No.033
長峯
亘さん
演劇ユニットthee 脚本家・演出家
シチュエーションの妙で引きこまれ
ゲラゲラ笑って最後に膝を打つトラジコメディ
文・写真 Takashi Anzai
2年前の2012年12月、演劇ユニット「thee」(シー)の第1回公演を見ました。
衝撃でした。
シチュエーションだけでまず笑わされました。
嘘つき、まじめ、忘れっぽいという3人の娼婦。その3人、客を取るのが面倒で働きもせず、面倒な食べ物と邪魔な傘を軸に面倒な会話を繰り広げ、暇つぶしがどんどんエスカレートしていきます。
「面倒な女たちの面倒コメディ」。
面倒な会話でゲラゲラ笑い、オチでは膝を打ち、それまでの伏線に気付かされるという満腹感。
これがtheeの脚本家で演出家の長峯亘さんのデビュー作でした。
編集部・安斎はその後、全公演を欠かさず見に行っています。
これまでの会場である権堂のネオンホールは毎回、満席でした。
theeの公演は2014年7月5日(土)、6日(日)の「ハンバーガーヘブン」で第5回を迎えます。
「世界に打って出るとか、東京に打って出る、そのために頑張るという変な情熱が好きじゃなくて、この辺にいて歩いて会いに行けるような人たちがゲラゲラ笑っていることの方がよっぽど幸せだと思っています」
長峯さんはそう話します。
はい。その辺にいるような私は第2回以降もゲラゲラ笑いました。
毎回、ゲラゲラ笑ってはいるものの、長峯さんの作品は単純なコメディではありません。トラジコメディ(悲喜劇)です。第2回公演「ダバダ」は売れない芸人の楽屋を舞台とし、初の単独公演となった「WORLD END SPAGHETTI SAUCE」では昔の仲間と雀荘に入り浸る面々を描きました。
「世の中的には底辺だけど、居心地がいいからおれたちはここにいる、という人たちを描いているつもりです。雀荘の居心地がいいからずっといるとか、売れない娼婦だけど3人でいるのがいいというふうに。羨ましくはないけれど、そういう人が愛おしいんですよね」
長峯さんはそう言って、いたずらっぽく笑います。
ストーリーやシチュエーションの妙はtheeの分かりやすい魅力ですが、キャラクターが立っている役者に「浮くことがない」セリフを乗せてくるのも、観る人を引きこむ一つの要素だと思っています。それは、役者との双方向でやり取りして出来上がっていくものだそうです。
「稽古の中で役者さんからとっさに出た言葉を脚本に戻すようなことをしています。役者の皆さんが『あ、そういうのやってもいいんだな』と思って遊び始めるタイミングがあるんですよ。誰か遊び始めたら、やっと脚本が出来ます。遊んでいる言葉を脚本に返して、『何行目のセリフをやめて、さっき言っていたあれにしましょう』とか。最初に書いた本と最終的にできた本が結構変わっていたりしますよ。それを味わっちゃうと、芝居をつくることが面白くて」
一言一句、間違いを許さず、稽古が始まる前に脚本を頭に入れておくことを強いる演出家、脚本家が少なくないということですが、長峯さんは役者が口にしやすいセリフを大事にして作りこんでいきます。
「僕の頭の中だけで考えていることなんて、字面としては面白かったとしても、口に出して言ってみたら全然面白くないことだっていっぱいありますから」
公演の質のみならず、そうした稽古の過程もあって、theeで演じたいという役者が増えてきているといいます。
稽古風景。年齢も立場も関係なく、よい芝居をつくるために何でも言い合える環境を長峯さんは「とても恵まれている」と話す (写真:thee提供)
元々、演劇を観るのは好きだったけれど、つくる方にはほとんど関わりがなかったという長峯さん。38歳にして初めて戯曲を書き、同時に演出も担当します。東京のスポーツ専門放送局で番組の構成台本やテレビ演出を経験してはいたものの、まるで勝手が違う世界に踏み入れたときのことをこう振り返ります。
「東京にいたころ、演劇ってハードルが高いと思っていたんです。人を集めて、稽古を重ねて、会場を借りて。でも長野のこの辺で演劇にかかわっている人たちに『やってみたいと思っているんですよ』って言ってみたら、あっさり『やればいいじゃない』と言われて。そのノリにびっくりしましたね(笑)」
そして、初回から4回目までの公演を行ってきたネオンホールの存在も大きかったといいます。
「演劇や音楽を発表する場が身近にあるということはすごくありがたい。若い人がああいう場所を仕切っていて、(演劇や音楽を)やりたいと言ったら、すぐに『いいですよ』と言ってもらえる環境があるってことは、すごく恵まれていると思います」
第5回「ハンバーガーヘブン」は、これまでのネオンホールよりかなりキャパシティが大きく、舞台も広いアゲインホールで上演することになりました。
狭さを利用した笑いもあったネオンホールとは、また違った脚本、演出が見られそうです。
第5回の「ハンバーガーヘブン」は、人の生き死にについて結構エグい描き方をしているという
これまでの公演では、長峯さんが予告で書く謎めいたあらすじが、オチまで続く最初の伏線になっていて、最後まで見て「なるほど、そういうことだったか」と感心しながら再びあらすじを読み返すことになりました。
「ハンバーガーヘブン」のあらすじは以下のとおりです。読み込んだ上で劇場へ行くことをおすすめします。
人望は厚いがぼちぼち死ぬらしい、ひとりのヤクザ。彼の号令により、さもないガレージに集められた、さもない暴力団組織の皆さん。組織のボスを暗殺すべく、雑を極める殺人計画。ハンバーガー食っていざ殺し合い、騙し合い。寄せては返す欺瞞の波。
とりあえず、お憎たっぷりのハンバーガーでも齧ろうか。
齧れば齧るほど憎たらしい、空腹トラジコメディ。
彼らのハッピーセットとは、一体。
I’m hatin’ It.
役者からとっさに出た一言を脚本に戻してつくりあげていく
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会える場所 | 「ハンバーガーヘブン」 電話 ホームページ http://thee.cc/hamburger ▼7月5日(土) |
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