No.134
小坂
小坂一夫さん
佐々木そば店主
まちの輝きを行灯と会話で演出
文・写真 Rumiko Miyairi
趣向を凝らして商店街を明るくする
「行灯を灯して明るいまちにしたい。そう願いを込めて、行灯39台と、子どもが遊べる遊具や道標などの看板をまちの中に作りました」
長野市鶴賀七瀬町通りにある老舗の「佐々木そば」。3代目の店主小坂一夫さんは商店街を明るくしたいと願いを込めて、手製で行灯や看板を据え付けました。
店の創業は明治28年。
初代店主小坂さんのお祖父さんが、長野駅前千歳町通りではじめました。小坂さんによると、その当時は日銭を稼ぐために蕎麦屋がいいといわれ家族で切り盛りしていたといいます。
そして昭和26年、まだバスも通っていなかったころ、鶴賀の七瀬通りに移転し営業を続けます。小坂さんが中学生のころでした。
鶴賀七瀬通りにある「佐々木そば」。小坂さんが作った行灯が目印
「中学のグラウンドで遊んでいると、先生が夕飯の出前を頼んでくるんです。それを友達に冷やかされて辛かったね。でも、注文を受けるのは店のためと思うと、自然に我慢できましたね。それに当時は、この通りに商店が一番多かったときで、人も賑やかでしたから、うちの店も光って見えました」
輝いている店を誇りに思っていた小坂さん。
手伝いをしながら蕎麦職人として修業を始めます。のちに3代目店主となり無我夢中で働きました。
やがて時代が後退してくると、商店街も景気の低迷や店の後継者がいないという問題に直面します。まるで歯が抜けたように店が閉まっていきました。小坂さんの蕎麦店は、そんな中でも屈せず開き続けます。
そして平成に入り、東京や長野市内のホテル飲食店で修業を積んだ息子さんが料理人として加わって蕎麦料理だけでなく、のみ処としても幅を広げました。
小坂さんは、料理全般を息子さんに任せて蕎麦の出前などの業務をうけもっています。このころから、「もう一度、賑やかで明るいまちになってほしい」と願って、各商店の特徴を捉えた行灯を作るようになりました。
「行灯の材料は、廃材なども自分で集めて作り始めましたが、そのうち、協力してくれる人もてきて有難かったですよ。行灯は、それぞれの輝きがありますから2つとして同じものはありません。だから、どの行灯も世界で一つだけの行灯ってことですね。今、みなさんの協力で店頭などに置いてもらっています。行灯が店の目印。明かりがたくさん集まれば、安心して人も集まってくれると思っています」
昭和26年、鶴賀七瀬通りに移転したころの佐々木そば店[写真提供・小坂一夫さん]
中学生時代の小坂さんがお母さんと撮った記念の一枚[写真提供・小坂一夫さん]
創意工夫で商店街を元気にする
小坂さんは11年前、自らあいさつ運動を始めました。
「明るいまちになるには、子どもたちが元気になることも大事なことだと考えました。だから、子どもたちと会話をしようと。それには先ずは『あいさつ』からしようと思いました」
そして、小坂さんは子どもたちが元気よく登下校できるように、朝夕の通学路に立ちあいさつを始めました。
始めたころの子どもたちの反応は「なに?このおじさん」という鈍いものでしたが、程なく「おはようございます」と元気よく返ってくるようになりました。
「そのうち、月曜日は今週もがんばれよと、金曜日にはまた来週ねと、会話ができるようになりましたよ。ニコニコとした子どもたちの顔をみると、今日もみんな無事でよかったって安心できました」
そして小坂さんのこの思いは、まちの人たちにも伝わり、商工会の仲間たちに引き継がれています。
小坂さんが創意工夫してつくった行灯は、鶴賀七瀬通りで街を照らし子どもたちを守っている
まちの輝きを再現して商店街を盛り上げたい
「お客さんと、これを見ながら話すと昭和30年ごろの商店街にあった、古い店の話に花が咲くんですよ」
横一列に4枚張り合わせた色紙を、おもむろに見せてくれた小坂さん。小坂さんが自身で作った昭和30年ごろの七瀬通り商店街の地図です。通りに沿ってぎっしりと商店名が並んでいました。
「昔は800mほどの七瀬通りに、商店が149軒あったんですよ。ここにストリップ劇場があったと、真っ先にその話からすると、皆さんよく知っていてね、結構、盛り上がるんですよ(笑)。そして、つるの湯という銭湯があったとか、肉屋も八百屋も揃っていたとか、だから食材の仕入れもすませられたとか話が広がるんです」
現在は、営業している商店が10店舗ほどになってしまいました。でも、あのころを知っている人は、「明るい、いいまちだった」と口を揃えていいます。小坂さんは、こうしてお客さんとまちの輝きを語りながら、また、誇れる明るいまちを作ろうとしています。
小坂さんが作った昭和20年代のころの鶴賀七瀬通りマップ。「これで話が盛り上がる」とお客さんとの会話を楽しんでいる
通りの中央に「告」と書いた看板も設置しました。そこにはこう書いてあります。
一、行灯を点して明るい街
一、子どもを守る安心の街
一、お年寄にも優しい街
一、みんなして集える街
一、歴史と伝統のある街
一、仕事人アイディアマンのいる街
七瀬まちの駅
小坂さんの想いが凝縮されたこの言葉。
行き来する子どもたちにも届きますように。
「告」の看板は、鶴賀七瀬通りの真ん中に。街を守る小坂さんの思いが凝縮されている
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会える場所 | 佐々木そば 長野市鶴賀七瀬町445 電話 026-226-7154 |
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