No.020
ながはり
朱実さん
イラストレーター/グラフィックデザイナー
全力で生活を楽しむ
ママさんイラストレーター
文・写真 Takashi Anzai
普段は漫画を読まない僕ですが、ながはり朱実さんの漫画だけは別です。
たった一コマでも、そこには温かみのある笑いのネタが仕込まれていて、少し経ってから読むとまた笑えます。
嫌みを感じさせずに人を笑わせるのはとても難しいことですが、表情豊かなイラストに手書きで添えられたセリフやキャプションは、洞察力が感じられ、そこが笑いのツボをくすぐります。
漫画と表現してしまいましたが、ながはりさんの職業は正しくは「イラストレーター」です。しかしその仕事ぶりは、イラストレーターの枠を超えていると感じてしまいます。
長野朝日放送のHPで連載している「信州人 生態哲学」では、長野県民の特徴を捉えた一コマ漫画を連載しています。
そこで描かれるのは、リンゴ贈答用の箱だけ(中身なし)が売っているホームセンターや、野沢菜が並ぶこたつで繰り広げられるエンドレスな茶のみ話など、信州人なら思わず「あるある」と頷き、にんまりしてしまうエピソードの数々です。
「夫が九州出身なので、夫の発言からヒントを得ることが多いですね。私は生粋の信州人ですから、当たり前になっていることも多いです」
ひとコマで「そうそう」と頷かせ、同時にクスリと笑わせる
朝日新聞長野版で連載してきた「ながはりさん家の子育て事情」は、初めての妊娠、出産、育児に振り回されながらも親子で成長していくドタバタ劇が、多くの人の共感と笑いを誘い、単行本化されました。連載は、地方版としては異例となる6年を超えました。
「もともと子育て漫画が描きたかったわけではないんですが、何気なく新聞社の人に提案してみたら、『やってみたら?』と言われちゃいまして。タイミングよく自分がやってきた仕事と人生がリンクして、”子育てをしながらイラストレーターをやっている人”というポジションにつくことができました(笑)」
「ながはりさん家の子育て事情」では、”働く母”として自身の奮闘記を赤裸々に綴ってきました。連載は妊娠時から書き始め、その後生まれた長女も今年度は小学校に入りました。
「結婚する前までしっかり仕事をしていたから、子どもができても、腹が据わっていませんでした。仕事もしたいし、子供もいるし、両方一緒にやろうとしてストレスが溜まっていた。
今は仕事の方は謝りながら、無理せずに、これしかできませんと言ってしまっていいのかなというバランスが分かってきた感じです」
ちんどん屋の活動で演奏しているアコーディオンとながはりさん
主に紙やWebなどの媒体での仕事が多いながはりさんですが、自らの可能性を広げる活動にも積極的です。
デザイナーやアクセサリー作家など、多彩なジャンルの仲間たちと須坂市で共同運営している「アトリエとお店、ときどき教室 ヤンネ」。そこでは、ながはりさんはもちろんそれぞれのクリエイターらのアイディアで生み出された商品を販売しています。ながはりさん も自身のイラストを取り入れたステッカーなどを出品していますが、そこにもやはりユーモアがあふれていて思わず手に取ってしまいます。
そんな彼女が現在、活動しているのが「ちんどん屋」というから思わず笑ってしまいそうになりますが、本人はいたって真剣。クリエイター仲間とチームを結成し、さまざまなお祝い事に顔を出します。
イラストレーターとしての発想力もそうした”真剣に”遊ぶことによって引き出されているのかもしれません。
昨年は、「ながはり朱実と楽団つきかげ」というバンド名で「ジェームスブラウンと少女マンガの融合」をキャッチコピーにライブを行いました。40歳でフリフリのロリータドレスを身にまとい、クオリティの高いバックバンドのメンバーに臆することなくボーカルを務め、寸劇とMCで聴衆を笑いの渦に巻き込みました。
「そういうのを一回やりだすと、あれやってみたら? これやってみたら? と言ってくれる人だとか、巻き込まれてくれる人だとかがいて、それが楽しいですね」
「楽しく生きていると、楽しい人が周りにいっぱいいるような気がするし、『楽しそうだから何かしない?』って言ってもらえる。だからいつも『楽しい』が前面にあります。
今、一番優先して楽しいものにしようとしているのは、娘の保育園の謝恩会(笑) 料理も花も今までとはまったく違うものにしようと思って」
中野市出身で、短大卒業後、長野市のデザイン会社に就職。以降は長野市で過ごしています。「出会う人に恵まれた」というとおり、いつも楽しげな人が周りにいる印象のながはりさん。長野市民のイメージについてはこう語ります。
「根がやっぱり真面目、かつ気立てがいい。すごく人のことを考えてくれたり。人としては付き合いやすい人が多いと思います」
「話好きな人も多いと思います。話すようになるまでには時間がかかるけれども、話してみると本当は話したいことがいっぱいあったんだろうなと。そういう奥ゆかしさはすごくいいなって思いますね」
長女の小学校入学とともに、仕事の方も新たなステージに足を踏み入れようとしていると話してくれた、ながはりさん。次のステージでも、人が羨むような楽しさ全開の活躍を見せてくれるでしょう。
ながはりさん考案のステッカー
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