No.159
春日
一幸さん
ツリークライミング®クラブのぶすま代表 ツリークライマー
木と友達になってナチュラルに遊ぶ
文・写真 Rumiko Miyairi
木の上は感覚の宝庫
「木に登って自由に過ごすと、日常では味わえない感覚が得られますよ」
ツリークライミング体験会を行ったツリークライミング®クラブのぶすま代表の春日一幸さんは、少年のような表情でそういいます。
ツリークライミングは、手足を使って木に直接登るわけではなく、ロープを枝に引っ掛けて垂れ下がったそのロープを使います。腰へつけたハーネスにそのロープを金具で留め、それらを操りながら足に掛けたロープを蹴る。すると、身体が上にあがっていき高い枝まで到達する、というような仕組みです。
普段、林業関係の仕事をしている春日さんがツリークライミングを知ったのは10年ほど前。一般社団法人国土緑化推進機構で発行した林業の専門雑誌に木登りについての記事で取り上げられていました。木登りは、林業に携わる人の中で木を管理するときに必要な技の一つだといいますが、誌面ではレクリエーションとしてできるツリークライミングが紹介されていました。
春日さんの話によると、ツリークライミングのルーツはアメリカ。日本では「木とふれあう遊び」として、アメリカ人の農学博士ジョン・ギャスライトさんが始めたそうです。その事務局、ツリークライミングジャパンは、愛知県瀬戸市に設置されています。2005年に開催された愛・地球博(愛知万博)では、遊びと参加ゾーンのグローイングヴィレッジにツリークライミングエリアが作られ大勢の人が体験しました。このころから急速にツリークライミングの知名度が上がります。
「子ども向けに木や自然に親しんでもらうというねらいで、ネイチャーゲームや木工作、キャンプなど、いろいろ企画してきたんです。少し物足りなくなったと感じ始めたころに、ツリークライミングを雑誌で知り体験会に参加しました。どんな人にも安全で、しかも、木の上で自由に過ごせるってことが新鮮でした。日常では味わえない木の上の世界にも興味が湧きましたね」
長野市茶臼山恐竜公園で行った体験会。快晴に恵まれ、ベストコンディションの中でツリークライミングに挑戦したい人が、多数集まった
ツリークライミングの魅力にひかれた春日さん。
木の上に登ってみたいという強い好奇心も後押しして、すぐさまツリークライマーの資格を取ります。
「木に登ったら、普段見える世界が違って見えて、登るほどそれがもっと広がるっていうんですかね。もちろん、建物などはおもちゃのように小さくなっていって。それくらい高い木に登っているんだと思うと、達成感や充実感など、いろんな感覚が一度に湧いてきますよ」
「木の上は気持ちいい」とツリークライミングに魅せられた春日さん
子どもの目線で伝える
春日さんは、もとある地元の素晴らしい自然の中で、大勢の人、特に子どもたちに体験してもらいらいと思いを募らせます。そして、体験会が開けるファシリテーターという資格を取得しました。現在、安全に参加してもらえるためのプログラムを組み立てるなど、長野市内外で体験会を行っています。
「登るとき、速さを競うわけじゃなく安全が最優先なので、ロープの結び方を覚えることが重要。ロープに巻きつけたブレイクスヒッチという結び目を動かしながら、滑り止めとなる結び目もその下に作って登って行くんですよ。自分で身を守りながら登るということですね」
素晴らしい自然の中には危険が伴うこともあると、厳しいまなざしを見せる春日さん。
「安全を第一に考えているから、ロープの結び方や手順などのルールを作って、安心して遊べるのがツリークライミング。初めての人は難しく感じると思いますがコツをつかめば誰にでもできます」
そう話します。また、子どもの興味もひくように工夫も凝らしています。
「登る前、子どもには私も一緒に木の気持ちになって準備体操から始めますよ。木の一年間を身体で大きく表現してもらうんです。春は根っこから水をあげ、夏は大きく葉っぱをひろげ、秋は葉っぱを落として、冬はお休み、これを手で大きく振ると体操になるわけです(笑)」
子どもたちにツリークライミングを通じて、いろんな感覚を味わってもらいたいと願う春日さん。
「木に登る前は『お邪魔します』、終わったときは『ありがとうございました』と、木に話し掛けるようにあいさつをします。ツリークライミングをした感想を、楽しかったという単純なものだけじゃなく、木と友達になれたって思えるようにね。そうすると、木も仲間なんだと大切に思えてきます」
木も生きていて、人と対等であるという視点を持つことで、相手を大事に思う気持ちになってほしいと伝えています。
春日さんは、登り方を丁寧に子どもたちにレクチャー。子どもたちも「早くやってみたい」と興味津々
自然の魅力を肌で感じてわかること
「森など、自然を守ろうと簡単に言えますけど、決まりきったことをメッセージにしているだけでは面白くなくなってしまいます。木に登ると、そういう固定した観念やこだわりからほどかれるというか、自然に対しての見方が変わる気がしますね」
いままでの仕事柄、環境保全をテーマとしたイベントなどを行い、あるいは、自らも参加してきた春日さんだからこそ、そう声を強めて話します。
「木に登っていくと、森の匂いが強くなって空気が変わる瞬間を感じるんですよ。これが自然にふれあえたってことなんです」
春日さんが代表を務めるツリークライミングクラブの名は「のぶすま」。ネーミングはクラブのメンバー全員で決めました。のぶすまは、森の中で木々を自由に滑空し木の上で戯れるムササビの別名です。いたずをする妖怪とされて伝説話にもでてくるなど、やんちゃな印象も持つこの動物にあやかったのは、春日さん率いるツリークライマーたちの遊び心といったところでしょうか。
私も体験してみると、テーマパークの高いアトラクションに乗ったようで、なんともワクワクした気持ちになりました。ツリークライミングは、まさしく、森をまるごと肌で感じられる遊びなのかもしれません。
準備体操は「木」になった気持ちで。子どもの目線を最優先にして、自然とふれあう大事なことを伝えている
そして、木々に向かって「お邪魔します」というあいさつを、もらすことなくしていた春日さんの姿を思い出します。
こんなツリークライマーの謙虚な姿勢が、木々などの自然を見守り、また、ツリークライミングを体験した子どもたちも、そんな感謝の気持ちに習って、生き生きとしている自然を次の時代につなげてくれる、そんな気がしました。
「ワン、ツー、ツリー」と体験会終了時に記念撮影。お互いに手伝いながら体験会を運営するので、ツリークライマーのネットワークは全国に広がっている そして、木々に向かって「お邪魔します」というあいさつを、もらすことなくしていた春日さんの姿を思い出します。 こんなツリークライマーの謙虚な姿勢が、木々などの自然を見守り、また、ツリークライミングを体験した子どもたちも、そんな感謝の気持ちに習って、生き生きとしている自然を次の時代に
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会える場所 | ツリークライミング®クラブのぶすま 長野市大字北長池350 D609 電話 026-263-3318 TREE CLIMBING ® JAPAN |
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