No.121
近藤
克則さん
カメラマン
カメラマンとしての喜びを胸に
人生の輝きを写す
文・写真 Chieko Iwashima
脳卒中を乗り越え、カメラマンとして復活
脳卒中による左半身まひの後遺症を持ちながら、11年ぶりにカメラマンとして本格的に復帰した近藤克則さん。
6月から始まった、長野市上松のイベント企画会社「オフィスKOBA」がプロデュースする「輝け!長野発 笑顔と心の解放プロジェクト」で “最高の笑顔のポートレイト”を撮影しています。
この仕事の発端は、近藤さんがオフィスKOBAの代表・小林美彦さんの奥さんのポートレイトを撮影したこと。小林さんも近藤さんと同じ病気でまひの後遺症があります。近藤さんの写真に感動した小林さんは、「まひがあってもこんなにいい仕事ができることを証明したい、そして仕事、家事、子育てや介護など日々の忙しさに追われている女性にこそ、今一番輝いている自分を知ってもらいたい」という思いでこのプロジェクトを企画。ヘアメイクは長野市吉田の美容室「sora.HAIR MAKE」が協力しています。
「照明をきれいに当てて撮影するなんて、結婚式以来という人も多いのではないかと思います。お客さんがカメラの前で主役になる瞬間の喜びを、こちらもダイレクトに感じることができてうれしいです。やりがいがありますね」
近藤さんが撮影した写真を見せてもらうと、そこには重ねた年齢の分だけ魅力を増した笑顔がありました。こんなふうに写真に残してもらえたら、一生の宝物になるのではないかと思います。
今年6月から本格的に仕事復帰。片手で器用に撮影する(写真:オフィスKOBA)
近藤さんが撮影した写真。撮ってもらった人たちは「もっと頑張ろう」と前向きな気持ちになるという(写真:オフィスKOBA)
サラリーマンからカメラマンへの転身
高校を卒業後、コンピューター関連の会社に就職した近藤さん。しかし、子どものころから憧れていた服飾業界への思いを捨てきれず、5年間勤めた会社を辞めて服飾関係の専門学校に入学しました。そこではファッションデザインを学び、卒業後は都内の写真スタジオに入社しました。
「ファッション雑誌を良く見ていた影響で、撮影で服に関わる道を選びました。未経験でいきなり写真の世界に入ったので、見るもの触るもの全部が初めてで毎日覚えることばかり。雑誌やカタログ、タレントの撮影…。毎日が刺激的で、とても充実していました」
その後、広告会社にカメラマンとして勤め、『mc Sister』や『25ans(ヴァンサンカン)』など人気のファッション雑誌の撮影にも携わりました。
「景気が良かったので、撮影のために海外へ行ったこともありました。でも、だんだん業績が悪化して、会社をたたむことになったんです」
それを区切りに、長野へ戻った近藤さん。人脈がないところからの再スタートは簡単なものではありませんでしたが、2001年には人形作家・高橋まゆみさん(ナガラボNo.99で紹介)の処女作品集の出版に携わるなど、次第に軌道に乗っていきました。
東京でのスタジオマン時代の近藤さん
脳卒中を発症
2003年、住宅情報誌の立ち上げメンバーとして活動していたある日のことでした。朝、仕事へ行く準備を済ませた近藤さんは、ちょっと横になった途端、力が抜けて気を失ってしまいます。脳卒中でした。約3時間後、約束の時間になっても来ない近藤さんを心配した仕事先の人の電話で目を覚ましました。
「体が言うことを利きませんでした。でも、なんとか電話に出て話せて、救急車を呼んでもらったんです。ちょうど仕事の予定があって電話をもらえたことや携帯電話が手の届くところにあったことなど、いくつかの偶然が重なって助かったと思います。不思議ですよね」
左半身にまひの後遺症が残った近藤さん。長い入院生活を経て、リハビリセンターに通うようになると、片手で機材を扱い、写真を撮り始めるようになります。
「そのときはまだ仕事という段階までは考えられなかったんですが、リハビリに励むうちにだんだん意欲が湧いてきました。人に紹介してもらって飲食店のメニューを撮らせてもらったり、少しずつ撮影するようになりました」
そして、リハビリ友の会で自分と同じ後遺症を持つ小林さんと知り合い、現在のプロジェクトへとつながっていきます。
10月上旬に中央病院祭で行われた写真展。11月1日の下駒沢の県立総合リハビリテーションセンターのセンター祭でも写真展が行われる
人に喜んでもらうことが自分の喜び
「写真を撮るのはすごく楽しいです。しかも、喜んでもらえるわけですから最高です。私は、商人の家で育ったので人に喜んでもらってなんぼっていう感じなんです」
そう話す近藤さん。実は、料金をもらうのが苦手で、ほとんどボランティアのような値段で撮影することも少なくないといいます。
「実家は権堂で、昔は餅屋を経営していました。子どもの頃に店番をしていたときも、親に内緒で勝手に1個おまけしたりとかしていましたね(笑)。満足してもらえたらそれでいいって思っちゃうから、儲けることが不得意なんです。そればかりじゃいけないなと思っているんですが」
権堂という繁華街で育ったこともあってか、まちの人と話すことが好き。今もリハビリを兼ねてまちのなかを歩き、人と触れ合うことが楽しみだといいます。
「普段の生活が全部リハビリです。引きこもってしまうと歩けなくなるし、話せなくなるので、そうならないように気をつけています。周りに引きこもってしまいそうな人がいたら外に引っ張り出すようにしますね。たまに強引すぎるって言われることもあります(笑)。一人ひとりがまちの景色を作っていると思うので、障がいをもっている人も、もっと外に出たほうがいいと思います」
そんな思いもあって、障がい者仲間と一緒にバリアフリーの飲食店をまとめたマップを製作したり、長野市から無料で借りられるリフト付きバスを利用して県内各所への日帰り旅行を実施したりもしています。
「人と人がつながると、できることが増えて素晴らしいと思います。体が不自由だから、自分のできることは人の半分くらいですが、人と人をつなぐことはできるので、いい人同士を結び付けたい。そんな広がりを作っていきたいですね。私の周りには素晴らしい方がいっぱいいるんです」
そう話す近藤さんの表情は、こちらのほうが思わずシャッターを押したくなるような素敵な笑顔でした。
近藤さんが参加しているリハビリの太鼓サークル「元気太鼓クラブ」。10月26日にビッグハットで開催される「ハピスポ広場」でも演奏
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会える場所 | 近藤克則写真事務所 長野市権堂町2210‐16 電話 090‐2481‐1999 e-mail himataka1@yahoo.co.jp オフィスKOBA |
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