No.288
久根内
彰さん
くねうち
ICI石井スポーツ長野店 店長
身近にある、素晴らしい長野の自然を
安全かつ気軽に楽しんでもらうために
文・写真 合津幸
信州の魅力のひとつである雄大な自然。今回ご紹介するのは、そんな信州の自然に魅了されてIターンを果たした久根内(くねうち)彰さんです。アウトドア用品店店長としての仕事を通して感じていること、伝えたい想い、今後の展望、さらに久根内さん流の信州の楽しみ方、お気に入りのスポット、大好きな風景などを教えてもらいました。
信州の自然との出会いが人生を変えた
全国各地に支店を構える「ICI石井スポーツ」は、アウトドア、登山、スキー用品の専門店です。県内では松本市に松本店が、そして長野市の玄関口・JR長野駅善光寺口近くの複合商業ビル2階に長野店があります。
その長野店がオープンした2000年よりスタッフとして働き、現ビルの完成と同時にリニューアルオープンした2010年より店長を務めているのが久根内彰さんです。
新潟県新潟市の出身の久根内さん。長野県とのご縁は信州大学への進学によりもたらされました。
「長野に住みたいとか働きたいとか、そういう考えがあったわけではないんです。兄が長野県内の大学に進学していたので少し親しみがあったことと、通った学部がユニークな入試選抜方法を採用している点に興味を持ったことがきっかけでした」
最も楽しいのはお客様と接している時間です」。何を望み、何を不安に感じているのかを汲み取れるよう、何気ない会話にも気持ちを傾ける
しかしそんな久根内さんに、さっそく変化が訪れます。
大学1年で体育の選択授業を取る際、費用が安く済むというだけの理由で選んだトレッキングで八ヶ岳へ。これまでに見たことのない、美しく雄大な景色に魅了されます。
さらに、「お金はないけど時間だけはたっぷりあった(苦笑)」ため、長期休みのたびに趣味の自転車で遠出をするようになりました。日本中を自転車で走るために、ICI石井スポーツ松本店に出掛けてはテントやキャンプ用品を少しずつ買い揃えて行ったそうです。
「八ヶ岳の自然に惹かれて、信州の自然に対する意識が変わったのも確かです。でも、それ以上に印象的だったのは、私にいろんなアドバイスをくれた松本店のスタッフさんでした。いつ訪ねてもイキイキと働いていて、すごく魅力的な仕事だなぁ、自分もこんな仕事がしたいなぁと思いました」
年次も進み就職活動を進める中で、自身が働くにあたって強く望むことを2つに絞り込みました。アウトドア用品の業界で働くことと長野県で働くこと、です。両方を満たす仕事が見付かれば言うことなしですが、思うようにはならないのが人生です。
スノーシーズンを前に、1年で最も多忙な時期に突入。自身が学生時代親身になって対応してもらった経験を胸に、丁寧で細やかなサービスを提供
最終的には二者択一を迫られ、悩んだ末に、新潟県三条市にあるアウトドア用品のメーカー兼輸入代理店への就職、つまりアウトドアの業界で働くことを選びました。
「長野で暮らすのもお客様と接する仕事も、何年か後でもきっとできる。まずは知識を増やそう、経験を積もう。そんな気持ちでした。おかげで、製品製造の舞台裏を知る事ができましたし、営業として小売店を回って店とメーカーとの関係性ややり取りのコツなども理解できました。輸入代理店として海外メーカーの拠点を訪ねたりもして、有意義な時間でした」
社会人となって約4年半を忙しく過ごす間にも、営業で長野県を訪れることもあれば、月に1度位の頻度で山登りのため訪長していたという久根内さん。学生時代同様に、ICI石井スポーツ松本店にもよく立ち寄っていたそうです。
そして、ある時長野店オープンの情報を得て、念願のショップスタッフへと転職を果たしました。同時に学生以来二度目となる長野県での暮らしをスタートさせたのです。
白馬山域にはテント泊登山を楽しみに出掛けるという久根内さん。この日も絶景と出合った(写真提供:久根内さん)
安全に楽しむために必要な情報とアドバイスを
長野店のオープンから15年、現在の店舗へのリニューアルと同時に店長に就任してから5年。管理業務が増えると同時に、店長という立場にあるからこそ自分の想いやスタッフの想いを店づくりに反映しやすくなったとも感じているそうです。
「私が最も大切にしているのは、人と人との関わりです。物を売るだけじゃなく、お客様の想いに応えられるプロでありたい。そのためにはまず、できるだけ山をはじめとする自然の素晴らしさや厳しさを、自分の目で見て体験するよう心がけています。そのうえで、実体験に基づいた正しく適確な助言を行い、お客様に役立てていただきたいと思っています」
ただし、「私もスタッフも、自身がまず楽しむことが重要です」と、久根内さん。ショップスタッフはお客様が安全で楽しく”遊ぶ”ためのお手伝いを担います。アドバイスを与えるスタッフが自ら自然を楽しみ、その体験を生かしてこそお客様にも楽しい思い出や素晴らしい時間を過ごしてもらえるのです。
「私たちの助言やお勧めした道具が役に立って、『もっと自然に親しみたい』とか『次はこんな遊びに挑戦したい』という声が聞かれると嬉しいですね」
ところで、久根内さんが勤め始めた2000年と今とでは、お客様の要望等に変化はあったのでしょうか?
