No.96
〈pinatis-ピナティ-〉の天然酵母パン
ナガラボ編集部のマイフェイバリット
里山のアトリエで育てた酵母の恵み
文・写真 小林 隆史
長野市花咲町にあるキッチン兼コンセプトショップのみならず、長野市をはじめ全国のショップ、イベントでも人気を集める〈pinatis-ピナティ-〉の天然酵母パン。里山で採れた果物やハーブの酵母と、自家栽培の無農薬小麦を使い、「できるだけシンプルに、酵母の力を生かして、手を加えすぎない」というコンセプトで作られています。
店主の厚海友美さんは「酵母を育てるのもパンを作るのも、毎日同じようにはならないからこそ、おいしさの発見が楽しい」と笑顔を見せます。そんな〈pinatis-ピナティ-〉のパンをご紹介します。
▲〈pinatis -ピナティ-〉のinstagramでは、パン作りの裏側、酵母のことなどを見ることもできる
▲2018年6月、長野市花咲町にオープンした〈pinatis-ピナティ-〉のキッチン兼コンセプトショップ。民家が軒を連ねる閑静な街並みに佇む
▲明治中期の長屋古民家を改修した空間では、天然酵母のパンをはじめ、衣服やカトラリーなども並ぶ
おいしさのヒミツは、里山に広がる酵母?
小麦や果物の自然な発酵がおいしさを左右する天然酵母のパン作り。味もふくらみ具合も、その日限りの偶然とも言える加減を読むのはそう簡単ではありません。一定の温度や湿度を保った環境でパン作りをするために、地下にキッチンを設けたり、壁に自然塗料を使ったりと、こだわる人もいるほど。奥が深いパン作りですが、〈pinatis-ピナティ-〉のパンは、長野市花咲町のキッチンだけでなく、里山のアトリエから始まります。
「小麦や果物の畑もあるので、飯綱町のアトリエで酵母を育てています。やっぱり里山で酵母作りをするのがいいなぁと感じていて。秋になるとりんごの花の香りがあたり一面に広がったり、ちょっと傷んだ果物が落ちていたりして、もともと里山全体に酵母が育っている気がするので(笑)」
2015年に東京から飯綱町に移住してきたの厚海さんにとって、そんな里山の恵みは、パン作りの原点となりました。
「自分たちで育てた小麦や果物、ハーブだけでなく、近所の農家さんから食材をおすそわけしてもらうことも多くて。もったいないから、酵母を育てるようになりました。そして、里山に来る前から続けていたパン作りを、あらためて酵母の力に頼って始めてみようと思ったら、もう楽しくて(笑)」
▲〈pinatis -ピナティ-〉の酵母。小麦や果物を中心に、厚海さんが育てている
そうして、旦那さんと飯綱町でカフェを始めるようにもなり、パン作りに夢中になっていきました。その後は「ハーブをもっと学びたい!」という思いから、ハーブ農場でも働き、自家栽培で小麦を作り、おすそわけの果物やハーブから酵母を育てて、パンを作る。そんな毎日を送るようになっていきました。
▲長野市花咲町のキッチン兼コンセプトショップ。南北に奥まで抜ける空間で、玄関からキッチンへと心地よい風が抜ける。この日は仕込みを中心に行う定休日。いつもは、写真右の棚にパンが並び、焼き立てを買い求めるお客さんでにぎわう
パンと農のある暮らし
飯綱町の里山暮らしから、農家さんとのつながりも広がり、カフェを中心に、イベントや配達でもパンを届けるようになった厚海さん。すると今度は、知人からの紹介で、キッチン兼コンセプトショップとなる長野市の古民家と出合い、「街中でもパンを届けられる場所をつくってみたい」と考え、お店を開くまでに至りました。
「裏庭に緑が多いこの長屋はとてもよくて、里山のアトリエとも近いですし、きちんとパン作りができる環境も整えられました。梅の木から梅を収穫したり、裏庭でハーブを育てたり。この場所から、パンのある暮らしを届けてみたいと思いました」
▲里山のアトリエだけでなく、花咲町のキッチン兼コンセプトショップの裏庭でも、ハーブや梅などを育てている
そんな思いで、アパレルブランドを企画する夫の俊司さんともに、「パンのある暮らし」をテーマにしたコンセプトショップとしてオープン。オーガニックコットンの衣服やバターナイフなども取り扱い、パンにまつわる暮らしの道具も取り揃えています。
「届けた先で、子どもの話をしたりするのも愉しくて(笑)」畑を育てて、パンを作って、届ける毎日
長野市の中心市街地のほど近いところに、キッチンを構え、里山のアトリエで酵母を育て、市内外のお店へパンを届ける〈pinatis-ピナティ-〉。「なるべく自然のものを自然のままに、おいしく食べられるように」という真心が込められています。
▲長野市善光寺中央通り沿いにあるコーヒースタンド〈FORET COFFEE〉に並ぶパン。〈pinatis-ピナティ-〉のパンを求めて訪れる人も多く、午前中から完売することもしばしば
「届けたい人のところに、必要なパンを届ける。そうして、その場で子どものことや畑のことを話したり、パン作りのことを聞かれたりするのが、楽しくて(笑)。いちごの酵母を使ったパンを食べた子どもが『いちごの味がする!』と喜んでくれたり」
酵母や小麦が育つところにも、お客さんのおいしいの声が届くところにも、直接会いに行く厚海さん。だからこそ、「パン屋としては、やっぱり酵母の風味がそのまま生きるシンプルなパンのおいしさを届けたい」と話します。
「自家栽培無農薬の小麦と果物の酵母の味わいが、シンプルにそのまま楽しめるのは、やっぱり『パンドカンパーニュ』と『ロデウ』。これがおいしいと言われるパン屋であれるように、がんばります(笑)」
そんなパン作りの奥深さも、シンプルなパンの食べ方も、はたまた子どもや農のことなどを訊ねるために、花咲町の〈pinatis-ピナティ-〉直営店や、そのおいしさを知る取扱店へ足を運んでみては。
▲最近は東京の「世田谷パン祭り」にも出店するなど、パンを届ける先が広がっている
〈pinatis-ピナティ-〉のパンのことや取扱店については、HPに詳しく紹介されているので、ぜひこちらもチェック。
<info>
pinatis ピナティ
<お問い合わせ>
〒380-0865 長野県長野市大字長野 花咲町811-1
TEL: 026-405-4769
営業日: 木、金、土曜日 10:00〜17:30 売切次第 閉店
https://www.pinatis.com