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No.253

平賀

研也さん

県立長野図書館 館長

図書館を長野県を知るための入り口に。

文・写真 くぼたかおり

1929(昭和4)年に開館した県立長野図書館。当初は現在の長野市立図書館が建っている場所にあり、1979(昭和54)年に現在地の若里に移転。以降市民が学び、憩う場として利用されています。今年就任した平賀研也さんは、伊那市立伊那図書館長を務めていた時にライブラリー・オブ・ザ・イヤー大賞を受賞。果たして、どんな方なのでしょうか。

キャリアを積むためにアメリカへ。そこで得た"自由"

東京都出身の平賀研也さん。長野県へ移住するまでは東京の外車輸入販売会社の経営改革を担い、車を輸入して国内に供給する契約交渉などの仕事をしてきました。

平賀さんが社会に出た1980年代はじめの日本は、世界から「Japan as No.1」と評価を得て、多くの海外企業が日本のマーケットに進出。経済がめまぐるしく変化していく中、仕事中心の生活を送っていました。毎日帰宅は2~3時で徹夜することもしばしば。それでも毎日が楽しく、やりがいがあったと言います。そして30代になり、さらなる知識や経験を吸収しようと奥さまとともにアメリカへ渡り、大学で経営について学ぶことを決めました。

「漠然と思い描いていたアメリカは”競争社会”でした。しかし実際には、それ以上に自由を感じました。日本では30代になって大学で勉強し直すこと自体がまだ少ないと思います。しかしアメリカの大学では、40代以降自分がどのように働きたいのか。例えば経営するのか、研究するのか。そういったスキルアップのために学ぶ人も多いんです。バリバリ働きながらも、週末は自然の中でのんびり過ごす。そんな生き方をしている人たちと接しているうちに肩の力が抜けて、いろんな物事に対して楽観的に考えられるようになりました」

大学での経験によって心境に変化をもたらし始めたころ、奥さまが妊娠。もともと平賀さん夫婦は子どもがいる暮らしを考えていませんでしたが、「子どもがいるのも良いね」とその時は素直に思えたそうです。

緑にあふれた心地よい環境の中に佇む県立長野図書館

東京での子育てに疑問を感じていた時に出合った1冊の本

東京で子育てをする中で、平賀さん夫婦は日本の教育に疑問を抱くようになりました。そして奥さまは自分でフリース クールを作ろうと勉強し始めます。その中で「ひみつの山の子どもたち」(富山和子著)という、飯島町にある七久保小学校にいた溝上淳一先生の教育を記録した本と出合います。

そこでの授業は教室で教科書を開いて勉強する座学ではなく、毎日山へ出かけて自然や暮らしを教材に学習していました。義務教育の中で果たしてなぜこのようなことが出来るのか不思議に思った奥さまは、すぐに小学校へ問い合わせました。すると溝上先生から「見にきませんか?」と誘われたのがきっかけで実際に訪問することに。

平賀さんは「こんなに美しい場所が日本にあるのか!」とおどろくのと同時に、どこか懐かしさを覚えたと言います。19年勤めた会社の仕事もやり切った感があった平賀さん。2002年、子どもが小学校に入学するタイミングで伊那市へ移住しました。

県立図書館の書庫には、さまざまな古い書籍がたくさん収蔵されている

仕事で培った"つなぐ"をスキルに

移住してからすばらしい人たちとの出会いに恵まれてはいたものの、やりたいと思える仕事があるわけではなく、奥さまと小さな事業を立ち上げながらも、ほとんど収入がないまま2年間を過ごしました。

「昼は自然の中で遊んで、夜はバーベキューをしていましたね。ログハウスに住んでいたので東京時代の友人などもおもしろがってたくさん遊びに来てくれました。年100人ほどが訪れていたので、毎日誰かをおもてなししていましたね」

しかし次第に貯蓄もわずかとなり、東京で編集の仕事をしながら伊那で自分がやれる事を模索。そして2007年に公募で伊那市立伊那図書館長に就任しました。

「以前から”パブリック”とは何かということに興味がありました。私が今までしてきた仕事は、情報と情報、情報と人、人と人を”つなぐ”ことを主としてきました。異なる業種ではありますが、図書館にある情報、地域にある歴史や文化などと人をつなげたいと考えたのです」

図書館から若里公園の木々がよく見えて清々しい 「図書館の中だけでなく、もっと外に出たい」と平賀さん

図書館にある本は何かを知るためのメディアのひとつです。しかし現在ではインターネットの普及などとともに、時代に応じた”知るためのツールや方法”が本以外にもあります。そこで誰でも活用できる地域情報のデジタルアーカイブを作りたいと思い、その可能性を示すために始めたのが、携帯端末用アプリを使って、高遠藩があった江戸時代の古地図上に自分のいる場所を表示して街歩きを楽しむ「高遠ぶらり」です。図書館でワークショップやイベントなどを開き、楽しみながらアプリ開発を進めました。これによって、地域住民が図書館というパブリックスペースを与えられたものとして利用するのではなく、いかに主体性を持って関わるのかを考えるきっかけともなりました。このような取り組みが地域資源の創生と評価され、伊那市立図書館はライブラリー・オブ・ザ・イヤー大賞を受賞。そして今年、平賀さんは県立長野図書館長に就任しました。この図書館には明治時代からの長野県に関する資料が多く保管されています。今後、図書館だけではなく博物館や大学など長野県のデジタルアーカイブの入口を作っていく予定で、「信州について知るなら県立長野図書館と言ってもらえるような場所にしたい」と平賀さんは話します。これからは隣接する若里公園を使ったり、近隣の大学や企業とともにワークショップなどを開催していくそうです。

「信州 山の月間」に合わせて8月16日まで、長野県の5m×4mの巨大鳥瞰図をはじめ、所蔵している古地図やいろんな時代の地図などを図書館入口に展示します。従来の”図書館は本の貸し出しをする場所”というイメージから、どんな変化をしていくのか楽しみです。

「信州 山の月間」に合わせて、県内の山を鳥瞰図にして展示。山をさまざまな角度から見て楽しめる

(2015/07/17掲載)

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会える場所 県立長野図書館
長野市若里1-1-4
電話 長野市若里1-1-4
ホームページ http://www.library.pref.nagano.jp/
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