No.172
田中
春海さん
助産師/こども広場 じゃん・けん・ぽん
頼りになる子育て空間
スペシャリストが母育ち父育ちも応援
文・写真 Rumiko Miyairi
ママの良き理解者になる
もんぜんぷら座2階に、こども広場「じゃん・けん・ぽん」がオープンして11年が経ちました。街なかという格好の立地条件が、買い物ついでに子どもも遊ばせられる場所として立ち寄るパパやママが大勢います。
オープンしたばかりに私も娘を連れて遊びに行ったことがあります。娘は、じゃん・けん・ぽんの広いフローリングのフロアが気に入ったか、ずいぶん走りまわって喜んでいました。利用者は3年前に50万人を越え、安心して遊ばせられる場所としてすっかり定着しています。
ここで働くスタッフの中には、保育士や栄養士、助産師などの資格を持ち、子育ての専門的なアドバイスをしてくれたり、または助っ人になってくれるスペシャリストたちが揃っています。
「あかちゃんにおっぱいを飲ませるのをいつやめればいいかという、そんな相談が多いです」
こんなお母さんの悩みに応えるのは、助産師の田中春海さん。
田中さんは、長野市内で訪問型の「春海助産所」を運営しながら、じゃん・けん・ぽんに勤めています。助産師は、初めての妊娠から出産までの一部始終を見守り、お母さんになってからも母体の様子をみながら、あかちゃんのことにもふれ、育児のイロハを教えてくれます。初めてお母さんになった女性には、身近にいてもらえるだけで安心です。田中さんは日頃の活動と専門知識を生かし、じゃん・けん・ぽんに勤めだしました。しかし当初、自身の居場所を見つけようと試行錯誤を重ねます。
「助産師だから授乳室にいるのが普通だと思い、初めはそこでおっぱいのトラブルは有りませんかって聞くことが私の仕事と考えました。だから、それをしてみたこともあったんですが、お母さんたちから相談を受けるどころではなく、逆にひいていかれてしまった感じでしたね(笑)」
当時を振り返り、気恥ずかしそうな表情をする田中さん。
「お母さんたちは自分で情報を集めていますから、それでも迷ったときが私の出番だと気付きました。おっぱいをやめる相談も、周りの人が言っているからその方がいいか確かめたいんですね。そんなときは、お母さん本人の気持ちが一番で、周りに流されず、その気になれたときがベストタイミングなんですよ、と答えますね」
助産師になり、妊娠、出産、子育てをする女性をつぶさに見てきた田中さんだからこそ、「お母さん自身の心境が、そのときのふさわしいものを知らせてくれる」と、お母さんの繊細な気持ちに応じたケアをします。
広場内は遊具がいっぱい。絵本コーナーや休憩コーナーもある。ボランティアさんによる季節に応じたイベントは家族みんなで参加♪
あかちゃんのこと、お母さん自身のこと...田中さんはママの理解者となり聞いてくれる
命の誕生は奇跡である
昔は人とコミュニケーションをすること、ましてあかちゃんに関わることは苦手だったという田中さん。
人見知りをする性格だった田中さんが、助産師の職に関心を持ったのは高校3年生のとき。
たまたま図書館で見掛けた本に、不十分な医療環境の農村地域医療がテーマとされたレポートがありました。
「地域によっては物資もなく命を守ることにさえ困っている人が大勢いることを知って衝撃を受けました。このとき、医療の現場で働きたいと思ったので看護学校に行こうと決めました」
そして東京の国立病院医療センター附属看護学校に進学します。
しかし、どちらかというと国の最先端医療が学べる学校だったということに入学してから気付きます。地域で医療環境に困っている人のための医療を学びたいと思っていた田中さんは、その学校生活をどこか煮え切らない気持ちで過ごします。このまま看護師になる事に抵抗を感じ、青年海外協力隊へ仕事を探しに行ったところ、支援の相手国のほとんどが看護師や保健師よりも助産師を求めている事が分かりました。
「どんな国でもあかちゃんが生まれて、みんなが大事に育て守りたいと思っているんです。当たり前のことかもしれませんが、あかちゃん(命)が生まれることって奇跡に近いこと。それを守りたいと強く思いました」
その当時、相手国の要望は10年以上の経験がある助産師でした。すぐに発展途上国へは行けない事を知り、助産師としての経験を積むため、長野赤十字病院に就職します。
