No.167
小出
圭児さん
株式会社LinkUp 代表取締役
2パーセントの消費者のために
文・写真 Yuuki Niitsu
北陸は加賀の地で商売する古着バイヤー
「古着の魅力は宝さがしのようなもの」
そう話すのは、株式会社LinkUp代表取締役の小出圭児さんです。
小出さんは長野市出身。
現在、石川県金沢市において古着ショップ「DON DON DOWN on Wednesday(ドンドンダウンオンウェンズデイ)」を2店舗経営しています。
DON DON DOWN on Wednesdayと言えば、名前の通り、毎週水曜日になると値段が下がり、最終的には100円まで下がるという業界の革命児的存在。現在、店舗数は国内外合わせて70近くにのぼり、私も愛用しているお店の1つです。
お店に並ぶ商品の9割は、お客さんから買い取った洋服をリサイクル商品として提供しています。
そして、その買い取った洋服は70坪ほどの倉庫に運ばれます。
「もともと家具置き場だったので、湿気が少ないんです。なので、洋服を保管しておくのには最適なんです」
そう話す小出さんの倉庫には現在、3万ピースほどの洋服が保管されており、ピーク時には10万ピースもの洋服がぎっしりと納められます。
小出さんは、スタッフ数名と買い取った大量の洋服の仕分けや値付け作業、そして2店舗の在庫管理を行っています。
大量の洋服に囲まれながら幸せそうな顔で作業する小出さんは、まさに冒頭で述べた宝探しをしている少年のように見えました。
多い時には10万ピースもの洋服が集まる。現在、小出さんと2人のスタッフが管理している
古着との出会い
「古着に興味を持ち出したのが中学2年生頃ですかね。当時、長野駅前にあった古着屋さんが行きつけでした」
この頃から「将来は、古着屋で働く」という夢を漠然と持ちます。しかし、大学で上京し、4年生になった時には、スノーボード業界でお金を稼ぐという夢に切り替わっていました。そして、まず海外で修業しなければならないという考えのもと、渡航費用を稼ぐため、アルバイトをすることにします。
その時に、たまたま働いたアルバイト先が、今のDON DON DOWN on Wednesdayの前身の古着屋でした。
当時21歳の小出さんは、社長にスノーボードで海外に行きたいという夢を話すと、「古着で海外に行かないか?」と口説かれたといいます。
この時に、「古着」「海外」という2つの夢が一つになり、古着バイヤーとして働くことになります。
現場では考えないで大量に仕入れる
初めての海外バイヤーデビューは、大学3年生の夏休みだったといいます。
「英語は喋れなかったんですが、社長がペラペラだったので安心していました」
そう当時を振り返る小出さんですが、2回目の買い付けから状況が一変したといいます。
「社長や他のスタッフが僕に英語を学ばせるために、ホテルの予約や食事するお店の手配、さらにはメニューが違った時のクレームなど全て僕に対応させるんですよ。でも、全然話せないから、助けを求めるんですが、知らんぷりですよ。それで、なんとか必死に身ぶり手ぶりで伝えるしかありませんでした。でもああいうスパルタがあったからこそ、ビジネスに最低限必要な英語が使えるようになったんだと思います」
今でこそ社長に感謝している小出さんですが、かつては冗談にならないような経験もしたといいます。
「ホテルでのやり取りで、僕は必死に伝えようとしていたんですが、相手にされず、気づいたらパトカー3台が駆けつける騒動になったこともありますよ。アメリカ人は、この人おかしいなと思うと、事務所に入ってカギをかけて警察を呼ぶんですよ。その時は、さすがに社長がフォローに来てくれましたけど」
こうした苦い経験もあって、英語を徐々に習得していき、アメリカと日本の往復を4年間続けました。
そんな小出さんが、今でも忘れられない言葉があるといいます。
「初めての買い付けで、1着1着丁寧に見定めて、試着もしていたんですよ。そしたら、社長に『現場では、考えないで大量に仕入れろ』と言われたんです。この言葉は、僕の古着観を変えましたね」
金沢市内で2店舗を経営する小出さんは毎日売り場に足を運ぶ。金沢は天気が不安定なため、晴れの日ほど買い物客が増えるという
古着は宝探しのようなものと考える小出さんでしたが、バイヤーとしての仕事は時間との勝負。
2ヶ月という期間の中で、地図を見ながら全米を車で走り回り、事前に決めておいたアイテムと枚数を買い付けていくという日々の繰り返しだったといいます。
「2ヶ月で大量の洋服を買い付けて倉庫に保管するんです。しかも、自分達が行ったお店に他のバイヤーが先に来ていて、買い占めてしまうなんてことは日常茶飯事。そんな状況で、1枚1枚見定めていたら仕事にならないですよね。だから、毎日が闘いでした」
プロとしてのバイヤーの心得を身に沁みこませられたという小出さん。
「アメリカの大きいサイズでも、このデザインなら日本でも売れるというセンスや勘を身に付けることができました」
そう胸を張ります。
お客さんから買い取った洋服は70坪ほどある倉庫で仕分けされる。もともと家具置き場だったため湿気はかなり少ない
捨てないで再利用する
今でこそ順調に2店舗を経営する小出さんですが、卒業後に就職してすぐ金沢出店の話が舞い込み、当初は苦労したといいます。
「金沢市は城下町。長野市は門前町。それでお互い閉鎖的なところがあって、似ているんですよ。ただ、金沢の方が攻撃的ですね。だから、最初は僕みたいなよそ者が商売しても受け入れてくれない厳しい土地柄でした」
「金沢発東京」ではなく、「金沢発世界」という言葉が金沢ではあるように、それだけ独自な文化がある土地柄でしたが、小出さんは、「古着の良さ、物の大切さを伝えたい」という思いで、今日までやってきました。
「アメリカはリサイクルという仕組みがしっかりしているんですが、日本はまだまだですね。買ったものは捨てるという考えが根本にありますし、自分の買った服を売るなんて恥ずかしい、売れるわけないと考える人が多いんですよ。しかも、古着のイメージは汚い、暗いというのがほとんど。数年前にとられた統計では、全消費者の中で古着を買う人は2%しかいないということがわかったんですよ。さらに買わない98%の中の8割は、古着屋に行ったことがないんです。でも、だからこそ僕らがいる意義があるんだと思いました」
最近ではリサイクルという言葉が浸透し、小出さんのような業界の人たちの働きかけもあり、古着の消費率は上がってきているといいます。
今後は金沢の文化を取り入れながら、富山出店、最終的には長野市にお店を出したいと展望を語ってくれました。
北陸の厳しい土地で勝ち抜いた小出さんの長野市出店を心待ちにしています。
毎週水曜日に値段が下がる。「欲しいものを見つけた時にすぐ買うか、水曜日まで待つか?」この見極めが古着マニアの心をくすぐる
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