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No.150

伝田

正秀さん

読売日本交響楽団アシスタントコンサートマスター ヴァイオリニスト

ヴァイオリンの音色を無限に響かせ
味のあるハーモニーを奏でる

文・写真 Rumiko Miyairi

0歳から耳で感じたもの

「お客様に喜んでいただくためには、難しい曲を弾きこなすことよりも大切なことがある」

長野市出身のヴァイオリン奏者伝田正秀さん。2006年から仙台フィルハーモニー管弦楽団のヴァイオリン奏者としてオーケストラを束ねるコンサートマスターをし、また、2014年4月から読売日本交響楽団のアシスタントコンサートマスターとして活躍しています。

伝田さんは、両親がスズキ・メソードヴァイオリン教室の先生だったことで3歳からヴァイオリンを弾き始めました。

レッスンは、幼い伝田さんが、手ほどきをうけるお父さんの目線と同じ高さになるように、机の上に登り、まだまだ集中力が続かないからと一日何回にも分けてやりました。「いい音楽を奏でるためには、ただ弾くだけでなく素晴らしい演奏をたくさん聞いてこそ得られるもの」というお父さんのポリシーから、伝田さんの家では、部屋ごとにスピーカーが置かれて、どこに居ても曲が聴けるようになっていました。

「0歳から何気ない生活でも耳に入ってくる音を大事に考えてもらっていたんです。子どもが、母国語を自然に話し始めることと同じように、良い演奏をたくさん聴いて、自然に言葉のような表現が身に付くことにこだわっていました」

家じゅうに響いていたのはクラシック音楽。曲は、伝田さんのお父さんが厳選し味のある昔の巨匠が弾くものが中心でした。とはいえど伝田さん自身は、曲名も分からないままだったそうで、音楽にいつも触れていたという感覚だけが記憶に残っているそうです。

それが今、演奏家としての肥やしになっていると実感する伝田さん。

「レシピ(楽譜)通りに演奏することは誰でもできます。そこに、どんなテイストを入れるか、また、独自の味を作り出せるかが腕の見せどころになると思います。なので、幼少時代に、音楽の素晴らしい表現をたくさん聴かせてもらったことは、今とても役に立っていて助かっています」

オーケストラとソロを演奏する伝田さん[写真提供・伝田正秀さん]

これで食っていく、という自覚

幼いころから音楽を聴き、ヴァイオリンを弾いてきた伝田さんは、学生時代、全日本学生音楽コンクール全国大会では1位、日本クラシック音楽コンクール全国大会全部門ではグランプリを獲るなど、めきめきとその頭角を表しました。

「中学生までは、毎日の練習はしていましたが何も考えていませんでした。ですから、高校進学のときは長所を生かして音楽高校を選んだという程度だったんです。でも入ったら、これで食っていくんだという、ほかの人の必死な姿を見て気づかされました」

こうして高校時代、プロのヴァイオリニストを意識し奮起します。

負けたくないという気持ちも加わり、演奏家という自分の将来を描いたそうです。コンサートが開けるようになりたい、聴衆に喜ばれる演奏者になりたい、そのためになるいいものをどんどん取り入れよう、と意欲を燃やします。そしてモーツァルトもベートーヴェンも過ごしたオーストリア・ウィーンの街にあるウィーン国立音楽大学に留学し、さらにウィーン市立音楽院では室内楽(少人数で行う合奏音楽)を専攻するなど精力的に学びました。

「ウィーンは、建物の天井が高く石でできているので、どこで演奏しても気持ちよく響きました。その中で、たくさんの名曲が作られました。ですから、響きや余韻をうまく使った弾きかたがされていることが印象的でした。いろんな先生にも師事しました。レッスンは厳しかったのですが、私が求めているものに合っていたようで、無理なく素直に受けられました。多くの作曲家や演奏家が活動した魅力的なウィーンの街で生活し、たくさんのいい音楽に出会えることができて感謝しています」

