No.158
松本
かおるさん
陶芸家
土そのもののよさを引き出す
お化粧しないすっぴんの器
文・写真 Takashi Anzai
使いこむほどに艶が出る備前焼の魅力
釉薬を一切使わない焼き締めの陶器、備前焼。手触りのよさとともに、男らしく重々しい印象を受ける備前焼ですが、陶芸家・松本かおるさんの作品は、優しいカーブを描き、薄くてかつ繊細です。
「私の作品は削っているので軽いですね。備前焼はごつごつしているものが多いんですけど、私は軽いものに手が行くし、重たいと使わなくなったりします。でも、備前焼のテクスチャーは好きなので、これで自分が使いやすいもの、使いたいと思うものをつくってみようと思いました」
松本さんの言葉通り、松本さんの作品は小さな手にも馴染みそうなものが多数あります。一方で、思わず触れたくなるようなナチュラルな質感という、備前焼の特長はそのままに生かされています。
「釉薬をかけないということは、お化粧していない『すっぴんの器』です。もっと言えば土そのままなんですね。だから土のよさを引き出します。それと、使っていくと、どんどん艶が増して、しっとりと育ってくるという楽しみもあります」
もともと松本さんの作品が薄くなっていったきっかけはビールをおいしく飲むためでした。
「焼き締めって発泡効果でビールがすごくおいしくなるんですね。表面にこまかな気孔がたくさんあるので、すごくクリーミーな泡ができるんです。一方で私は、うすはりでビールを飲むときの特別感がすごく好きなので、じゃあ合体させたものをつくったらいいかもということで、うすはりのビアマグみたいなものをつくり始めたんです」
自らの作品の特長を話すその表情はとても楽しそうです。
器自体が呼吸するので花が長持ちする。また、ビールがおいしくなるだけでなく、他の酒類や水もまろやかになるという
生まれ育った東京から土にまみれる生活へ
東京生まれ、東京育ちの松本さんはレストラン運営会社の広報の仕事をしていました。その頃、陶芸教室に通い始めます。
「会社はいろんな業態のレストランを経営していたんですけど、和食のお店では作家さんに頼んで器をつくってもらったりしていたので、何となく身近にはありました。元々、食べることが好きだというのもあります。食と器は切り離せないものですから」
そして2007年、岡山県伊部にある備前陶芸センターに入学します。周囲からは驚かれましたが、不思議と迷いはなかったといいます。
「迷いも不安もなかったんですよね。自分がいいと思うものをつくれたら、きっと大丈夫じゃないかなという気持ちはありました」
生まれ育った東京から、自然の中で土にまみれる生活へ。その変化にも気持ちはポジティブに反応します。
「生活が180度変わったわけです。東京で忙しく仕事をしていたのを辞めて、山の中で毎日ろくろを回したり、土をこねるという生活になりました。もちろんお給料もなくなるわけです。でも、つらいということはなくて、好きなことしているという満足感の方に価値を置けたんですね」
備前陶芸センターを卒業後は、最も好きだった作家、星正幸さんに師事します。薄くてモダンな雰囲気の作風は、星さんの存在も影響しているそうです。
12月19日からの個展では、森の中になじむようなやさしい色合いの作品をそろえた
生活の中に新たな創作のきっかけがある
伊部から東京へ、そして2012年、結婚を期に長野市に移り住んだ松本さん。それぞれの暮らしの中でヒントを得ながら、作風も変わっていったといいます。
「備前焼の昔ながらの大きなものは、広い場所だから映えるし、広い収納があるからしまっておけると思うんです。でも、東京の部屋で暮らしたときには、収納もあまりないので、使いやすさに加えて、しまいやすいということも考え始めて、小さく薄くなっていきました」
今も、生活の中で新しい創作のきっかけが生まれると話す松本さん。12月19日から始まる個展では、とある自然の中で催されたパーティー用に焼いた作品をヒントに、これまでより優しい色合いの作品を展示します。
「自分が料理をして、実際に器も使っています。その中でこうだったらいいな、こういうのがあったらいいなと考えてつくってみるし、つくったら使ってみるんです。まだまだつくりたいものや、やりたいことはいっぱいありますね」
そう語る松本さんの笑顔は、作品同様にナチュラルでした。
思わず触れたくなるようなナチュラルな質感
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会える場所 | 個展「無釉の優」(2014年12月19日~23日) 東京都渋谷区恵比寿南1-21-18圓山ビル2階 Ekoca 電話 03-5721-6676 長野市内の常設店 |
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