「ホギャーって元気な声が聞けるまで緊張の糸をゆるめられません。元気に出てきてくれるか、それともぐったりしているか。あかちゃんの頭を手で触って慎重に誘導してもスポーンとでてくる場合もありますからね。当たり前に思えますが、命が生まれるって奇跡ですよ。だから毎回、元気で生まれてって、祈る思いでした」
命に向き合ってきた田中さん。ねんねの会では田中さんも一緒に参加して子育てを応援している
経験を糧にして
田中さんが助産師として働き始めて5年。第一線で活躍しそのあいだに結婚もします。公私ともに順風満帆な田中さんが、その後の妊娠をきっかけに職場を辞める決心をする出来事が起きました。
いつものように3交代で勤務し、分娩台の妊婦さんを励ましながらあかちゃんを取りあげようとしていたときでした。「おめでとうございます、あかちゃんも元気ですよ」とその直後、田中さん自身のお腹に激痛が走りました。出血が始まり、そのとき田中さんのお腹に宿っていたあかちゃんの声は聞けませんでした。
「助産師なのに自分の妊娠となると知らないことばかりで、辛くて自分を責めましたし心や身体の変化に動揺もしました。今まで単に助産師ってことで、妊婦さんに叱咤していただけだったんです。体験して分かった感覚はいままでの知識以上のものを気づかせてくれました」
辛く悲しい自身の妊娠経験は、助産師そして母親になる女性として、さらに器を大きくしてくれたと話す田中さん。それからは自分の体の変化をしっかりと受けとめます。
「今度こそ、お腹の中でしっかりあかちゃんを育てようと自分の体にも注意を払いました。マタニティスイミングやラマーズ法が流行りましたから、母体にもあかちゃんにもいいと思ってやりました。出産のときも、そのラマーズ法が立ち会い出産のはしりだったのもあって、レポートを病院へ提出して許可をもらい旦那に立ち会ってもらってお産をしました」
辛い経験を乗り越えて、田中さんは2児の母親となりました。
パパの出番でママがリフレッシュ
当時、旦那さんの協力が心嬉しかったとニコニコとする田中さん。じゃん・けん・ぽんでも、ママに協力する子ども連れの若いパパをよく見ると話します。
「土日はママが美容院に行くとか婚礼に呼ばれたからとか、そんなママが用事でいない間パパがあかちゃんのお子守りとして遊びに来てくれますよ。ママ自身の時間を大事に考えてくれていますね。なにより、ママの用事のついでに子どもを遊ばせてあげるなんて賢い。そんな育メンが集まって来ますよ」
田中さんによると、じゃん・けん・ぽんは買い物などのついでに家族で立ち寄れるところだといいます。近ごろ、そうして家族の時間を有意義に過ごす若いパパやママが多くなりました。同じビルの1階には、食品スーパーやパン屋などが入っているので、お腹が空いたらすぐに食料を調達してくる、というメリットを活かしている人たちもいます。
じゃん・けん・ぽんでは、あかちゃんの育ちに応じて色々な催しやセミナーを企画。田中さんも毎月1回行う両親学級などを担当しています。田中さんのセミナーは、安産はもとより子育てをパパも楽しんでもらおうという内容。だから子育てを楽しみたいと思う育メンたちがたくさん集まって来ます。
「子育ては、その時と場所に応じて臨機応変にできると負担が減りますよ。むしろ充実感につながります。困ったことがあれば、些細なことでも話せる相手(場所)が身近にいるといいですね。パパも参加して楽しい子育てを一緒にしましょう」
長野の街なかにあるじゃん・けん・ぽんは、地域の子育てを見守りどんな悩みも一緒に考えてくれる場所。
そこには、地域医療を重んじ、子育てパパやママの頼りになる助産師、田中さんがいます。
お父さんも一緒。広場は食べ物の持ち込みOKなので、好きな時に食べられるのが魅力
遊びに来ているお友達の手形。誕生月にとって、じゃん・けん・ぽんからのプレゼント!
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会える場所 | こども広場 じゃん・けん・ぽん 長野市大字南長野新田町1485-1もんぜんぷら座2階 電話 026-219-0022 ホームページ http://www.na-kodomo.com/jyankenpon/ FAX 026-223-0731 |
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