久根内さんの印象では、長野市や周辺に暮らす人にとっての山は、ある意味身近過ぎるものだったようです。山菜採りやキノコ採りなど生活の一部としての存在が大きく、わざわざ遊びに行くような場所ではなかったのかもしれません。また、登山は今ほど幅広い年齢層に広まっておらず、主に中高年の方の趣味という認識が主流だと感じられたのだとか。
仕事で愛用中の作業用グローブ。「私の小さめの手にもフィットして、グリップが利くものを探すのに苦労しました。と言っても、ホームセンターで見付けましたけど(笑)」
「道具にしても、たとえばウェアについては『どうせ汚れるものだから…』と、デザインや機能性で選ぶのではなく作業着的に捉えていらっしゃる方も少なくありませんでした」
しかし、今は季節や行程に合った服装で出掛ける方や機能にくわえてオシャレに楽しめるものを選ぶ方が増えました。年代を問わず、多くの方が装備や道具に対して意識を高く持ったうえで山上りや山歩きを楽しんでいるのを実感しているそうです。
「ただし、石井スポーツは”専門店”のイメージが強く、初心者の方には入りにくいと思われてしまう節があるようです。実際にはそんな事はありません、まったく初めての方でも大歓迎です!私たちを頼ってどんなことでも気軽に尋ねてほしいと思います」
また、お客様の変化を受けて、久根内さんたちプロも技術や知識のレベルを向上させようと努力を重ねています。具体的には、久根内さんならば登山ガイドとスキーガイドの資格を取得し、その知識を共有する場として登山学校等を開催。参加者と一緒に、楽しみながら実践的に学ぶ場を提供しています。
「長野市は、車で1時間30分程度の距離にバラエティ豊かな山々やスキーリゾートが控えるとても恵まれた地です。国内外を見回しても、これほど自然の中での遊びが豊富な地は他にないと思います。今後は参加型のイベントを充実させて、地元の皆さんをはじめ一人でも多くの方に長野の自然の素晴らしさを知ってもらい、安全に楽しんでいただけるようにしたいですね」
店長に就任して、管理業務がグンと増えた。その分、店づくりの方向性や目指すべきものが明確になり、スタッフにも協力を仰げるようになったという
四季の巡りを感じ、自然に寄り添う暮らし
私生活では、約7年前に長野市街地から長野市飯綱高原に移り住んだ久根内さん。飯縄山の登山口近くに居を構え、季節の移り変わりを肌で感じながら過ごす日々を楽しんでいます。
もともと、「長野県で暮らすのなら、より自然に近い土地で」と、願っていた久根内さん。偶然にも飯綱高原で暮らす友達がいたこと、そして季節の変化が日々実感できる環境であることから飯綱の地を選んだそうです。
「市街地から車で20分しか離れていないのに、こんなに豊かな自然に囲まれて暮らせるんですから、長野って本当にいいところですよね。もちろん楽しいだけじゃ暮らせるものではなく、冬が近付くとストーブ用の薪の心配ばかりしてみたり、大雪が降ると雪かきに追われたりして、自然の厳しさを実感させられたりもします。でも、それもまた信州暮らしの醍醐味ですから、大変と思わず特権だと思って楽しむようにしています」
久根内さんが飯綱高原に暮らしたからこそ体験できたことのひとつに「月の明るさ」がありました。特に一面が雪に覆われた冬の夜は、雪面が月の光を反射して輝き、灯りなしでも周囲を見渡せるというから驚きです。
自宅周辺は自然の宝庫。「家の周りをじっくり散策して、オリジナルの地図を作ってみたいです」(写真提供:久根内さん)
「こういう何気ない日常や発見・感動が私にとっての贅沢なんですね。特別なことなんて必要なくて、たとえば家の周りでよく見かける動植物を眺めたり写真を撮ってみたりするのも十分楽しいんです。そんな風に自然と寄り添って暮らせることが幸せです」
そんな久根内さんが良く出掛けるお気に入りのスポットは、戸隠神社奥社と飯山市の鍋倉高原だそうです。ほかにも、夏〜秋は近場の低山から北アルプスまでさまざまな山に出掛け、冬は主にバックカントリースキーを楽しんでいらっしゃいます。
「私が長野県に移り住んで、今年で15年目に突入しました。学生時代に過ごした時間も合わせれば、20年弱長野で暮らしていることになります。その間、トレッキングやハイキングなどの山ブームや非圧接バーンでのスキーやスノーボードの人気上昇など、アウトドアやスポーツの業界にも変化が訪れました。それに伴い、道具の進化や充実度も格段に上がりましたし、情報の入手方法も拡充していますよね」
大好きな風景のひとつ、戸隠神社奥社参道・随神門を介して見た杉並木。別世界のように厳かで神々しい(写真提供:久根内さん)
自然との距離感や遊び方の選択肢が増え、ウェアや小物などの各種ギアも種類豊富に揃うようになりました。さらに、ここ数年は、機能性だけではなくデザイン性の向上も見られるようになりました。
これだけ充実しているからこそ、初心者やスキルアップを目指す方には、久根内さんのようなプロの助言や体験談が必要なのかもしれません。
ブナの木々が美しい鍋倉山。新緑と残雪の中での春スキーなど、季節ごと足繁く通う場所のひとつ(写真提供:久根内さん)
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会える場所 | ICI石井スポーツ長野店 長野市末広町1356 Nacs末広2F 電話 026-229-7739 ホームページ http://www.ici-sports.com/ |
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