No.090
こばやし
みえこさん
らくや/ 古布作家
古布で世界に一つだけの服を作る
文・写真 Yuuki Niitsu
衝撃的な古布との出会い
「今から12年前に友人に誘われて杉浦和子さんという衣服作家さんの展示会に行ったのですが、全部古い布から服が作られているんです。それも100年も前の布からですよ。それはもう衝撃というかある種のショックを受けました。こんなすごい人が世の中にいるんだって」
こう話すのは、長野市で古布からバック・小物・衣服までを手掛ける、らくやの店主こばやしみえこさんです。それまではディナーショーなどの舞台を手掛けていたこともあり、ものを作るということは好きだったというこばやしさん。
この杉浦さんとの衝撃的な出会いから自身も同じ道を志そうと決意し、今から10年前に出店。まずは小物やバックを作り始め、その2年後に独学で衣服製作の道に進みます。
一点ものとの出会いを求めて
「とにかく素材を集めるのが大変ですね。これも出会いですから新潟、群馬、埼玉と色んなセリ場に足を運びます」
と自分の納得する素材に出会うまで妥協はしないといいます。
こばやしさんが使う素材は明治時代以降のもので、普段着に始まり布団生地、大漁旗、奉納旗、馬の腹掛け、消防士の法被、柔道着、剣道着、お節句ののぼり旗、醤油袋など実に様々。
驚いたのは醤油袋から作った手提げ袋。100年以上前の醤油の色に染まった布がそのまま素材として使われているんです。それを手に持った時の気持ちは言葉に表せないほどの興奮が走ります。
「とにかく生活感のある木綿から衣服を作る。大正時代に消防士が着ていた法被から作った服なんて誰も着ていないでしょ。こういうのを作るのがワクワクするのよ」
と胸の内を語ります。
こうした希少価値を求めて全国からこばやしさんの作品を求めに来るファンも多いそうです。
「すごく嬉しかったのはアメリカに旅行に行く方が、旅先で私の服を着たいからってわざわざ買いに来てくれたんですよ。私の作品、そして日本の文化をお客さんが海外でアピールしてくれるのはありがたいです」
100年近く前の消防士の法被から作ったという服。まさに一点ものである
女性の生き様を伝えたい
こばやしさんが素材を木綿にこだわるのには、理由があります。
「絹は素材が弱いし、お祝い事に着る晴れ着として使用されてきたんです。それに対して木綿はしっかりしていて、布団や普段着に使用されてきました。だから、木綿には昔の女性たちの家族への愛情や生き様が込められているんです。そういう女性たちの魂を現代に伝えたい。その中間にいるのが私なんです」
そんな強い思いから今年の1月1日にある決意をします。
「今までミシンで製作していましたが、手縫いにしました。だって昔の人は、綿つみから製作、染め、機織りまで全部手作業でしたから、私がミシンでやっていたら申し訳ない」
と身も心も古布に捧げるこばやしさん。
最近では同年代だけでなく20代の女性からの支持もあるといいます。
「私の作品は継ぎはぎも当然あるんです。昔の方は継ぎはぎに対して貧しいとか、辛いというイメージしかないんですが、逆に最近の若者はそれを一つのデザインとして受け入れてくれるんですよ」
取材当日は軽井沢で行われていたギャラリーに伺いましたが、若いカップルや東京からの御夫人もいらっしゃいました。その御夫人、作品を見るなり「これは、すごい。どこにもないわ」と一瞬で釘づけになっていました。
全て手縫いのため時間はかかるが、そのぶん魂と愛情は人一倍吹き込まれている
こばやしさんの作品は全て木綿や麻を使用している。取材当日は軽井沢でギャラリーを開いていた
その姿を見るなり
「わかる人にはわかってもらえる。私にしか作れないものを作る。これが私の使命なの」
と、こばやしさんは口ずさんでいました。
世代や時代を超えて愛される、こばやしさんの作品は話題となり、海を渡ることとなります。
「昨年パリで行われたエキスポジャパンという博覧会に、私の作品が招待されることになり『ワビサビ』ブースに展示してもらったんです。当日は行けませんでしたが、後日その様子を写真で見て海外で自分の作品が受け入れられているという不思議な気持ちになりました」
と驚きを隠せなかったといいます。
「今後も健康な身体で生涯現役で針仕事を続けたい」
と、こばやしさんは抱負を語ります。
「先人たちの手を経て、長い時を経て私のところに届いた布たちに感謝と畏敬の念と愛おしさを感じます。作品を作り、またご縁のある人の所へ旅立つ布・・・・・・・。布に感謝。人に感謝です」
という彼女の最後の言葉がとても印象的でした。
こちらは大正時代の醤油袋を使用したバッグ。醤油顔の人に持ってもらいたい逸品
柔道着・剣道着から作ったというハンチング。こばやしさんによってどんどん常識が覆される
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