No.160
柄澤
功さん
カラサワイサオ
アクション監督/スタントマン
現役でスタントマンを続けるアクション監督
文・写真 Chieko Iwashima
実はあの映画にも、あのTVドラマにも
バイクの前輪を上げたウィリー走行で颯爽と現れ、素早い身のこなしで敵と戦う姿。
2013年、連続ドラマに続き劇場版も公開された『仮面ティーチャー』の重要な場面です。
Kis-My-Ft2藤ヶ谷太輔さん演じる主人公が仮面をかぶって戦う姿に、惚れ惚れとした人も多いでしょう。
実はこの仮面の中の男性は、長野市出身のスタントマン・柄澤功さんです。アクション監督としても世界中で活躍しています。
柄澤さんが出演・演出している作品は膨大な数に上ります。ちょっと映画好きな人なら見たことがあるであろう作品もたくさんあります。かく言う私も、趣味は映画観賞。取材前に柄澤さんのことを調べていて驚きました。
柄澤さんは映画やテレビドラマで数多くの主役の代役を務めてきました。オダギリジョーさんや織田裕二さん、斎藤工さんの代役を務めたこともあれば、西田敏行さんなど自分と体系の違う俳優の役をこなすこともあり、ときには女優役を務めることもあります。
アクションの演出を務めた作品を少し紹介させてもらうと、園子温監督の『愛のむきだし』(2009年)や『地獄でなぜ悪い』(2013年)などアクションシーンが強烈に印象に残るものから、井口昇監督『電人ザボーガー』(2011年)、おかひでき監督『ウルトラマンサーガ』(2012年)などの特撮映画、蜷川実花監督『さくらん』(2007年)や『テルマエ・ロマエ』(2012年)など、さまざまなジャンルの作品に関わっています。テレビドラマでも『タイガー&ドラゴン』(2005年)、『ROOKIES』(2008年)など多数演出しています。
柄澤さんが考えて作った長野のご当地ヒーロー「戸隠忍者ゼロクロス」の戸隠忍者・黒丸と飯綱の天狗・霊仙寺ハヤトが、長野の観光案内をする動画はこれまでに10本以上完成し、YouTubeで公開中。11月に篠ノ井駅前で撮影された動画には篠ノ井のキャラクター・おしのさんと、フリーキャラクター・亞璃紗も出演
「『さくらん』は花魁姿の女性が喧嘩をするというシーンがありますが、カツラがずれないようにしながら迫力があるように動くのは大変なんです。『テルマエ・ロマエ』もほとんどアクションシーンはないんですが、山賊と戦うシーンで海外の役者の人たちのテンションを抑えて事故が起きないように予測してやらないといけませんでした。派手なシーンを撮るより、何気ないシーンだったり地味なシーンを撮るほうが技術が必要なんですよ」
最近も香港映画でアクション演出協力をしています。
「日本では公開されない作品なんですがテスト撮影で指導をしています。でも本番には立ち会っていないので、そういう場合はクレジットに名前が載らないんです。スタントの仕事でも、俳優の事務所の方針で吹き替えをやったことを大きな声で言えない場合もあるし、ゴーストライター的というか、名前が出ない仕事もたくさんあります」
ちなみに、先日までTBS系列で毎週日曜に放送していたドラマ『ごめんね青春!』もクレジットに名前はありませんが柄澤さんがアクション監督をしています。
最近は芸能事務所からアクション演技のワークショップの依頼が多い。マンツーマンで指導することもあり、大沢たかおさんや石橋凌さんにも個人的に頼まれたそう
子どもの頃からの夢
小学生の頃からバク転も前宙も見よう見まねですぐにできたという柄澤さん。
「子どもの頃からヒーローものが好きでした。みんな年を重ねるとだんだん興味が薄れてそういうものから卒業すると思うんですが、僕は卒業せずに、アクションのほうに注目するようになっていったんです。この人、すごい動きをしているなっていうところが気になったんです」
運動神経は人より優れているという自負もあり、中学生のときにはスタントマンになると決意していたといいます。
「アクションヒーローの身長の平均174センチっていうデータを雑誌で見て、中3のときに身長が173センチあったので、これならあとは自分の努力次第でいけると思いました」
高校生になると頻繁に東京へ行き、遊園地などで行われるヒーローショーのアルバイトをしはじめます。当時のアルバイト代は一日4000円程度。ギャラよりも高い交通費を払って通い、時には下道をバイクで走って行くこともありました。
「初めて戦隊ヒーローのスーツを着たとき、視界が普段の十分の一くらいになって今まで簡単にできたバク転ができなかったんです。それでショックを受けて、やっぱりこの仕事をやっている人は本当にすごいと、さらにかっこよく思えました。これしかないと思いました」
