水すい」を、狭い流し台でも対応できる省スペース型に大幅リニューアルし、「シャワリー」として発売しました。
現場の声をよく聞き、ひらめきというエッセンスを加えて商品化する―。そのスタンスはこれからも続いていきます。
「大手とは違って、自らのメーカー、ブランドだから、だれも教えてくれないんですね。指示、命令もこないので、自分が満足してしまえばそれでおしまいなんです。この規模でやっていくには、特色があることをどんどん伸ばしていくしかない。資本力という弱みを補っても仕方ありません。これからも、大手がやりそうにないことをやっていきますよ」
狭い流し台でも対応できる省スペース型「シャワリー」
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会える場所 | 株式会社ミナミサワ 長野市中越1-2-22 電話 026-244-1102 ホームページ http://minamisawa.co.jp/ |
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