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No.91

戸隠で初開催!「もののけ祭り」

ナガラボ編集部のマイフェイバリット

日本の伝統芸能を革新的に表現する個性豊かなアーティストが集結

文・写真 島田 浩美(文)、腰塚 光晃(写真)

近頃、巷を賑わせている「もののけ祭り」。どうやら戸隠に日本のさまざまな伝統芸能の表現者が集まり、唯一無二ともいわれるイベントが開催されるとか? その詳細と立ち上げの経緯を聞くべく、実行委員長で写真家・映像制作プロデューサーの腰塚光晃さんを訪ねました。
 

日本人がポテンシャルや価値観にもっと誇りをもって生きるために

8月31日と9月1日に戸隠スキー場で開催される「もののけ祭り」。総合演出も手がける実行委員長の腰塚光晃さんは、東京を拠点に写真家として活動し、雑誌や広告、CDジャケットなど、さまざまなクライアントワークに携わってきました。そして活動の幅を広げ、2014年には東京・中目黒に着物屋「KAPUKI」をオープン。2016年には低予算でインパクトのある映像を製作する少数精鋭の映像プロダクションを設立し、さらに2018年には“江戸”と“かぶく”をテーマに新しい和文化を伝える雑誌『ぶ ~江戸かぶく現代~』を創刊するなど、撮影の枠組みを超えて広く活躍しています。
 
もともとメンズファッション誌を主とした編集者でしたが、24歳の時に写真家に転向したという腰塚さん
▲もともとメンズファッション誌を主とした編集者でしたが、24歳の時に写真家に転向したという腰塚さん
 
「着物屋は撮影の仕事を通じて業界を裏側から見た時に、もっと着物をファッションやアートとしてアップデートすれば、より魅力を感じる人が増え、職人の技術が受け継がれていくのではないかとイメージしてオープンしました。その流れから知ったのが、学校では教わらない江戸時代の文化や芸術、知識のすごさ。例えばファッションでは、流行が生まれて一般の人が追いかける『モード』の切り口が、江戸のほうがパリよりも150年も早かったんです。そこで、日本人はもっと自国の本来的な表現やカルチャーの面白さを知り、自分たちのポテンシャルや美意識、粋な価値観に誇りをもてば、より楽に生きられると考え、有名企業やメジャーなメディアにフォーカスしがちな現代人に新たな価値観を提案したい思いもあって『ぶ』を創刊しました」
 
『ぶ』の創刊号の表紙はボールペンで描かれたSHOHEI(大友昇平)氏の作品
▲『ぶ』の創刊号の表紙はボールペンで描かれたSHOHEI(大友昇平)氏の作品
 
こうして発行した『ぶ』は好評により、初版の3,000部が間もなく完売。腰塚さんは現在、増販を計画中ですが、「この価値観をもっと実体験として多くの人に伝えたい」との思いで企画したのが「もののけ祭り」でした。これまでの自身の活動のつながりから「これこそが本物の芸能人」と感銘を受けた、音楽、伝統芸能、アートに関するアーティストたちを一堂に集め、日本の芸能を革新的に表現するイベントです。
 
8月31日と9月1日に戸隠スキー場で開催される「もののけ祭り」。
 

長年通い続ける神聖な戸隠の自然、景色、気候、人々の魅力

実はかれこれ14年ほど、年に3~4回の頻度で戸隠に通い続けている腰塚さん。きっかけは、義姉が小さな頃から戸隠に好んで通っていたことから、兄夫婦と一緒にスキーに訪れたことだったそう。その後は夏に家族でキャンプに訪れたりと、季節を問わず頻繁に足を運ぶようになりました。
 
「戸隠の魅力は、コンビニも信号もなく自然が豊かで、神社や参道がある日本有数の神域であり、かつ、コンパクトな規模感なので地域の人が密にコミュニケーションをとって人間っぽさを残せているところです。都会では隣の人が何をやっているかわからず、コミュニティが大きいので自分が入り込む余地がありません。実は東日本大震災後は戸隠に引っ越そうと思っていたほど、全て含めて愛すべき場所です」
 
