No.127
小林
義彦さん
馬術選手/株式会社飯綱高原乗馬倶楽部インストラクター
深い絆から生まれた人馬一体の華麗な演技
文・写真 Rumiko miyairi
勝利を目指す日々
「そもそも、馬はいうことを聞かないから、おもしろい」
そう話す株式会社飯綱高原乗馬倶楽部の小林義彦さん。
現在、馬術のインストラクターをしながら、馬術選手として競技に出場しています。馬術は馬を操る競技。オリンピックでは、唯一動物と出場する競技として、「馬場馬術」「障害飛越」「総合馬術」の3種目があります。
新潟国体、障害飛越競技でバーを飛ぶ小林さんと愛馬クワンドー。結果はノーミスで見事優勝![写真・小林義彦さん提供]
馬に乗り始めたのは小学4年生のときという小林さんは、飯綱で生まれ育ちました。馬は、小林さんのお父さんが好んで飼っていたことで幼少時代から身近な存在でした。
「はじめはポニーに乗って、ただ走り回っていただけでしたね。中学生になって馬術というスポーツを知って、競技に出たいと思うようになりました。それからは真剣に練習をはじめたわけですが、なにより、馬の世話も自分でやりましたね。馬を管理することも、大会で良い結果を出すためには欠かせないことなんですよ」
中学生になり、馬術選手を目指しはじめた小林さん。朝起きると、まず馬に餌をやることが一日のはじまりでした。平日は中学校から帰宅すると、馬舎の掃除や馬の手入れをしました。休日は馬術の練習や遠征、夏休みになると集中合宿も加わり、今思えば、そんな生活を送る毎日が休みのない部活動のようだったと苦笑いします。
小林さんはそのころから数々の大会に出場し、2009年に行われた第64回国民体育大会(新潟国体)では馬術成年男子「障害飛越」で優勝、見事に金メダルを獲得しました。そんな小林さんが笑みを浮かべながらも、厳しいまなざしで話します。
「四六時中、馬と接していても戸惑うことはありますよ。いろいろな場面で、馬を簡単に操っているように見えるかもしれませんが、馬だって生きものですからね。こちらの思うように、いうこと聞きませんよ。ですから相手(馬)を、その都度見極めながら意思疎通を図るんです。そして、競技に出るときにはベストコンディションで挑むのです」
馬は人と同じように意志があるという小林さん。
同じ目線で臨むパートナーとして、最高のパフォーマンスを見せようと一体となって挑もうとします。また、人を助けてくれるといいます。小林さんの言葉から、馬の従順な姿と小林さんの勝負にかける情熱が伝わってます。
常に馬とコミュニケーションし、試合ではベストで臨む。ガッツポーズで勝利を喜ぶ小林さん[写真・小林義彦さん提供]
乗馬と森林浴で健康のすすめ
乗馬クラブがある飯綱高原。
長野市、上水内郡信濃町、飯綱町にまたがる飯綱山の南面に広がります。地元の間で、だいだらぼっち伝説で親しまれる大座法師池や森の中のアスレチック場「小天狗の森」、ほかにもキャンプ場やスキー場が季節に合わせて完備されるなど、だれもが余暇を満喫できそうなものが集約されています。
長野市街地から車で30分くらいのところなので、半日もあればレクリエーションを存分に楽しめるレジャースポットとして、あるいは豊かな自然ときれいな空気に包まれる健康スポットとして人気がある高原です。
「乗馬は、健康マシンで流行ったぐらいですから、体にいいかもしれませんね(笑)。馬に乗ると内股や背筋など普段使ってない筋肉を主に使いますからね。ピッっと背筋を伸ばして森の中を散歩すると、空気も新鮮でメチャメチャ気持ちいいですよ」
飯綱高原の中にあるエンデュランス用のコースを馬と散策すること、そして今は、紅葉が最盛期だからこそ一挙両得だと勧めてくれました。
地元の子どもたちが通う小学校なども、そんな高原の中で生きものとふれあう活動を積極的に取り入れています。
「子どもたちって慣れるのが早いってこともあるけれど、大きな馬を目の前にしても怖がりませんから、馬の方も安心して子どもたちを受けいれていますね。乗馬って、なんとなく敷居が高いって思われがちですが、興味がある人はまず、飯綱に見に来てください。馬にふれあうことだけでも元気になれると思いますよ」