この留学で、ウィーン伝統のスタイルと表現のニュアンスなどを多く学んだ伝田さんは、音楽の魅力と可能性の広さを大きく感じます。

「クラシック音楽は、数百年前から同じ曲を何万人もが弾くので、自分なりの工夫や考えが必要です。数百円から数十万円という歴然と価値に差がつくワインのように、演奏者の中で、いかにお客さんの感動を呼べるか、同じ楽譜から表現のどこに魅力があるかは、初めて聴かれる人でもその違いがすぐわかるかと思います」

伝田さんは音楽をさらに学ぼうとウィーンの大学に留学。ウィーンでの記念の一枚[写真提供・伝田正秀さん]

生き生きと演奏して、いいものを共有する

帰国した伝田さんは、ソロでコンサート活動を主軸に行いました。そして、2006年1月から仙台フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターに就任します。コンサートマスターは、指揮者と楽団員その双方の思いを仲介する仕事。演奏者の代表となって、指揮者へ質問や提案などをし、ときには演奏中に合図を出すこともある、いたって重要な役割です。

伝田さんは、すべての楽器の楽譜が載っているオーケストラスコアを入念に下調べしました。知らなかった曲が次々とくるので徹夜もざらになり、過労により救急車で運ばれたこともありました。

「コンサートマスターは、80人もの個性ある演奏家が集まってひとつの大きな表現をすることになるので、良い演奏会にすることがソロを弾くことよりも数十倍難しく感じました。ソロ演奏は軽自動車を運転するような感覚だとすれば、オーケストラは大型トラックに乗っているような状況といいましょうか。小回りがきかないので苦労があります。ですから、演奏がうまくいって大きなうねりや波がでたときは、感動と喜びを感じます」

2014年4月、読売日本交響楽団のアシスタントコンサートマスターに就任した伝田さん。
メンバーの皆さんそれぞれが、すごく上手くて、生き生きとしているのでやりがいを感じています。そして、よりよいプレーヤーになっていきたいと、さらに学ぼうとしています。ヴァイオリン奏者として常に情熱を傾ける伝田さんは、ヴァイオリンへの思いも込めてこう語ります。

「オーケストラというのは音楽を楽しむ幅を広げてくれます。こんな素晴らしい環境なので、感謝をしながら曲との出会いを大切に勉強していきたいです。自分にとってヴァイオリンは、言葉よりもしゃべりやすいツールに感じるので、今までの経験から表現の幅をたくさん広げて、お客さんといいものを共有できるという喜びも味わっていきたいです」

取材の最後は、写真撮影のためヴァイオリンを手にとってもらいました。そのときのほころんだ表情が、それを語っているかのようで、自由に表現できるヴァイオリンは、伝田さんにとってなによりも信頼がおける仲間のように見えました。

0歳から五感で感じ、そしてその仲間と育った伝田さんの音色は、多くの人に感動をあたえてくれるでしょう。

2014年夏、伝田さんが講師を務めるヴァイオリン教室が長野駅前にオープンしました。

以前からある東京教室には、子どもから大人、初心者から音大生までさまざまな人が音楽を楽しむ場として集まっています。

「教室では、友達感覚で音楽が楽しめることを願っています。それから、ヴァイオリンにしか出すことのできないさまざまな音色、あるいは響きの広がりを名曲とともに楽しんで頂ければ嬉しいです」

伝田さんの相棒といえる愛用のヴァイオリン。伝田さんによると1800年代初期のイギリス製のもの

ヴァイオリン教室は東京と長野の2教室。伝田さんの素敵なメロディが間近で聴けるチャンスかも!

(2014/12/08掲載)

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会える場所 伝田正秀ヴァイオリン教室@東京・長野

電話 080-3390-3944
ホームページ http://www.dendamasahide.com/

東京教室 東京都荒川区西日暮里1-4-3
長野教室 長野県長野市南長野南石堂町1971

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