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No.171

市川

隆之さん

長野県埋蔵文化財センター主任調査研究員

過去と今をつなぐミステリーハンター

文・写真 Yuuki Niitsu

塩崎遺跡群

「昔の人が残した歴史のパズルを解く。これが魅力ではないでしょうか」

そう話すのは現在、長野市塩崎遺跡群で発掘調査を行っている市川隆之さんです。

塩崎遺跡群は、昭和20年代、多くの農家が桑畑からリンゴ畑へ転換した時に、たくさんの土器が出た場所であり、近く国道18号線のバイパスが出来る関係で、2013年4月より再発掘することになりました。

調査を進めるなかで、弥生時代中期から平安時代までの村とお墓があった場所と判明し、、これまでに多くの遺物が発見されています。

1800㎡の広さの遺構が道路を挟んで両側に広がり、50軒ほどの住居をはじめ、煮炊き用の器、種などを入れる壺、石器など、生活用品は600箱もの数にのぼり(2014年11月末時点)、スタッフや現地住民を含め、70人体制で日々、発掘に臨んでいます。市川さんはその責任者として、現地に立ちます。

「昔の人が使ったものに出会える。これが、遺跡発掘の醍醐味です」

発掘歴30年という大ベテランの市川さんの目が輝きます。

「男は収集癖があるんですよ。今の仕事は、その延長上かな」

照れながら話す市川さんの「収集癖」という言葉を聞き、やたらとファミリーレストランやコンビニにあるおしぼりをもらっては使わずに集めている私は、市川さんとは規模が違いすぎて、ただただ相槌を打つだけでした。

1800㎡の広さの遺跡に70人ほどで作業にあたる。今までに50軒ほどの竪穴式住居が見つかった

中学生からの夢

市川さんが今の仕事に携わるきっかけは中学生の頃にさかのぼります。

「近所に土器がたくさん出る畑があって、そこでよく探していたのが始まりですね」

この頃から、拾った土器の時代を調べたりしては楽しんでいたといいます。同時に化石集めもしていたという市川さんは、漠然とではありますが、歴史に携わる仕事に就きたいと考えるようになります。

その後、大学で上京し考古学を専攻。

「考古学は、物から歴史を探し出しその地域の特徴を調べていくんですが、当時は大学では講義が中心で、実習はほとんどありませんでした」

そのため、市川さんは先輩や知り合いを通して発掘作業をしたといいます。

「当時は朝8時30分から夕方5時まで作業して日当は3000円でした。お金はそんなによくなかったんですが、とにかく楽しかった」

そう当時を振り返る市川さんは、とある場所で作業の流れを学ぶと、以降は自分の興味のある場所へ発掘しに行くという日々を送ります。

作業の七つ道具。発掘場所は土の色から判断するため、表面を削る両刃ガマ(左端)が必要になる

卒業後の最初の現場で重要文化財が出土

大学卒業後に社会科の教員免許も取得していたという市川さんですが、長野県内の中央道の工事により発見された遺跡の発掘作業員の募集をたまたま目にして、再びハンター魂に火がつきます。

見事、調査研究員として採用された市川さんは、社会人初の発掘場所である塩尻の吉田川西遺跡で、のちに重要文化財に指定される緑釉陶器(りょくゆうとうき・平安時代の緑色のお椀とお皿)の発掘に立ち会います。

「私が直接、発掘したわけではないですが、社会人になって最初にすごいものが出てきて興奮したのを覚えています。こういう瞬間に立ち会えることがワクワクするし、その時にこの仕事は天職だと実感しました」

物静かな市川さんの感情が僅かに高ぶるのを感じました。

その後の、稲荷山駅近くの石川条里遺跡においては、大変な経験もしたといいます。

「古墳時代の腕輪など、貴重なものが大量に出てきたんですが、高速道路を作る関係で、期限が決まっていて、時間との闘いでした」

発掘された弥生時代の土器。既に600箱を超える遺物が見つかっている

掘れば掘るほど貴重なものが出てくるのに対して、タイムリミットは刻々と近づいてくるというひしひしとした状況のなか、なんとか作業を終えます。

「遺構の中に穴がたくさんあって、その中に数えきれないほどの土器があったんですが、どうしてこんな形状になったかわからなくて当時は驚きでしたね」

のちに、お祭りの跡という調査結果が出された石川条里遺跡は、大ベテランである市川さんの今でも忘れられないエピソードとして記憶に残ります。

両刃ガマを使い慎重に土を削っていく男性。地元の方の協力により歴史がまたひとつ明かされる

歴史は過去のものではない

24歳から遺跡調査に携わり、30年もの間、発掘をしてきた市川さんですが、その熱い思いは今もなお、燃え続けています。

「歴史は過去のものではないんです。現在にも活かさなければいけない」

そんな思いのもと、発掘とは別に個人でも研究を進めています。

「気候の移り変わりの中で、人間がどう生きてきたかを考えていきたいです。環境と人間。これは、未来の地球のためでもあります。遺跡は過去のものですが、現在、未来に活かせるものにするのが、私の目標です」

夕日が山に隠れようとする頃、作業終了となり、偉大な遺構がブルーシートに姿を覆われます。
この中に、地球の未来のヒントが眠っていると思うと、乗ってきたバイクを乗り捨てて、そのまま飛び込みたいと思わずにはいられませんでした。

白線で囲んだ黒い土は、穴の跡でこの下に何かが眠る。周りの黄色い部分がもともとの土の色

(2015/01/14掲載)

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