その後、柄澤さんのステージを見た東京のトップのショーチームから声がかかり、さらに厳しい現場で経験を積むようになります。1年半くらいで主役をやらせてもらえるようになったことをきっかけに高校を中退。アクションの世界一本に絞りました。
柄澤さんの仕事は次第に増え、ウルトラマンや仮面ライダーなどさまざまなヒーローのスーツアクターやバイクスタントのほか、有名俳優の代役も数多くこなすようになります。その活躍は海外にまで広がっていきました。
「スタントマンは、怪我の請負人ではなく、安全を提供する仕事」と柄澤さん。2005年にアクションを追求する俳優集団「TEAM ZERO'S」を結成し、若手の育成にも力を入れている
アクションシーンを演出・指導する側に
柄澤さんは42歳の今もストイックに体を鍛え、スタントマンとアクション監督の仕事を両立していますが、身体が資本のスタントマンは、30歳くらいで振付をする側に回るのが一般的だといいます。
「自分も30代に近づくにしたがってアクション監督のほうをやらないといけないと思い始めました。30歳までにアクションコーディネーター(監督の下で振付を考え、役者にアクションの指導をする立場)ができなかったら、35歳くらいまでプレイヤーをやって、その後はこの仕事辞めて別の仕事をしようと思っていました」
そう思っていた矢先、29歳のときにアクションコーディネーターとしての初の仕事が舞い込みます。アニメ『SDガンダムフォース』のキャラクターの動きをモーションキャプチャ(現実の人物の動きをデジタル化してキャラクターの動きに再現する技術)でコーディネートする仕事でした。
「そこで1年間仕事させてもらったのがとても勉強になりました。そこからだんだんアクションコーディネーターの仕事も増えていって、アクション監督の仕事もやるようになりました」
演出する側にあって柄澤さんの強みは、これまでに多くの主役の吹き替えのスタントをしてきたこと。主役がどう動いたらかっこよく見えるか、ということが体に染み込んでいるからです。そして、必要とあらばその場ですぐにスタント役も器用にこなします。
「主役を演じた経験がないアクションコーディネーターは、全体のアクションは派手にできても主役の動かし方がヘタな場合が多いんですよ。僕は一見地味に見えるシーンでも、最小限の動きで主役をかっこよく見せたり美しく見せることが得意です。そういうところで僕を気に入ってくれている監督や俳優さんはけっこういるのでうれしいですね」
「アクション監督として仕事をしている現場でも、撮りたいアクションをできる人がいなかったら、自分で演じることがけっこうあります。僕と同世代でプレイヤーをやめた人はもう大体太ってるんですけど、僕はバク転もできなくなるのは嫌なので体型維持には気を付けています(笑)」
「今後は長野での仕事を増やしたい」と語ってくれた柄澤さん
現場の雰囲気の良さは映像に表れる
仕事でやりがいを感じる瞬間はどんなときか尋ねると、少し意外な答えが返ってきました。
「事故を回避できたときですね。空間把握能力というか、人のちょっとした変化に敏感で、『あ、やばいな』っていう嗅覚が人よりも鋭いんです。誰も気が付いていなかったところに先回りして僕が動いたことで、陰ながら危険を回避できたときに自分の職業をまっとうできたと思いますね」
数多くの代役をこなし、人の体の癖や特徴を敏感に感じ取ることができる柄澤さんだからこそでしょう。歩き方や姿勢を見て「この人は膝が悪い」ということも分かるそうです。
撮影現場ではアクションの仕事だけでなく、照明やカメラマンなどほかの仕事も率先して手伝うようにしているといいます。
「細かいことなんですが、現場の雰囲気をよくするための努力が映像に表れてくるのが分かるんですよね。スタッフみんなが必死になってがんばっていることが俳優さんに伝われば演技もよくなると思うし、いろんなところに相乗効果がある気がします」
大勢の人の努力が画面の隅々にまで行き渡っていることを思いめぐらしながら映画を見ると、なんだか瞬きをするのも惜しいような気持ちになります。柄澤さんが関わっている作品に今後も注目していきたいです。
「黒丸」は、いかつい見た目とは裏腹に心の優しいキャラクター。マスクは長野市出身の特殊造形作家に頼んで作ってもらった。「長野県出身の専門職や技術職の人たちが大勢いるので、協力して地元で何かできたらいいと思っています」
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