No.87
マツシロックプロジェクト
ナガラボ編集部のマイフェイバリット
長野市松代地区特産の「柴石」を使った土産品開発、官民連携組織でただいま進行中!
文・写真 島田浩美
長野市松代地区で戦国時代頃から主に建築資材として使われてきたと伝わる安山岩「柴石(しばいし)」。この石を使って松代地区ならではの新しいお土産をつくろうと始まったのが「マツシロックプロジェクト」です。プロジェクトの始動の経緯や現在の活動の様子、今後の展望を取材しました。
きっかけは産業としてのバックアップとNHK大河ドラマ『真田丸』
長野市松代地区にある金井山の特に柴地域で盛んに採掘されていたことからその名が付いた「柴石」。薄いブルーとピンクの2色があり、黒いレンズ状の模様によって、切る場所や角度で多彩な石紋が現れるのが特徴の貴重な石です。
松代地区では1560年に築城された松代城(海津城)の石垣に使われているほど古くから利用されており、約250年にわたって発展した真田十万石の城下町を支えてきました。今では地区内の歩道や長野市役所松代支所の建築材のほか、市内の善光寺参道の石畳やJR長野駅東口に設置されている石のベンチなどにも使われています。
▲松代地区内の歩道に使用されている柴石
▲JR長野駅東口にある柴石のベンチ
そんな歴史ある柴石ですが、近年は海外から輸入される安価な石材により需要が伸び悩んでいるという課題がありました。一方で、2016年に放映されたNHK大河ドラマ『真田丸』に合わせて開催された1年間限定の特別イベント「体感!! 戦国の絆 信州松代真田大博覧会2016」の際、観光客から「松代地区のオリジナルのお土産がほしい」との声が多くあがったことから、柴石を産業として応援し、オリジナルのお土産をつくろうとの思いで始まったのが、柴石をテーマとしたお土産開発です。当初は特別イベントの実行委員会が中心となって取り組みました。
最初に開発したのが「六文皿」です。松代地区を中心に市内で活動している4つの窯元に依頼し、柴石を粉末状にして粘土に5%練りこんだ焼き物の皿を制作。皿の中心部分には松代オリジナル六文銭の模様をデザインしました。
▲松代オリジナル六文銭は、真田家の家紋のひとつ「結び雁金紋」や、松代藩初代藩主・真田信之の正室である小松姫ゆかりの「葵の紋」、第3代藩主・真田幸道の正室・豊姫にちなんだ「あんずの花」、信之の甲冑の飾りである「唐冠の立てもの」などを組み合わせたもの
こうして特別イベント自体は単年度で終了しましたが、「このお土産開発をここで終わらせてしまうのはもったいない」と立ち上がったのが、長野市観光振興課のほか、長野石材協同組合や商工会議所、デザイナーや陶芸家、松代地区のゲストハウス経営者らによる官民連携組織「マツシロックプロジェクト」でした。
柴石を使ったガラス製品のクラウドファンディングにもチャレンジ
加工がしやすく吸水性がある柴石の特性を生かし、プロジェクトとしてまず開発したのが、石の窪みにアロマオイルを垂らして使用する「フレグランスロック」です。
何回も使ううちに柴石に香りが染み込むアイテムで、窪みの深さは試行錯誤で何度も検討。アロマオイルも松代をイメージし、3種類の香りを開発しました。
▲アロマオイルは、女性の華やかさを表現した柑橘系の「豊姫」、松代地区内の武家屋敷の庭園にある泉水(池)とそれをつなぐ泉水路の水の流れをイメージしたさわやかなミント系の「泉水」、城下町の重厚感ある雰囲気を表現したウッディ系の 「海津」の3種類
▲さらに柴石には余分な水分を発散させる力もあるため、植物ポットなども開発
こうした開発が進むにつれ、メンバーにはアロマ作家やガラス作家、ジュエリーアーティストなど、興味を示したさまざまな分野の手工芸作家が新たに加わり、現在は13人ほど。2カ月に1回ほどの会議を通して商品開発を進めています。
「メンバーそれぞれの思いが強く毎回会議を取りまとめるのが大変ですが、それが楽しさでもあります」
と話すのは、長野市観光振興課の竹内雄太さん。
ただ、プロジェクトには市から予算がついているわけではないため、資金面での苦労は絶えないのだとか。例えば、商品開発をする際は、メンバーそれぞれに加工費や開発費を負担してもらいながら活動しています。また、売上の一部は、今後のプロモーション活動費用のためにプロジェクトで積立を行っています。
