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No.165

鎌田

悦子さん

フロイデピアノ教室主宰

生徒の最高齢は92歳
お年寄りを元気にするピアノ教室

文・写真 Takashi Anzai

楽しみたいという気持ちを大切に

ピアノ初心者のお年寄りに人気がある教室として、メディアでもたびたび取り上げられているフロイデピアノ教室。生徒のうち約半数が60歳以上で、最高齢は92歳です。人気の理由を、講師の鎌田悦子さんはこう語ります。

「大人で始めるということは楽しみたいということよね。素敵な気分になりたいとか、元気を出したいという気持ちを損なうことはしないようにしているの」

そのため、家に帰ると家族に「今日はピアノの日だったでしょ」と言い当てられる生徒さんも多いといいます。

「機嫌がいいから、すぐ分かるって。そういうものであり続けたいわね。『それほど弾けなくても、ピアノってそんなに楽しいんだ』と思ってもらえることは、私にとってもすごくうれしい」

最高齢、92歳の生徒さんは、なんと90歳で入門してきました。その時の気持ちを鎌田さんはこう振り返ります。

「ピアノは88の音があるの。それにちなんで、生徒さんには88歳、米寿のお祝いまでは頑張ろうね、って励まして教室をやってきたの。それが90歳だから、88を目指せって言えなくなってしまうと思ったわ。でも、その方は70歳までお花の先生をやっていて、私が見とれるくらいしゃんとしていた。今でも元気に習っていらっしゃるわよ」

「東京では非の打ちどころがない生徒が多かったけれど、長野では子どもが子どもらしく、大人も純粋」だという

試練があったからこそ楽しさに目を向けた

鎌田さんが長野市でピアノ教室を始めたのは22年前。家庭の事情で、夫の地元である長野市に、東京から家族で引っ越して来て間もなくのことです。

「最初、善光寺の近くに住んだんだけど、お年寄りが多くて、でもみんなすごく元気だったの。こんなに元気なら、ピアノをやりたい人も多いかもしれないと思って、『おじいちゃん、おばあちゃんのピアノ教室 生徒募集』って広告を載せたの。そしたら、(申し込みが)来た来た」

その楽しげな様子がテレビで紹介されたこともあって、入門したいという人は絶えず、フロイデピアノ教室は始めた当初から盛況でした。現在も多くの生徒に囲まれ、楽しそうに講師を続けている鎌田さんは一見、順風満帆な人生を歩んでいるように見えます。

しかし、その人生は大きな試練を背負ってスタートしました。

「(足の障害で)歩けないかもしれないという状態で生まれてきて、1歳で大手術を受けたの。骨をいじっているから、ランドセルも背負ってはいけないというくらい生活に制約があったわ。おかげでお嬢様でもないのに、母がランドセルを持ってついてきていたの」

思うように運動ができない娘の気持ちを思って、物心つく前から母親が習わせたのがピアノだったといいます。

「ピアノをやらせてくれた母に感謝している。あれもこれもできないから悔しい、悲しいではなくて、ピアノのおかげで、スケーターワルツを弾いてスケートをやっているつもりにもなれるし、すごく夢の世界が広がる。いろいろ負の要素を背負って生まれてきたけれど、楽しいことに目を向けられたの」

音楽大学を卒業後、東京でピアノ教室を開いていた鎌田さん。引っ越した先の長野でも多くの生徒さんに囲まれ、幸せな人生を送っていました。しかし、再び試練が訪れます。

定期的に発表会などで生徒さん同士を交流させている。自分より早く始めた人の演奏を励みに頑張る生徒さんも多い

大病を乗り越え、生涯元気を与える

鎌田さんは50代後半で大病を患います。残されている手段は臓器移植しかないという状況で、死を覚悟しながらもレッスンを続けていました。そして2010年12月、臓器提供者が見つかり、23時間にもおよぶ大手術を受け、成功します。手術は奇しくも尊敬するベートーヴェンの誕生日でした。

「ベートーヴェンが力をくれたと思っている。その日に新たに命をいただいた。他にできることはあまりないけれど、音楽では役に立つし、人がへこんだときは応援できるかもしれないと思っているから、寝たきりにならない限りは、生涯続ける」

鎌田さんはそう力強く話します。丁寧に楽しく教えているからだけではなく、その生きる強さがお年寄りに元気を与えているから、鎌田さんのもとには人が集まってくるのかもしれません。

「私より年上の70、80代の人も『先生の言うことには説得力がある』と言ってくれる。何不自由なく生きてきて、才能もあるという人も素晴らしいけれど、そういう人の言葉とはまた違って、私がさりげなく言うことはズシっと来るみたい」

自身が置かれてきた境遇を「ありがたい」と話す鎌田さん。今なお通院、服薬を続けながら、教室を続け、多くの生徒さんに元気を与えています。そこに悲壮感はまったくなく、前向きなエネルギーだけが感じられます。

「楽しく音楽をやっていると、私のことを小さいときから優雅に生きていると思う人は、いっぱいいるみたい。でも、闘いながら生きてきたし、今も闘いながら生きている。試練はいっぱいあった方がいいね。それが自分への栄養になるから。おかげで、『そんなに楽しそうなのに、まだ楽しむの』って言われるくらいよ。ベートーヴェンの『苦悩から歓喜へ』そのものね」

「とんがっている人でも、静かな人でも、とにかく人の面倒をみるのが好き。おせっかいなのね」と笑う

(2015/01/05掲載)

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会える場所 フロイデピアノ教室
長野市三輪9-20-2
電話 026-252-6339
ホームページ http://freude-jp.com/
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