No.79
善光寺びんずる市
ナガラボ編集部のマイフェイバリット
毎月第2土曜日開催 | 多様な表現が交わる開かれた場
文・写真 小林隆史
地域の人と人とをつなげる「ご縁の場」として
年間約600万人(※1)の人々が訪れる、信州のシンボル『善光寺』。7世紀から続く歴史の中で、人々の参拝に限らず、芝居や季節の行事に集う場として親しまれてきました。そんな『善光寺』で、2013年から地域の人々による新たな催しがはじまりました。それが『善光寺びんずる市』です。
(※1:善光寺公式HP参照)
クラフト作家、将来お店を出そうと夢見るパテシェ、市街地の飲食店や中山間地の農家などが、ジャンルを越えて、県内外から集うイベントです。毎月第2土曜日に定期開催され、出店者数は多い時で150組。善光寺の境内で、さまざまな食べ物や手作り品が並んだ様子は、実に賑やかで活気に溢れています。そのありさまには、『善光寺びんずる市』のコンセプトがそのまま映し出されています。
『善光寺びんずる市』の公式ホームページにはこう記されています。
「2013年 びんずるさんの300歳をお祝いして開催される事業の一つに
【手づくり】というキーワードをあてはめてみたら『善光寺びんずる市』になりました
昔からお寺というものは地域のコミュニティーや交流の場としての役割を担っていました
地域の人と人を繋げる「ご縁の場」として再認識していくためにはじめていきます
趣味からはじめたママの手づくり品から プロのクラフトマン
中山間地の農家さんや これからお店を出そうとしているパティシエまで
こだわりの手仕事が広がって 人と人とが繋がっていきますように……
手仕事の先にはいろんな物語が存在していることでしょう
子供も連れてきて家族で一日楽しみながら商売をしたい
手づくりの面白さをみんなに体験してもらいたい
つくった物を広く多くの方に知ってもらいたい
これから商いをやるためのステップにしたい
はたしてこの『善光寺びんずる市』が
みなさんの手でどんなカタチになってゆくでしょうか
祈りの場から さらにもう一歩 自ら踏み出す世界に明るい未来があること信じて」
(『善光寺びんずる市』公式HPより)
学生や社会人、まちの力を合わせた手づくり市
「コミュニティづくり」や「場づくり」の必要性がささやかれる昨今において、『善光寺びんずる市』は、お寺がその役割を担う貴重な事例と言えます。さらに特徴的なのは、市内の大学生や社会人が、スタッフとして運営に携わっていることです。長野県短期大学2年の犬飼ももこさん(松本市出身)は、2017年の5月から、毎月運営に参加。学校生活だけでは味わえないやりがいを感じているそう。
「運営スタッフ『子びんずる隊』に携わるようになったきっかけは、『プロジェクト信州』というサークル活動に参加したことでした。松本から長野に引っ越してきて、長野のことをもっと知りたいと思っていたので。
一番の思い出は、地域の講師を招いて開いた『根付紐づくり』のワークショップの企画を任されたことでした。講師の方や他の『子びんずる隊』の人たちと協力したり、翌月また来てくれた参加者の方に『この前はありがとう』と声をかけられたりして、とても嬉しかったです。学校やアルバイトだけでは出会えなかっただろう人たちと出会えました。大学時代の貴重な経験です」
地域の人たちの表現が、文化になる
学校のフィールドを越えて、色々な人との出会いに恵まれた犬飼さん。こうした若者が地域に結びつくきっかけが、『善光寺びんずる市』にはあるのかもしれません。
善光寺界隈の地域文化を後世に残す『門前文化会議』の立ち上げや、長野市東後町にある『ガレリア表参道』の企画運営に携わり、門前界隈の地域文化に数十年関わり続けてきた『ISHIKAWA地域文化企画室』の石川利江さんは話します。
「私も実行委員会の一員として関わってきて、『善光寺びんずる市』には多様なコミュニケーションが生まれているのを感じてきました。こうして出店者だけでなく、ご住職も学生も、地域の方も、みんなでひとつのことをつくりあげる機会が、時間をかけて『まちの力』に変わっていくのではないでしょうか。
寺という場所はかつて、芝居や大道芸を楽しんだり、学んだり、人が集う開かれた場でした。善光寺がそうしたお寺の在り方を、もう一度取り戻せたらいいなと思います。
『善光寺びんずる市』がはじまったことで、地域の方の多様な表現が交わる場になっています。これがひとつの文化になっていくことを、楽しみにしています」
初開催から5年経った今でも、盛り上がりが続く『善光寺びんずる市』。人が集い、多様な表現が交わる新しい「場」に、ぜひ一度足を運んでみては。
<info>
「善光寺びんずる市」
善光寺境内にて
毎月第2土曜日開催
http://binzuru-ichi.com