No.77
「森の中にまちがある。一歩」プロジェクト
ナガラボ編集部のマイフェイバリット
創業1833年の家具店が、空き地を拓いてつくる小さな森
文・写真 小林隆史
松葉屋家具店が大門町の空き地を森にする
善光寺中央通り沿いにある『松葉屋家具店+暮らし道具学研究所』は、樹齢100年以上の大木を使った一枚板のテーブルや自社デザインの椅子や棚、イランの手織り絨毯のギャッベなどを取り揃えた家具店。創業は1833年。県内の役所や学校の机や椅子なども作ってきた歴史あるお店です。
そんな松葉屋家具店の7代目店主、滝澤善五郎さんは、2017年の秋から「森の中にまちがある。一歩」プロジェクトをはじめました。
「隣の元画材屋さんがお店を閉めて、裏の倉庫が空き地となりました。かねてから、街の中に森を拓きたいと考えていた僕は、この空き地に植樹をしていくことにしました。中央通りからは奥まった一角。子どもの頃に草むらをかき分けた先に見つけた秘密基地のように、この森が密かな憩いの場所になったらいいなと思っています」
善五郎さんが「森のなかにまちがある。一歩」プロジェクトをはじめるに至った経緯は、東京の武蔵野美術大学工芸工業デザイン科を卒業し、20代後半で長野に帰ってきた頃の記憶に遡ります。
使われなくなった空き地に、人が立ち寄れる森をつくった理由
今から約30年前。家業を継ぐために東京から帰ってきた善五郎さんにとって、当時の街並みは、人通りもお店も少なく、帰ってきてよかったと思える街ではなかったそう。その中で、7代目松葉屋家具店の店主として何ができるだろうかと、模索してきた善五郎さん。まずは、自分が本当にいいと思える暮らしの道具と空間をつくり、お店としてきちんと成り立たせることに必死になったと言います。そんな30年をこの街で過ごしてきた中で、善五郎さんは次第にこのようなことを感じるようになりました。
「アスファルトの隙間から、芽を出そうとする緑。道路整備のために伐採される木。日本は、便利な生活を求めて、街を覆いすぎたのかもしれない。
木漏れ日に抱かれて、仕事へ向かう朝。木々の緑に立ち止まり、道行く人と他愛もない話がはじまるひととき。森の木陰を歩いて、善光寺へ向かう道。そんな風景があったら、木々に鳥が集まるようなにぎわいが生まれるのではないだろうかと思ったのです」
都市林業を進める、海外の美しい街並み
松葉屋家具店では、なるべく素性のわかる木材を使った家具づくりをするために、長野県信濃町の木材や、岐阜県の銘木を直接見に行って、選定してきました。「顔が見える人から野菜を買いたいと思うのと同じように、どこの森で採れた木なのかきちんと知っておきたいから」と、善五郎さんは話します。そして、できるだけ運搬コストをかけない、身近な森の木を使った家具づくりを追究していく中で、長野県で林業に携わる人から、ある海外の事例を聞いたそう。
「ヨーロッパではじまりつつあるのが、都市林業。都市に森林を整備し、木材の運搬コストを下げ、余った木材は燃やして再利用するという取り組みです。木材を燃やした熱は、水道の配管のように、熱配管を整備し、冬季の融雪装置や発電につなげようとしているそうです。
大門町では、そんなに大規模なことは、まだはじめられないかもしれませんが、100年後の街を考えた時に、この場所が森だったらきっといいことがあるはずと思っています。例えば、この森が少しずつ広がって、長野駅から善光寺の参道までが、戸隠の奥社のような森道になっていたら、きっと気持ちいいでしょうね」
木々が大木になるまでには、四季を何度巡るでしょうか。決して広くはない一つの空き地で、はじまったばかりの小さな一歩。「長野に立ち寄った際に、気軽に足を運んでみてほしい」と、善五郎さんは嬉しそうに話していました。
<info>
「森の中にまちがある。一歩」プロジェクト
(松葉屋家具店ブログ | http://matubaya-kagu.com/blog/ )
『松葉屋家具店+暮らし道具学研究所』
長野市大門45
営業時間:10:00-18:00
火曜・水曜定休