No.148
滝澤
善五郎さん
松葉屋家具店7代目店主/くらし道具学研究所
100年単位で長く使える物を生み出す
文・写真 Takashi Anzai
80年以上前に自社で制作したテーブルを修理する
歳を重ねるごとに、流行から距離を置き、長く使える物を愛でるようになる人は多いのではないでしょうか。今回ご紹介するのは、「100年使える家具」を提唱し、自然素材の木製家具を作り続けている、松葉屋家具店の店主・滝澤善五郎さんです。
滝澤さんは先日、80年以上前に松葉屋で制作したテーブルを再び自社で修理し、命を吹き込んでお客さんの元へ返したといいます。100年を謳う制作者やメーカーは数多くありますが、実際に100年以上の長い歴史を持つ松葉屋だからこそできたサービスでしょう。創業から約180年を数え、滝澤さんは7代目にあたります。
長く使える物の価値について滝澤さんはこう語ります。
「今は買ったときが100%で、あとは価値が下がっていく物がほとんど。価値が上がっていく物はほとんどありません。しかし、陳腐化しないで100年経っても価値が変わらない、それどころか価値が上がる物、それはまがい物にはないことで、そうした物に人は惹かれると思っています」
宝石の原石にたとえて「磨き上げていきたい」という店内。建物は築150年を数える
なぜ人は無垢材に惹かれるか
現在、松葉屋家具店で扱う木製家具は日本の山で育った国内産の無垢材を使用しています。常に深い意味で、なぜ人が無垢材に惹かれるかを考えているという滝澤さん。
「お客様には逆説的に話します。どういう物があるべき物なのかを考えていかないと、単にイメージがいいだけでは消耗品と同じです」
「単純でない物には何らかの妥協が入ってきます。量産するために必要になる妥協もあります。それと、身体によくないかどうか判断がつかない物ってたくさんありますよね。接着剤も体によくないかどうか分からない。法律的には許されていても、分からないなら使わない方がいい。そう考えると、日本の山で育った無垢の一枚板というのは安心できます。自然な素材であるということは、完全にイコールではないけれども、やはり体や環境に負担がかかりません」
一方で、滝澤さんは無垢材に対して悪い意味でのこだわりは持っていないといいます。
「もっといろいろな素材を育ててみたいという気持ちはありますね。鉄でもアルミでも、プラスチックでも。そういう物を組み合わせて物を作っていきたい。物にはそれぞれ本質があって、無垢の木にはその特長があり、鉄には鉄の、プラスチックにはプラスチックの生み出された意味があります。そして、それぞれに合わせた表現の方法、技術があります」
滝澤さんは武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科の出身。周りには自動車などの工業デザインを専門とする人もいれば、インテリアやクラフトデザインを専門とする人もいて、そうした環境も影響があったようです。
「ベニヤにはベニヤの生まれてきた意味があります。何かの代用品だから認められないわけで、それを生かすのは人間の意図する能力、デザインする能力によります。ベニヤは見る角度によっては最新技術で、反ったり割れたりするのを防ぐため、先人たちが試行錯誤してつくった物。今後はそういうテーマも続編としてやっていこうとは思っています」
年月が経てば経つほど価値が上がることは、まがい物にはないと滝澤さんは話す
「本物」を長く使ってほしい
まがい物ではない、「本物」を長く使ってほしいというメッセージ性を持って、滝澤さんが扱っている家具の一つに学習机があります。無垢材を用いて、余分な機能や装飾を排除したシンプルな机をつくっています。
「長く使えるという価値がはっきり分かるのは学習机ではないかと思っています。学習机というものは非常に不幸な家具で、小学校から高校までの短い間で陳腐化して、あっという間に邪魔者扱いされるという存在です。学習机を通して、30代の若いお父さんお母さんの世代に、子どもと一緒に物の価値を話し合うきっかけにしてほしい。きっかけになるだけで意味があります」
滝澤さんが同じメッセージを込めて販売しているもう一つの家具がギャッベです。ギャッベはイランの遊牧民・カシュガイ族がつくる手織りの絨毯。ギャッベの最高峰といわれるゾランヴァリ社から輸入、販売をしています。
滝澤さんはギャッベに出会うまで、絨毯は汚れたら捨てる消耗品だということで扱ってこなかったといいます。ところがギャッベは違いました。
「自然素材で、全部手仕事でやっています。しかも素晴らしい工芸品と言っていい美しさ。現地では土足で使っていますが、100年使って当たり前。日本の物づくりはそこまで徹底できているかと言ったら、ほとんどできていない。松葉屋の家具の進むべき道を指し示してくれている気がしました」
自分たちで羊を追い、育てて、毛を駆って、洗って、染めて、それを手で紡いで織って、すべてが完結する仕組み。それに近い物づくりを松葉屋でも目指していきたいと思っているそうです。
そして店づくりに関しては希望を込めてこう語ります。
「宝石の原石を磨き上げるように、お店を磨き上げたいですね。どんな人が来ても『来てよかったな』と思って、鳥肌が立っちゃうような、そんなお店にしていきたいです。目の前にある物を磨き上げていきたい。このまま大量消費の世の中が続くとは思えませんから、僕らのような小さな家具屋でしかできないことをお伝えしていきたいと考えています」
頭の片隅に置いてはいるものの、おざなりにされがちな「物を大事にする心」。私に限らないことだと思います。しかし、漠然としていたその大切な心が、滝澤さんの言葉によってくっきりと意味を帯びた気がしました。
つくる過程が店と同じ方向を指し示しているというギャッベ。約500枚が並んでいる
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