戸隠
 
撮影の仕事としても、サントリーのクラフトジン「ROKU(ロク)」やTOTOのCMのロケ地として訪問。そうしたなかで地元の若者たちと酒を酌み交わす仲になりました。毎回行き着くのが「戸隠に足りないものは何か」という話題。腰塚さんは「何も足さなくていい。むしろ足したら戸隠ではなくなってしまう」と感じていたそうですが、一方で、過疎化や空き家の問題なども知ったそう。特に伝統食など地域文化継承の機会が減っていることは重要な課題だと考え、地元のさまざまな催しのなかに文化をきちんと伝えるプログラムを組んだらどうかと提案していたそうです。
 
すると昨年、戸隠で定宿とするホテルのオーナーより、2019年度から戸隠スキー場の運営が新しい民間会社に委託されることもあって「戸隠のために仲間を集めて何かイベントをやってみませんか」と声をかけられたのだとか。頭に浮かんだのが、戸隠の若者たちと話していた「文化を継承する機会を自分が始めればいいのだ」という思いでした。
 
「僕は戸隠が好きだし、ビジョンを思い立ったら突き進みたいタイプなので、戸隠にマッチする新しく強い表現になる企画が許されるのであれば、とにかくやりたいと思いました。すぐにこれまでつながりのあるさまざまなアーティストの顔が浮かび、『これなら過去になかった祭りが実現する。それを戸隠で発信できることはすごく意味がある』と思ったんです」
 
出演者のひとり、全国各地で炎舞のパフォーマンスを披露する酔月
▲出演者のひとり、全国各地で炎舞のパフォーマンスを披露する酔月
 

地域の人とともに作り上げ、2日間の流れを大切に

そんな「もののけ祭り」の「もののけ」とは、この祭りに集うアーティストのこと。
 
「出演者は大きな流派に属しておらず、インディペンデントで新しい和の表現をするアーティストたちです。『すばらしい表現者なのに、なぜ今まで知らなかったんだろう』と僕が感じた人ばかり。そこで、普通の祭りとは異なることから、普通とは違う名前を付けました」
 
こう話す腰塚さんですが、当初は「もののけ=妖怪」というネガティブなイメージにより、地域の人が難を示すこともあったそう。しかし、さまざまな意見や疑問に対し一つひとつ丁寧に説明を行い、地域の人たちに理解し、納得してもらうことを大切に計画を進めました。
 
「初の試みでもあるので、地域のみなさんが気持ちよく開催できることが大事だと考えました。すると、戸隠がコンパクトなコミュニティであるがゆえに、結果的にみんなが応援してくれるようになり、気持ちがひとつになったと感じています。そういう流れは祭りに近いのかな」
 
「もののけ祭り」でライブパフォーマンスを披露する「切腹ピストルズ」
▲「もののけ祭り」でライブパフォーマンスを披露する「切腹ピストルズ」
 
こうしていよいよ迫った「もののけ祭り」。
初日の8月31日は戸隠に伝わる「岩戸伝説」にちなみ、「アメノウズメ(アマテラスの岩戸隠れの際、踊りでアマテラスを誘い出し、世界に明るさと平和を復活させた芸能の女神、日本最古の踊り子)の新月祭」と銘打って、主に女性アーティストが出演。腰塚さんが「光を歌声にする才能をもっている」と評する「水曜日のカンパネラ」のコムアイさんは「YAKUSHIMA TREASURE(水曜日のカンパネラ×オオルタイチ)」として出演し、Lemnaさんは戸隠のそば打ちや和太鼓の音、戸隠地質化石博物館に展示されているホラ貝の音色などを音源に作曲し、演奏します。日本舞踊家の花柳凛さんは、かつて江戸幕府によって弾圧された歌舞伎の原点を復活。本来的な歌舞伎や日本舞踊の表現の意味を伝える試みを図ります。
 
