No.16
信州戸隠 鏡池
STUDIO yukey 渡辺由紀子さんのマイフェイバリット
磨かれた鏡に神々の坐・戸隠連峰を映す 鏡池
文・写真 みやがわゆき
人の手が育んだ景勝地
ときどき、無性に鏡池へ行きたくなる。そんな衝動にかられることはありませんか?長野市に住んでいる人の多くが、一度は行ったことがあるか、その噂をきいたことがある。近年、そのぐらい有名になったのが、戸隠の鏡池です。
標高1200m。太古の昔は海底だった地が、隆起してできた戸隠連峰の裾野に、まるでオアシスのように清水を湛える池。実は、農業用のため池であることを知る人は、さほど多くありません。標高が高く寒冷な戸隠で、水田耕作を行うためには、水を温めてから田に引く必要がありました。戦後、それまで悲願だった稲作を実現したのが、ため池を利用した用水の確保だったのです。
人為的に作られた池は、はるか昔からそこに存在したかのように、戸隠連峰の色彩を映し込みます。その景色は訪れる人を魅了し、水面に立つ霧を見るために、早朝から三脚を立ててスタンバイするカメラマンの姿も珍しくありません。
正面、雲に隠れているのは戸隠連峰西岳(2053m)。手前の芝生広場はヨガや体操のフィールドとしても利用されています。
紅葉スポットとして急成長
戸隠連峰と池の周囲の広葉樹が赤や黄色に染まるのは、例年10月上旬から中旬頃。その奇跡的な美しさを一目見ようと、全国各地から多くの観光客やカメラマンが訪れます。ただし、鏡池に通じる自動車道は細く、駐車場も充分にありません。2009年からは、紅葉の時期の混雑を回避するため、地元の観光協会が中心となって交通規制が行われるようになりました。10月になると土・日・祝日は鏡池へのマイカー規制があり、シャトルバスが運行されますのでご注意を。
とはいえ、夏の間はさほど混雑もなく、運が良ければ撮影のベストポジションを独占することもできます。
晴れていれば、水面に映る戸隠連峰はもちろん、日の当たり具合によって異なる緑のグラデーションの変化など、ゆっくりと楽しみたいものです。
戸隠山の山頂から始まる鏡池の紅葉。例年のピークは10月中旬頃だという。 (写真提供:戸隠観光協会)
「裏鏡池」をおさんぽ
時間があるなら、鏡池の周囲の遊歩道をお散歩してみてはいかがでしょう。
木漏れ日、野鳥の囀り、草木に咲く花々。すべてが癒やしのパワーを持っているように感じられます。鏡池一周は約30分ですが、余裕があるなら、森林植物園へ向かう遊歩道の途中にある「天命稲荷」へ。
森の奥に現れたのは、赤い鳥居。なんだかジブリの作品に出てきそうな雰囲気です。こちらのお稲荷さんは、戸隠最後の修験道行者といわれた女性行者、姫野公明氏が建てた知る人ぞ知るお宮。境内にはこのお宮の建立の経緯が石碑として残されていますので、興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
さらに、天命稲荷から戸隠森林植物園・奥社へと抜けるルートは、まさに「森林浴」を楽しめる遊歩道ですが、野生動物の棲息地なので、一人歩きは避け、鈴や虫除け対策を忘れずにお楽しみください。
伊勢の外宮(豊受大神)を祀る天命稲荷。遊歩道では多様性に富んだ草花が目を楽しませてくれます。