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No.135

東浦

さん

粉カフェ味彩家

熱い鉄板で厚いお好み焼きを
アツイご主人が提供

文・写真 Yuuki Niitsu

脱サラ後の決意

「毎度おおきに!またお願いします!」

活気のある声が店内に響き渡ります。この声の主はお好み焼き店、味彩家のご主人東浦治さんです。
東浦さんは今年5月に行われた、お好み焼き用ソースで有名な「オタフクソース」主催のコンテストにおいて、アイデアメニューコンテストの部門で6位に入賞。北信越地方としては初入賞という快挙を果たしました。

東浦さんの生まれは奈良県。その後、中学生になって大阪に引っ越します。食品関係の商社マンとして就職してからは55歳で退職するまで大阪で暮らしてきました。全国を歩き回る出張族でしたが、時間を作っては旅先での登山を楽しんできたといいます。

「信州の山もほとんど登りましたね。やはり自然が一番の魅力。それでうちの嫁さんが長野市出身ということもあって、退職したら長野市に移住しようと考えていました。でも私の年代になって会社勤めは無理だとはわかっていたので、自分で商売をするしかないなと。そしたら、やっぱりお好み焼きが頭に浮かびました」

そう話す東浦さんは、これこそ本場のお好み焼き!とばかりに熱く語ります。

「大阪といえば住宅街にお好み焼き屋があって、近所の子が『おっちゃん、お腹すいたわ。お好み焼きある?』って気軽に入ってくるんです。それに漫画を読みながら鉄板にのせたままのお好み焼きをテコ(コテ、ヘラ)で食べる。箸もお皿もいらないんです。出すのは水だけ。これが大阪!」

国道沿いにあるが店に入ると静かで清潔な空間が広がる。月に一度ご主人がワックスをかける床はピッカピカ

子どもの頃からお好み焼きに親しんできた東浦さんですが、お店を出すにあたりある決意をします。

「確かにお好み焼きは死ぬほど食べてきましたけど、だからって商売ができるわけじゃないんです。お客さんに提供するのに家庭の味ではダメだと思いました」

そこで東浦さんは、退職後にお好み焼き屋の専門学校に通います。
講師は現役のお好み焼き屋さんの店主が務め、店を出店するために必要な技術(素材の切り方、焼き方、ソース・粉の調合)や経営学を10日間、朝から晩までみっちり学んだといいます。

「初日はキャベツ切りのみ。ひたすら切っているだけです。食品関係の会社にいたので普通の人よりは包丁慣れはしていましたが、それでも一日中ひたすら切るという作業は想像を超えて大変でした。それに焼き方も厳しく指導されましたね。鉄板の温度や気候によっても焼け具合が全然違うんです」

東浦さん曰く夏は2分40秒、冬は3分30秒がベストな焼き時間だといいます。

「まぁいろいろ試してきましたが、結局は音と目の感覚で焼くんです」

そう東浦さんは教えてくれました。

関西では1セットの焼きそばとお好み焼き。余分な油のない焼きそばは柔らかくおすすめ!

初出店後の不運を乗り越えての新たな挑戦

東浦さんは11年前に長野市青木島で初出店します。

「大阪みたいに住宅地のなかということで、それが気に入って決めました」

お好み焼きのみの専門店としてはじめ、徐々に評判が広まりその後9年間繁盛したといいます。
しかし、お店が立ち退かなければならない不運に見舞われます。

「多くのお客さんに来てもらっていたから、ショックでしたね。それで、一度は商売やめようかと思ったんですけどね」

しかしそんな時に、大阪で何度も聞いてきたあるセリフが自身の耳に入ります。

「『おっちゃん、お腹すいた。お好み焼き食べたいわ。また店やってよ』っていうお客さんがいっぱいいたんです」

この言葉で再びお店を出す決意をします。
そして2年前、安茂里に新たなお店を構えました。

山芋を「入れる」のではなく「のせる」。この斬新な発想がコンテストで結果を残した

斬新な発想で快挙を果たす

今年5月、東浦さんはお好み焼きのコンテストに出場します。
全国5会場でコンテストが開かれ、参加者は自身のお好み焼きを写真で出品します。審査するのは同業者で、その同業者が自分で作ってみたいメニューに投票するというシステムです。
そこで東浦さんのお好み焼きはアイデアメニューコンテストの部門で428票獲得、6位に入賞し北信越地方では初入賞ということで注目されることになります。

「やはりこの賞を取ってからはマスコミの方も来てくれたり口コミで広がったりですごい注文が出るんです」

そう話す東浦さんの自慢の作品は「豚玉の山芋かけお好み焼き」です。

「コンテストにエントリーするときに地産地消の観点からいろいろ考えた結果、山芋にしようと思ったんです」

お好み焼きに山芋を入れるのではなく、のせるとはさすが関西人、発想が違います。

「山芋の白が目立って選ばれたんでしょう」と本人はいたって謙虚に話してくれました。

これぞ、ふわふわ感が命という東浦さんのお好み焼き!ケーキのような柔らかさとふんわり感がある

ふわふわ感が命

子供の頃から食卓にはお好み焼きがあるという環境で育ち、商売として初めて11年。お好み焼きとは切っても切れない関係の東浦さんですが、そんなご主人だからこそ徹底したポリシーを持っています。

「私が思うにお好み焼きはふわふわ感が命」

そう東浦さんは断言します。そのため、お好み焼きは一度裏返しにして戻すだけだそうです。

「何回もひっくり返したり生地を叩いたりすると、せっかく中に入った空気が逃げてしまうんですよ」

そのためお店では、必ず東浦さんが自らお好み焼きを焼きます。

「せっかくなら温かくてふわふわした美味しいお好み焼きを食べてほしいんです」とサービスを惜しみません。

そして店内で提供する水も戸隠や栄村まで足を運んで汲んできているそうです。

「一回に軽トラックで20リットルのタンク20本分汲んできますよ。冬場は雪で通れないから和田峠に行きますわ」と話す東浦さんからは何でも楽しんでやるという姿勢がうかがえます。

最後に今後挑戦したいメニューを聞いてみました。

「田楽みそと丸なすを重ねてミルフィーユのようにするんですけど、これが美味で。来年のコンテストにも挑戦したいと思ってます」

次回はさらに上位への入賞を目指しているといいます。

豚肉などは余分な脂が入ってしまうため具の中に混ぜない。必ず上にのせている

お好み焼きに馴染みの薄い信州では、一人だと入りにくいためか、店の外から覗いて帰ってしまう人もいるそうで、そんな状況を東浦さんは残念がっています。

「一人でも大歓迎!とにかくお店に入らないと始まらない。美味しいで~、一回食べてみて!」

最後まで力強い言葉の東浦さん、そして関西人ならではのサービス精神。原色が大好きとのことで、普段お店では赤のポロシャツにジーンズという、今年66歳とは思えないほどの若々しいスタイルでお客さんを迎えます。
冬でも薄いジャンパーをはおるくらいで、奥様に「恥ずかしいからもう少し厚着して」と怒られるほどですが、「だって冬もそんなに寒ないやん」とどこ吹く風。

鉄板よりもアツい東浦さんが皆さんをもてなしてくれます!

(2014/11/14掲載)

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会える場所 粉カフェ 味彩家
長野市安茂里1773-1
電話 026-226-2270

【営業】10:00~21:00
【休み】水曜

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