No.239
宵野間
信行さん
長喜園3代目店主
何杯飲んでも、飽きない。
日常に寄り添うお茶を届けたい
文・写真 くぼたかおり
長喜園の看板に隠された秘密
明治37(1904)年、創業者である宵野間長吉さんと奥さまの喜代さんが始めたお茶屋「長喜園」。かつてこの地域に住む人の多くは、小諸の酢屋久左衛門商店で修業をしたといわれています。創業者である長吉さんもそのひとりで、修業で培った経験を元にお茶屋を始めました。
創業した当時から使われている木の看板に、”一九”という文字が書かれています。これは酢屋久左衛門商店から暖簾分けを許された店にあるそうで、近隣ではすや亀本店もその証が看板に残されています。
3代目店主の宵野間信行さんは大学で経済を専攻し、広告研究やマーケティングについて勉強。卒業と同時に3代目として跡を継ぎました。当時は地元商店が多く、家業を継ぐ友人も周りにいたそうです。
「卒業と同時に3代目として長喜園に入社したけど、さほど気負いは無かったね。景気は良かったし、街に活気があって、店も忙しかった。商店街にいる先輩や仲間との交流の中で、さまざまな経営者の生き様に触れることが出来た。それが今の経営に役立っていると思う」
長喜園で販売するお茶は、全てオリジナル商品です。市場から選りすぐりのお茶を仕入れ、店の奥にある工場で火入れをして乾燥をさせたり、何種類かの茶葉をブレンドする工程を行っています。季節はもちろん、毎日変化する気温や湿度を見ながら、お茶づくりをしています。
「お茶は毎日何度も飲むもの。飽きない、生活の一部になるようなお茶が理想だよね」
存在感を放つ木の看板に書かれた一九の文字。店の歴史が看板からも伺い知ることができる
オリジナルであることの大切さ
創業当時から変わらず、中央通り沿いに店を構える長喜園ですが、このエリアはかつて問屋街としてたくさんの専門店が立ち並んでいました。しかし郊外に大型スーパーなどの量販店が出来たことで、その界隈にあった地域密着型の商店も閉店し、周辺地域に卸しをしていた地元の問屋も同様に無くなるという結果に。宵野間さんの友人で家業を継いだ人の半数以上も、すでに店をたたんでいるそうです。
「郊外に大型店が出来たことがきっかけで、”どこでも買える”商品ではダメなんだと痛感させられた。ありがたいことに当店はお茶屋としてオリジナル商品があった。だからこそ生き残れているんだと思う」
お茶屋としての追求はとどまることがなく、宵野間さんは40代半ばで日本茶インストラクターの資格を取得。お茶について基礎から勉強したことが強みになっています。そして現在は、日本茶の美味しさや魅力を伝えようと教室やワークショップなども開催しています。近くは6月23日に生涯学習センターで「美味しい日本茶の淹れ方」教室を開きます。興味のある方は、そちらもぜひ!
喫茶スペースを訪れたお客様にお茶を淹れる宵野間さん。すくっと背筋を正して一杯ずつ丁寧にお茶を淹れる。その所作が美しい
問屋街から回遊できる町並みづくりへ
西後町の商店主から結成されている西後町商興会では、数年前から「回遊できる町並みづくり」に取り組んでいます。長喜園でも卸売り業とは別に、4年前からお茶を使ったオリジナル甘味が味わえる喫茶スペースを店の一角に設けました。”長野駅から善光寺まで歩く途中でひと休みしてほしい”という想いと、”これだけの人通りで果たして需要はあるのだろうか”という不安が重なり半信半疑でしたが、始めてみれば予想以上のお客様でおどろいたそうです。
「一番人気のソフトクリームは、抹茶とほうじ茶の2種類。どちらも当店のお茶を採算度外視してたっぷり使っているんだよね。お茶屋のソフトクリームなのに、色だけだねとか、お茶の味しないじゃんって言われたくないからさ」
それだけにどちらのソフトクリームもお茶の渋み、旨みのバランスが良く、大人が満足できる味に仕上がっています。そのほかにも、ゆっくり店内で味わいたいという人には煎茶や紅茶がセットになった甘味も揃えています。セットに紅茶? と不思議に思って尋ねると、4代目として修行中の長男・宏秋さんは、紅茶にも興味があり勉強中とのこと。いずれは幅広い視点でお茶が楽しめるお店へと変貌していくのかもしれませんね。
抹茶、ほうじ茶の両方をぜいたくに味わいたい人には「宇治抹茶ぜりぃ 煎茶付き」400円がおすすめ
イベントを円滑にする、縁の下の力持ち
今年もゴールデンウィーク中に「善光寺花回廊」が開かれました。このイベントを円滑に進めるために実行委員会という組織が作られ、行政や企業、商店街などがさまざまな役割を持ち、約半年間準備をしていきます。宵野間さんは西後町商興会会長、長野市中央通り活性化連絡協議会会長の役に就き、「善光寺花回廊」では副実行委員長として会議の進行役から、各商店街店主へのイベント期間中の役割などを決定し、伝達などをしていきます。
「善光寺花回廊期間中、商店街店主は交通整備をはじめ、朝・夜には花キャンバス作品への水やりなど、地味だけど大変な仕事が任される。ゴールデンウィーク中は自分の店だって忙しいから、手伝ってもらうのもひと苦労。だから私はいつも、やってね!じゃなくて、自ら率先して行動で示すことで周りの理解を得るようにしているよ。でも、毎回くたくたに疲れちゃうね(笑)」
善光寺花回廊をはじめ、中央通り沿いで開かれるさまざまなイベントの成功の裏には、いつも商店街の皆さんの努力があります。
「誰に誉められるわけでもないけれど、通りが人でいっぱいになって、イベントが成功に終わればうれしいよ」
まさに縁の下の力持ち! 宵野間さんは、これからも街の未来を願って奔走し続けます。
花キャンバスの絵の図案ができるまでに、何度も会議で色や形などの修正のやり取りが行われて完成した
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会える場所 | 長喜園 長野市西後町1580 電話 026-232-2511 |
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