日本舞踊家の家系に生まれ、日本を代表する舞踊家の祖父・花柳稔さんに師事した花柳凛さん。
▲日本舞踊家の家系に生まれ、日本を代表する舞踊家の祖父・花柳稔さんに師事した花柳凛さん。「もののけ祭り」では数百年先の日本を考えて歌舞伎の起源である出雲阿国による「かぶき踊り」を上演
 
2日目の9月1日は「アメノタヂカラオ(岩戸からアマテラスを引きずり出し、その岩戸を戸隠に投げ捨てて世界に明るさと平和を戻した力の神)の太陽祭」と銘打って、佐藤タイジさんや「切腹ピストルズ」など、男性アーティストを中心とした構成に。なかでも戸隠に稽古場をもち、国内外で活躍する和太鼓奏者・佐藤健作さんは和太鼓の新たな世界を開拓しており、腰塚さんはレッスンに通うほど魅了されているそうです。
 
全身がバチになるような独自の打法を生み出し、全国の神社・聖域でも多数の奉納演奏を行う佐藤さん。
▲全身がバチになるような独自の打法を生み出し、全国の神社・聖域でも多数の奉納演奏を行う佐藤さん。個人所有世界最大級の大太鼓「不二(ふじ)」の演奏は圧巻
 
「このように覚悟や情熱を感じる和の表現者を応援し、集めることでパワーが倍増します。それをこの戸隠の地で見せることが戸隠っぽさであると考え、今回のテーマとしています。結果的に音楽フェスでの“楽しい”という感情とは異なる、日本人としての血が騒ぐような圧倒的な高揚感を体験してもらうことで、誇りや自信をもってもらえたら。本来の祭りはそうあるべきだと思っています」
 
ほかにも、装飾家・能勢聖紅さんと造景集団某による会場のデコレーションには地元の中学生も参加します。
そんな2日間の演出で腰塚さんが一番気を使ったのが全体の流れ。太鼓や踊りを中心に、ラストに向けてぐんぐんとボルテージを上げていくような構成になっているのだとか。
 
会場内には戸隠在住の茅葺き職人であり、北信地域で数々の茅葺き屋根を復活させている渡辺拓也さんと木工職人・マークさんの手による、室内に入れる茅葺きドームが完成
▲会場内には戸隠在住の茅葺き職人であり、北信地域で数々の茅葺き屋根を復活させている渡辺拓也さんと木工職人・マークさんの手による、室内に入れる茅葺きドームが完成。期間中はお茶会やさまざまな催しに使われます
 
木彫にポップカルチャー的要素を融合させ、現代アートヘと昇華させる彫刻家・淺野健一さんの作品
▲木彫にポップカルチャー的要素を融合させ、現代アートヘと昇華させる彫刻家・淺野健一さんの作品も。彼の代表作ともいえるオーパーツが展示されます
 
「今の時代はすぐに炎上を恐れて強い表現を踏みとどまる傾向にありますが、戸隠での『もののけ祭り』の開催は、たとえ自腹を切ってでもやる意味があると思っています。前例のないことをやるうえでの苦労もありましたが、楽しんでプロデュースができていますし、祭りは新しいご縁をつくるとともに普段のコミュニケーション不足を解消する場でもあるので、終了後に戸隠の人がどう判断するかが楽しみ。今回が成功したら、来年はローカルステージの設置も考えています」
 
舞台でのパフォーマンス以外にも、飲食や物販のブースも多数。ユニークなワークショップも
▲舞台でのパフォーマンス以外にも、飲食や物販のブースも多数。ユニークなワークショップも
 
日本の伝統芸能や祭りの意義の再確認はもちろん、夏場のスキー場の有効活用としても一石を投じるイベント。新しいカルチャーを五感で体験できる「もののけ祭り」に足を運んでみませんか。
 
 
 
<info>
もののけ祭り
日時:2019年8月31日(土)、9月1日(日)
会場:戸隠スキー場(長野市戸隠3682)
料金:一般1日券6,000円、2日通し券9,000円、1日駐車券1,000円 ※中学生以下および戸隠在住者無料
https://mononoke-matsuri.jp/

<お問い合わせ>
info@mononoke-matsuri.jp

(2019/08/21掲載)

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