飯綱高原乗馬倶楽部では、初めて馬に接する人も馴染めるようにレベルに合わせた体験やカルチャー教室も用意しています。
些細なことで健康になる、ちょっとした秘訣が、ここで味わえるかもしません。
「馬さんちょっといい?」と話しかけながら馬の世話をする小学生。微笑ましい姿がみられた
生きものとふれあうことが健康の秘訣という。馬の穏やかなまなざしが癒してくれる
馬との付き合い方
クラブで過ごす馬は、クラブが所有するものと会員さん個人のものとを合わせて約26頭います。それほど多くの馬を一同に見たことがなかった私は、間近でみたサラブレッドやポニーの凛とした姿に圧倒されました。
その中で、長野県の木曽が原産地の木曽馬に、少しだけ乗らせてもらうことができました。いままで、馬に触ったことがなかったので、今回まして馬に乗ることなどは想像もつかないままの体験でした。馬の名前は「ユウキ」。マイペースで物怖じしないタイプなので、初めて乗る人の指示もそれなりに聞いてくれる性格だそうです。
「馬は、基本的には臆病なので、まず、どんな人が乗っているか見ているんです。目や耳や口、あらゆるところで感じようとしているんです。耳が動くでしょ。指示に従おうか、うかがっていますよ。はっきりと全身で示さないと、いうこと聞きませんよ」
全身でバランスをとりながら、走る方向を馬に示す。そして、リズムをとって、立ったり座ったりを繰り返すと「軽速歩」になります。その一連の運動と馬に指示する動作を、最後まで丁寧に教えてもらいましたが、案の定、馬にきびきびと伝えることができませんでした。その不甲斐ない指示でふらふらと歩かせでしまった馬に申し訳なかったという思いです。そして、小林さんの「馬は人を見ていますよ」という言葉が浮かびました。だからこそ、自然と背筋がシャンとなり、しっかりしなければという気持ちになったことも確かでした。
手綱は、敏感な口に付ける鉄の棒(ハミ)とつながっていて、馬がむやみに走り出さないように引き締めるためにあり、鞭は、しっかり指示に従って走るときに打つためにあり、それを持っている人に従うと聞きました。加減しだいで痛みも与えるのだそうです。そのため、馬は常に鞭などに過敏に反応します。そんな手綱と鞭を少しだけ持った私は、高原の中を馬と散歩するまでにはいたりませんでしたが、また馬に乗りたいという強い思いになりました。
「馬にも意志と性格があるんです。その個性をしっかりうけとめないと付き合えませんね。『馬が合う』って言葉があるくらい、馬って、人と人の付き合いと似ているのかもしれませんね。人と同じところはまだありますよ。馬も一日三食たべるし、昼寝もします。健康のために運動もしますし、身だしなみも整えますからね。昔から、人と馬っていろんなところで一緒に生きてきたってことかもしれませんね」
子どものころから馬と真摯に向き合う小林さん。
ときに厳しく、ときに優しい面持ちで、飴と鞭をあたえながらも、これからの馬との付き合い方をこう話します。
「馬術は、馬に助けられながら一生涯やれるスポーツだと思っています。だから、毎日一緒に生活も練習もします。でも、今日できたことが明日できなくなることもあります。そうして馬も失敗して学習していくんですね。いうことを聞かないときは叱りますよ。そんな馬に私も合わせようとしますし、馬も私に合わせようと努力してきます。そのうちフィーリングが合ってきます。明日につながるように温厚に過ごしていきたいですね(笑)」
もしかしたら、小林さんと馬は、人と人の関係以上に深い絆と固い友情で結ばれているかもしません。そして、笑顔を絶やさない小林さんの心の広さは、この飯綱の大自然で馬と一緒に育まれたものであろうと感じました。
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会える場所 | 株式会社飯綱高原乗馬倶楽部(飯綱ライディングパーク) 長野市大字上ケ屋2471-613 電話 026-239-3135 ホームページ http://iizunajoba.com/ FAX 026-239-3135 |
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