No.189
石川
利江さん
ISHIKAWA地域文化企画室代表
文化や歴史、伝統の面から
長野に興味をもってもらうきっかけづくり
文・写真 Takashi Anzai
ご開帳後も持続できるようなことを
アートや工芸、まちづくりなど、さまざまなイベントでコーディネーターやファシリテーターを務める石川利江さん。ギャラリー経営者でもあり、諏訪市の地域文化アドバイザーという顔も持ち、県内で最も活躍する文化人の1人です。
石川さんは現在、ご開帳期間に合わせて、善光寺門前文化の魅力を発信しようと、「門前文化会議」の立ち上げに携わり、準備を進めています。現在、開催を検討している企画は、まちづくりに関するリレートークや、芸術作品の展示、着物で街歩きを楽しむ催しなどです。
「ご開帳期間、毎日、賑やかにやっていればいいわけではないと思うのです。ご開帳が終わったあとも持続できるようなことをしたい。それと、長野に来る方の中には、回向柱に触るだけでなく、文化や歴史、伝統に触れたいという人はいると思うのですね。そういう人たちに、長野に興味を持ってもらうきっかけづくりをしたいのです」
門前文化会議には、善光寺門前を拠点とするゲストハウスオーナーや建築士、イラストレーターら、さまざまな職種の人たちが名を連ねますが、特徴的なのは30代、40代の若いメンバーが多いこと。
「今、門前では30代、40代の人がいい動きをしているし、エネルギーがあるし、それが仕事だけでなく、地域やそこに生きる人たちへの思いがあるのが、本当にうれしいんです。そうした次の世代の人たちがよりいい仕事ができる場づくり、ネットワークづくりのお手伝いを、出来る限りやろうと思っています」
お茶会にて。和服のモデルを務めることもある
前の世代の思いを バトンタッチしていく
石川さんは東京の大学で能や歌舞伎などの伝統芸能を学び、その後、出版社で編集の仕事をしていました。その間、多くの文化人と交流があり、人脈を広げていきます。東京の生活に満足していた石川さんでしたが、体調を崩し、いったん地元・長野に帰ります。体調が戻ったら東京へ帰ろうと考えていた石川さんですが、長野で考え方を変える仕事に携わります。
「東京時代の知り合いたちがガウディ展を全国的にやろうとしていたんです。事務局長が、友人のアートディレクターの北川フラムでした。長野の雪の中でアントニオ・ガウディ展をやりたいと連絡が来て、私もガウディには興味があったので、やってみようかと思いました」
長野に戻ってから1年ほどの生活で知り合った建築家ら、20~30代の若いメンバーで実行委員会をつくります。
「怖いもの知らずでしたね。無名の若いグループの活動でしたが、切符も売れたし、いろいろな世代の人たちが手伝ってくれて、展覧会は成功しました。東京でやるよりも強く感動してくれる人がいると感じたこともあって、もしかしたら地方都市でも何かできるのではないかと思ったんです」
その後、長野県の文化人20数人を書籍の編集に関わったり、信州の文化を伝えるラジオ番組のパーソナリティを務めたことで、仕事を通じてさまざまなことを勉強する機会に恵まれます。そして、講演などの仕事も増えていきました。
「(講演で)町や村いろんなところに呼んでいただいて、どこに行っても面白くて好奇心が刺激されました。それぞれの地域には固有の歴史や文化がある。100年やもっとずっと前から、その地の人たちが努力して耕したり、商いをしたりして繋がってきているので、私たちも前の世代の思いを次の世代にバトンタッチしていくということも大きな役割だと思うようになりました」
そうした思いから、次第に文化だけでなく、まちづくりの分野にも活躍の場を広げていくことになります。
「いろんなところに呼んでいただいて、どこに行っても面白くて好奇心が刺激されました」と話す
自分たちの街を 自慢できるように
石川さんのまちづくりに関する代表的な仕事の1つが、プロデューサーを務めた「エコール・ド・まつしろ」。松代地区の文化財を活用した生涯学習プロジェクトです。週末は文化財の中で体験型観光をしてもらうこの企画は、住民参加型であることが1つの鍵でした。
「趣味や学んでいることを通じて、観光客とコミュニケーションをして、おもてなしをしましょうというシステムでした。最初は『素人がそんなことをしても喜んでもらえない』と批判をする人もいました。でも、私の手を離れてからも、続いていることや多方向に発展したことを見ていると、方向性は間違っていなかったと思っています」
石川さんは松代の経験から、まちづくりを持続的に進める条件を学んだと話します。
「まちづくりは無理をしたら続かないし、楽しくないと続かない。それと、自分の地域の良さを自慢したいと思えるだけで、地域の力はすごく上がると思うんです。松代の人たちは自分の街に強い誇りを持っているので、松代のよさをわかってもらえることが喜びになったのかなと思います」
東京で人脈を広げたのち、長野で活躍の幅を広げた石川さん。門前文化会議で魅力的な若い世代の人たちに触れ、いろいろな文化活動を続けてと振り返ります。
経営するギャラリー「ガレリア表参道」は和のテイストでモダンなデザイン
「地方の街は人の繋がりや地域の豊かさを実感として感じられるのです。大きすぎる街ではできないことですね。かつて私も若いころは、地方の人間関係の濃さを嫌だと思っていました。思いを同じくする仲間と繋がれる楽しさだけでなく、価値観や方向の違う人とも関わらざるを得ない地方の人間関係は、結果として人間として自分を豊かにしたり、ある部分では修業させてくれたりしますね」
「あとは若い世代に任せた!」と笑う石川さんですが、豊富な知識や経験は多くの人から必要とされており、相変わらず多くのプロジェクトやイベントに引っ張りだこの状況が続きます。松代で見られるように、持続するまちづくりを大事にする石川さんが今後、善光寺門前ではどのような動きを見せるのか、楽しみでなりません。
まちづくりに関わってきた松代のイベントでボランティアの学生らと。「まちづくりは楽しくないと続かない」
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