「各作家はそうしたリスクを背負っていますが、メンバー全員が松代地区や長野市をPRしたいと考えています。物語を語るには“物”をもって語ることが大切で、それぞれの作家が自ら作った作品を語ることで長野市のシティプロモーションを実践しています」
▲小さく加工することは困難とされていた柴石の研究を重ねて開発した柴石アクセサリー(パワーストーン)
現在は主に国民宿舎松代荘や各地観光イベントにて販売を行い、長野市のふるさと納税の返礼品にも登録しています。
▲善光寺びんずる市での出店の様子
そして、さらなる知名度の向上と販路拡大をめざして始まったのが、メンバーの一人で吹きガラス工房「naga‐no‐glass」を営む野池征永さんの協力のもと、ガラスに柴石を挟み込んで開発した「ぐい呑み」を販売するクラウドファンディングです。一般的にガラスは異物を混入すると冷めたら割れてしまいますが、柴石は割れなかったことから「真田家のような絆があるのではないか」と開発が進みました。
▲『真田丸』放映の際に松代のイメージカラーと定めた「茄子紺」と透明の2色を開発。柴石の台座付き
こうして3月27日にスタートしたクラウドファンディングは5月30日まで実施中。5月8日現在、すでに目標金額の30万円を大幅に超えた92万円超(支援者96名)が集まっています。
「思っていた以上に反応がよく、支援者から『応援しています』『真田大好き』『石とガラスを交えた面白い商品で、届くのが楽しみです』といったコメントが寄せられ、真田ファン、松代ファン、ガラス好きなど、このプロジェクトのさまざまな思いに共感してくれた人たちが集まってくれていると感じています」
と竹内さん。
また、4月には新潟県上越市高田公園の観桜会にブース出店し、観光客と松代の歴史や真田家の話が広がって、長野市自体のアピールのきっかけにもつながったとか。松代地区や長野市が旅先として選ばれるツールにもなった手応えを感じたそうです。
初のアート展「マツシロック・アート展」の企画も進行中
さらに、11月1日(金)~4日(月・祝)には柴石を芸術的視点で探り出すアート展「マツシロック・アート展」の開催を予定しています。松代地区内にある「ギャラリー松真館」をメイン会場に、プロジェクトメンバーや地元アーティストなどが柴石にちなんだ作品を展示したり、パフォーマンスやワークショップを行う予定です。
▲松代地区在住の画家・音楽家・詩人である加藤士文さんは太鼓に見立てた柴石を叩きつつ、絵の中に柴石をはめ込むパフォーマンスを披露する予定だとか
また、毎年「まつしろ現代美術フェスティバル」に参加している芸術家・杉原信幸さんを招待し、国民宿舎松代荘の中庭に巨大な船のような彫刻作品を制作・展示予定だそう。同時期、松代では音楽祭や絵画展、菊花展などさまざまなイベントが開催されるほか、2018年11月から12月にかけて善光寺周辺で開催されたイベント「長野デザインウィーク善光寺表参道イルミネーション」が今年は松代地区も絡めて企画される予定で、文化や芸術に興味があるさまざまな集客が見込まれるそうです。
そんなプロジェクトの今後の展望は、さらなる販路拡大です。
「徐々に知名度が上がってきたものの今は販売場所が少ないため、今後は長野市内のホテルや大手雑貨店、総合書店といった場所でも販売を進めていきたいですね。より多くのお客様に日常に彩りを与える製品として手にとっていただくことで、松代を知ってもらったり、松代の魅力を再発見してもらうきっかけにしていきたいです」
こうしたプロジェクトメンバーの夢をのせて、まだまだ柴石を使ったお土産開発は進行中。気になる方、まずはクラウドファンディングのチェックからいかがでしょうか。
<info>
真田家14代当主もお気に入り 松代柴石使用「信州松代柴石ぐい呑み」クラウドファンディング
【マツシロックプロジェクト商品販売箇所】
・国民宿舎松代荘
・ツアーデスク Matsushiro Walkers(Facebook)
・Y-Breeze(NAGANO若者フリースペースN-port内)
・ヒーリングスペース石家
・長野市観光振興課
・長野市ふるさと納税返礼品