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No.178

小島

秀康さん

国立極地研究所 地圏研究グループ教授

世界で最も隕石をみてきた男

文・写真 Yuuki Niitsu

隕石調査のスペシャリスト

2013年2月15日、ロシア連邦ウラル連邦管区のチェリャビンスク州付近で隕石が落下しました。原因が隕石と確定している中では、初の大規模な人的被害をもたらした災害であり、みなさんの記憶に新しいことと思います。

「ソフトボールくらいの大きさの隕石だと日本くらいの面積の場所には年間2個くらいの確率で落ちてきています。それより小さいものでしたら、もっと落ちてきていますよ」

なんとも衝撃的な発言の主は、国立極地研究所地圏研究グループ教授、小島秀康さんです。
小島さんは、長野市出身。現在は、東京都立川市にある国立極地研究所にて、隕石の研究を進めています。
 
1978年11月に、第20次南極観測隊として初めて派遣されてから、現在までに南極調査5回、越冬3回を経験しています。自身が携わった調査だけでも8000個の隕石を発見。2014年7月2日の時点で全世界での発見数は約46000個ということから、驚きの数です。

小島さんは国立研究所において、順次分類を進め、分類学的、岩石鉱物学的な特徴を明らかにし、南極隕石データベースを更新。世界で最も隕石をみてきた一人と称されています。

小島さんは隕石を探す理由をこう述べます。

「地球を含めた太陽系の創成期のことを知るには地球外の隕石を主とする岩石を調べるしかないんです。つまり、小惑星から落ちてきた隕石が必要なんですよ。隕石は遠い過去からの手紙とでもいいましょうか」

また、南極で隕石を探すことについては

「南極に落ちてきた隕石は氷の流れによって山脈にぶつかり、そこに堆積していくんですよ。だから、発見しやすく、数も多い。それに、寒い場所だと風化や汚染がほとんどないんです」と説明します。

第44次南極観測隊の際にNHKのインタビューを受ける小島さん(写真提供:小島さん)

川の石を集めるのが好きだった少年時代

小島さんは高校卒業までを長野市で過ごしました。小学校の頃は学校から帰るとザルをもって近くの川へ行き、石を集めるのが大好きだったそうです。

「川原にある石は数千年前のもの。子どもながらにドキドキしました」

そんな小島さんのことを知っていた親戚のおじさんを通して、ある日、南極の石と出会うことになります。

「おじさんが東京で食堂を営んでいたんですが、お客さんが南極に行った乗組員で南極の石をお店に置いていったらしいんですよ。それで、私にくれたんです。それが隕石に興味を持った始まりです」

この頃から、隕石には縁があったのかもしれないと小島さんは振り返ります。

小島さんが発見した月の隕石(第39次南極観測隊)。日本には9個しかないと言われている (写真提供:小島さん)

厳しい南極事情

長野高校卒業後は、秋田大学で地質学を専攻。大学院まで進み、卒業と同時に27歳で第20次南極隊に任命され、その時から南極の隕石調査に携わります。

小島さんによると、南極は夏でも気温がマイナス10度くらいで、体感温度はマイナス20度まで下がるといいます。そのうえ、標高は2000メートルもあり日差しは強く乾燥しており、雨は5~10年に1度降る程度で、表面は雪のみ。夏は24時間明るく、冬は太陽が出ないというように四季が極端だそうです。そんな厳しい環境に重ねて、基地での生活も労を強いられるものでした。

「初めての南極昭和基地は工事現場みたいでしたよ。まだ、今みたいに個室で暖房完備なんて感じじゃなかったですから。お風呂は週3日。基地を出たら、何か月もお風呂に入れないなんてことはざらにありましたよ。でも汗はかかないから、気にはならないんですがね。それに電話はないので、船舶通信の青焼きで日本の情報が入ってくるだけでした」

とても快適とはいえない状況のもと、4か月間にわたり、小島さんは毎日朝から夕方まで雪上車に誘導され、スノーモービルで移動しながら隕石を探します。そんな必死な捜索活動の結果、初めて南極で月の隕石が発見された瞬間に立ち会うことができます。

現在、日本で所有している17400個の隕石のほとんどは、火星と木星の間にある小惑星のかけらです。これまでに発見された月の石が9個、火星の石が12個という数字を聞きだけでも、その珍しさがうかがえます。

第39次南極隊でやまと山脈にむけて出発する雪上車とソリ3台(写真提供:小島さん)

「当時1グラム100万円の価値でしたから、相当なものでしたよ。今でも世界で100個しかありません。これは一生忘れませんね」

その後、第22次南極隊で基地に電話が入ると、3分間で5000円という破格にも関わらず、家族や恋人に連絡する隊員が殺到したといいます。

「16か月の越冬手当が100万円くらい。そのほとんどを、恋人との連絡に注ぎ込む隊員もいましたね」

南極隊員たちは厳しい冬だけでなく、恋人との遠距離恋愛も乗り越えてきたということでしょうか。

国立極地研究所に併設している南極・北極科学館では、南極昭和基地のリアルタイムの映像が見られる

まだ発見されていない隕石

小島さんは著書『南極で隕石を探す』のなかで、太陽系創成期の姿をジグソーパズル、隕石を1ピースに喩え、どれほど多くのピースがあるか分からないとした上で、「駒(見つけた隕石の数)を増やせば増やすほど、太陽系創成期の姿を鮮明に出来る。だから、こんなに多くの隕石を手にしてもさらに多くの隕石を集めたい」と生涯現役を目指しています。

小学生で隕石と出会い地球のルーツを探る旅に人生の全てを注いできた小島さんの次なる野望を聞きました。

「地球より内側の惑星の隕石を見つけることです。まだ、誰も発見していないので」

そう答え研究室に消えていく後ろ姿に男のロマンを感じました。

火星の隕石(左)は13、7キロもあり、なんと30億円の価値があるという。日本には12個しかないという超希少価値

(2015/01/23掲載)

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ホームページ http://www.nipr.ac.jp/outline/index.html
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