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No.81

喫茶ランプのアップルパイとコーヒー

シンガー宮川もとみさんのマイ・フェイバリットナガノ

バターたっぷりのパイ生地が、黄金色に煮込まれたリンゴを包み込む。サクサクとろ~り。温かくて、やさしくて、ほっとする。

文・写真 南千歳

バターたっぷりのパイ生地が、黄金色に煮込まれたリンゴを包み込む。サクサクとろ~り。温かくて、やさしくて、ほっとする。
そんなアップルパイがあるなら、食べてみたくなりますよね。さらに、薫り高いマイルドコーヒーがあれば、文句はないでしょう。
 
ここは、標高1,200メートル。かの有名な戸隠神社のお膝元。
そんな夢をかなえてくれる一軒の喫茶店がありました。
 

暖炉の季節の定番スイーツ


 
そのお店の名は、喫茶ランプ。昔から知っているという方も、最近テレビに出ているのを見て知ったという方も多いかもしれません。
2019年には創業40年を迎えるという老舗。山小屋風の落ち着いた空間で、一年中おいしいコーヒーとケーキを楽しむことができます。
 
長野市内のりんご畑で紅玉が収穫される10月中旬ごろから期間限定で提供される人気スイーツが、アップルパイ。ランプのアップルパイは、注文を受けてから焼き上げます。10分程の待ち時間には、店内の本棚に並ぶたくさんの絵本や詩集をめくるのもおすすめ。
後でご紹介しますが、ランプの本棚には、日本を代表する詩人・谷川俊太郎さんが選んだ100冊の詩集と絵本作家・くさのだいすけさんが選んだ200冊の絵本が並んでいるんです。
 

 
本棚をのぞいているうちに、コーヒーの香りが漂い始めました。席に着くと、焼きたてほやほやのアップルパイがやって来ました。「はやくわたしを食べて」と言わんばかりのつややかなあめ色。サクサクのパイ生地から、とろ〜りと顔を覗かせたのは黄金色。
じっくりと煮込まれたリンゴのやさしい甘みと爽やかな酸味が口の中いっぱいにとろけます。コーヒーとの相性は、想像以上!アップルパイがコーヒーのおいしさが引き立てているようにも感じました。
 

 
もともと、秋冬限定のケーキとして出されていたアップルパイ。数年前に戸隠観光協会の冬の食べ歩きキャンペーン「おら家の逸品」として売り出してからは、スタンプを集めて食べに来るお客さんも増えたそう。戸隠のお隣、芋井地区などのリンゴを使って、膨大な量のフィリングを仕込みますが、2月初めには品切れになるほどの人気です。
 
「うちのアップルパイなら、旅館に泊まらなくても食べられるし、おそばを食べた後でも、誰でも気軽に食べられるでしょう。」
 
そう教えてくださったのは、柔和な笑顔と頭に巻いたバンダナがトレードマークの高橋博文さんです。
 

 
▲高橋博文(右)さんと娘さんの三貴子さん(左)
 

一杯のコーヒーを大事に。

「戸隠でのんびりできるお店を作りたい。自分たちで作ったものを提供して、お客さんに喜んでもらいたい。」
 
そんな思いを込めてランプを開業したのは、高橋さんが31歳の時でした。中社の表通りでお土産屋を営む家に生まれた高橋さん。中学卒業後、信州中野にある珈琲とお茶の問屋に住み込みで働きながら、4年間夜学に通いました。勉学の傍ら、コーヒー豆の知識や焙煎の仕方、淹れ方を実践を通して身に付け、コーヒーや紅茶の味を見極めることを鍛えられたと振り返ります。その後、高橋さんが実家に戻った頃、戸隠ではバードラインが開通し、観光客が爆発的に増え、好景気に湧いた時代でした。
 

 
「お土産でもお菓子でも、どこか別の場所で作ったものに「戸隠みやげ」とシールを貼っただけで売れていく。だけど、戸隠で作っているものといえば、そばと竹細工と、おまんじゅうと落雁ぐらい。それだけじゃ商売にならないから、他のものも並べなければいけないのは仕方ないけど、僕はたまらなく嫌だったんです。やっぱり自分のうちで作ったものをお客様に提供したいと思いました。」
 
満を持して、1979年に喫茶ランプを開店した高橋さん。ケーキは、奥様の公三子さんが焼いたチーズケーキとブラウニーの二品からスタートしました。
後に、娘さんの三貴子さんが加わると、ケーキや焼き菓子のレパートリーも増え、親子三人四脚でランプを灯し続けてきました。
 

 
ランプのコーヒーは、高橋さんのオリジナルブレンド。修行先だった信州中野の問屋に発注し、誰でも飲みやすくケーキに合うマイルドなブレンドを焙煎してもらっています。最初は、豆をいくつか用意し、お客さんに選んでもらうことも試みたそうですが、滞在時間の短い観光客に合わせ、コーヒーは一本に絞ることに。
「戸隠の美しい水があるからこそ、この味が出せる。戸隠ならではのコーヒーです」と高橋さんは胸を張ります。
 

 
そんなランプのコーヒーをさらにおいしくする秘密道具が、根曲り竹のコーヒードリッパー。戸隠の伝統工芸・根曲がり竹細工の職人井上栄一さんが考案し、近年生産が追いつかなくなっているほどの評判です。細い竹ひごで編まれた網目の隙間からコーヒーが染み出し、空気と触れ合いながら三角錐の終点1箇所から落ちる仕組みになっていて、コーヒーのまろやかさが増すそうです。
 

詩と絵本の店

おいしいコーヒーとケーキに満足したところで、もうひとつご紹介しておきたいのが、ランプは、「詩と絵本の店」であるということ。
定期的に絵画や写真のギャラリーになる店内の壁。よく見ると、詩人・谷川俊太郎さん直筆の詩が飾られています。
 

 
高橋さんと谷川さんとのご縁は?
 
「私の一番の友人が、岩波書店で児童文学の編集者をやっていて、谷川俊太郎さんと心理学者の河合隼雄先生の本を作るということで、戸隠に連れて来られたのがきっかけでした。それ以来、すっかり戸隠を気に入られて、河合先生と谷川さんがここで、詩の朗読会を開いてくださるようになったんです」
 
通算8回行われたという詩の朗読会。残念ながら、河合先生は2007年に他界されましたが、その後も、谷川俊太郎さんは定期的にランプを訪れ、息子で作曲家の賢作さんとともに、コンサートと朗読会を開かれたこともあるそうです。
 

 
おいしいコーヒーとケーキ。そして、ランプに寄せる温かな思いが詰まった本たち。
もしかしたら、ランプに流れるのんびりとした時間が、最高のご馳走かもしれません。
 
 
 
<info>
喫茶ランプ
住所:長野県長野市中社3531-1
TEL:026-254-2360
営業時間:9:00〜21:00
定休日:木曜日
http://www.tgk.janis.or.jp/~lamp/
 

(2018/10/31掲載)

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